お待たせしました、パンケーキです
パンケーキ屋でお兄ちゃんの話を聞いて、私は思わず泣きそうになった。
「せっかく可愛いんだから、もっと格好いい服着て、もっと目立て。そんで皆の注目集めて、一杯コクられるようなモテ女になれ。一応付き合う奴は、最初に俺のところに連れてこいよ」
でも、泣いてるなんて思われたら嫌なので必死で涙を堪えた。
「……だったら最初からそう言えばいいじゃん」
「言ったところで、お前は絶対遠慮するだろ。今日だって、だったらパンケーキいらないって言っただろう?」
う、図星。こんな服着ろって言うなら、絶対逃げてた。
「へへ、伊達にお前の兄やってないんだぞ?」
「うう……それで、どうして皇子ロリータなの?」
そうだ。お兄ちゃんの言いたいことはわかったけど、どうしてこの服装なんだろう?
「いや、いろいろ理屈はつけたけど、とりあえずお前のロリータ着てるところ見てみたいなーって思ったわけ。でもワンピースって感じでもないよなーって思って調べてたらこれじゃん! って思って、ジュンさんからもらったお店のアカウントに連絡して、今に至ってる。お前の写真見せて、ジュンさんに似合いそうな服選んでもらった」
そうか。ママもだけど、ジュンさんもグルだったんだ……。そう思うと、みんな私に可愛くなってもらいたいって気持ちがたくさん詰まってるんだなあ、この服。
「それにさ、今お前は王子様なんだからもっと胸を張れ。俺が従者にでも何でもなってやるから、目一杯楽しめ。俺だって女の子になったんだぞ?
そういうお兄ちゃんは優しかった。ママの言うとおり、本当にこいつは優しい奴なんだ。
「本当にさあ……兄って奴は理不尽だよね」
「こっちこそ、妹って奴はいじり甲斐があって楽しい」
そして、どちらともなく笑った。
笑いながら、ようやく私はわかった。
やっぱりお兄ちゃんのこと好きだから、私のこと見てくれないんじゃないかって不安になってたんだ。でも、お兄ちゃんはちゃんと私のこと見ててくれる。じゃあ、もうそれでいいじゃん。
私は私で、お兄ちゃんはお兄ちゃん。
どんな格好してても、ちゃんと私たちは兄妹の絆で繋がってる。
それがわかったから、何だかしばらくモヤモヤしていたのものがすっきりした気がする。
「お待たせしました、季節のフルーツパンケーキです」
私たちの前に、大きなパンケーキがふたつ運ばれてきた。生クリームの上にりんごとぶどうがたくさん乗っていて、その上に栗のグラッセがふたつ並んでいる。
「ほら、食おうぜ」
「うん、じゃあ切ってよ」
私は兄貴の前に、私のお皿を置く。
「自分で切れよ」
「私、今日は王子様なんですけど?」
私がニヤっと笑うと、兄貴も同じ顔で笑う。
「……しょうがないですね。承りました、殿下」
「うむ、よきにはからえ」
ふふふ、何だかこういう風にお兄ちゃんとふざけるのって久しぶりな気がする。私はお兄ちゃんの皿からりんごをひとつ、フォークで拝借する。
「あ、俺の」
でも、お兄ちゃんはそれ以上何も言わなかった。私はりんごをひとくち囓った。
とってもおいしいパンケーキだった。
***
パンケーキを食べてから、帰り道で私はあることに気がついた。
「ところで……誰か好きな
「は!? 何を根拠にそんなことを!?」
へへ、図星。
「女のカンよ、カン」
大体、天然の超マイペース野郎がこんなに女性について考えるなんておかしいと思ったんだ……でも今日で確信した。
こいつ、私で予行演習したな!?
……まあ、いいや。それだけ私は信頼されているってことだ。
「何だよカンって……わかんねえよ、女怖いよ……」
「で、誰なの?」
私の足取りは軽くなった。これでしばらく、兄貴をいじるネタに事欠かない。
「言うかバカ! じゃあお前も言えよ、私は中学のときーバスケ部のー」
私は慌てて兄貴の言葉を遮る。
「バカそれ以上喋るな!」
「あんまり調子に乗るなよ」
それから家に帰って、私の皇子ロリータの大撮影会が始まった。ママはもちろん、今度はパパも兄貴もみんな私の写真を撮りたがる。
ふふ、普段と違う格好ってやっぱり楽しいな。
今度はどんな服を買ってもらおうか。
今度はお姫様みたいな服にしてもらおうかな。
だって、みんな王子様にもお姫様にもなれるんだから。
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