もうバカ、アンタなんか知らない!

 王子様みたいな少年の格好になった私は、そのまま兄貴とパンケーキを食べに行くことになった。


「お、すっごく可愛い王子様がいる。誰だ?」

「やかましい」


 からかう兄貴に私は真っ赤になる。こいつやけにニヤついてると思ったけど、これを期待して笑ってたんだ。畜生、こんな奴がニヤニヤするためだけに私はこんな罰ゲームみたいなことしてるのか……。


 ほーら、道行く人がみんな私のこと振り返るじゃん。うわーコスプレしてる、とかちょっとイタイ子だよね、とか思ってるんでしょ、どうせ。


「ほら、みんなお前を見てる」


 この事態の元凶のボケカスが煽ってくる。


「……お兄ちゃんのせいでしょ」

「違う。前からだぞ」


 前からって、前っていつのことよ。道行く人が振り返るのはわかってたけど、それって私を見てるわけじゃなかったし。


「あのな、お前もっと自信持てよ」

「え?」

「王子様なんだから、堂々と歩けって」


 そう言われても、さっき言われて急に履いた靴で歩くのは難しいし、私なんかがこんな格好してもなあって思うから……。


「俺は可愛い妹と歩けて幸せなんだけどなあ」

「……ばーか」


 バカだ、こいつ。アホの極みに辿り着いてる。最悪。もう死にたい。


「へへっ」


 何が「へへっ」だよ。人にこんな服着せておいて……。


「そら、着いたぞパンケーキ屋」


 お兄ちゃんが指さしたところに、行列が出来ている。人気店なんだなあ。


「予約するの大変だったんだからなー」


 行列の脇を通って、私たちはパンケーキ屋に入る。並んでいる人たちも私をじっと見ているみたい。本当に恥ずかしくて私はパンケーキどころじゃない。


「11時に予約した相模さがみです」

「はい、お席までご案内しますね」


 ウェイトレスに案内されて、私たちは窓際の明るい席に通された。


「じゃあ、これふたつ」


 私にメニューを見せる前に、お兄ちゃんが勝手に注文してしまった。一体何を注文したのか、よくわからなかった。本当に勝手なんだから。


「かしこまりました。焼き上がりまでお時間少々かかりますのでご了承ください」


 そう言ってウェイトレスはいなくなった。


「……なんのつもりなの?」

「え? 可愛い妹のために可愛い服を買ってやっただけだぞ?」


 お兄ちゃんはとぼけた顔して水を口にしているけど、こいつが腹に何か抱えているのはよーくわかる。なんというか……妹としてのカンだ。


「そうじゃなくて、今日のお兄ちゃんおかしい。説明して」

「説明? 面倒くさいから聞かないほうがいいぞ」


 わかってるんだ、自分が面倒くさい奴なの。


「いいから、教えて」

「じゃあ言うぞ」


 すると、お兄ちゃんは急に真面目な顔になった。


「結論から言わせてもらうと……お前はカワイイ。以上」


 私の頭は真っ白になった。


 何それ、愛の告白?


 え、ちょっと聞いてないんですけど。


 私、これからどうなっちゃうの??

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