男なんて知らないもん!
パンケーキを食べに行くだけだったのに、ロリータ服専門店で私は兄貴に「男装」させられていた。
「どこかキツいところとかないですか?」
店員さんのゴスロリジュンさんもニコニコしながら、試着室の前に来る。
「……別に、ないです」
私が兄貴に着せられているのは灰色のシャツに、後ろだけ裾が長くて襟元がかっこいいベスト、黒くてかっこいい半ズボンに合わせた黒いハイソックス。みんなデザインがところどころ「ゴスロリ」に近い。
これって、お坊ちゃんというか王子様みたいな感じかな……?
「ふふふ、お似合いですよ」
ジュンさんが手を叩いて褒めてくれる。
「……で、これは何なの?」
「だーかーらー、似合うと思ったから買ってやるんだよ。似合ってるじゃないか」
似合ってる? そうかな?
「髪の毛はこれでまとめるといいかもしれませんねー」
ジュンさんが白いリボンで髪の毛を後ろでひとつにまとめてくれる。ますます「王子様」っぽくなってしまった。
「うん、いいですねー。これでこそ皇子ロリータ!」
「おうじろりーた?」
そう言えば、ロリータにもいろんな種類があるって言ってたな。甘ロリだのゴスロリだの、あとなんだっけ、姫ロリだっけ?
「そうです。ゴシックな感じの少年装を最近では皇子ロリータって呼んでるんです。そこから派生して実際に男性用のゴシック装束もありますし、ロリータも幅広いんです」
ふーん……これもロリータなんだ……。
って、そうじゃなくて!
「で、なんで私がその皇子ロリータとかいうのを着なくちゃいけないの!?」
いろいろよくわからないことになってる私は、ボケカスに現状の説明を求める。
「お礼だよ、お礼。いろいろ付き合ってくれたから」
「それにしても、お金はどーすんのこれ!?」
「俺の小遣いに加えて、娘の男装って言ったらお母さん銀行が融資してくれた」
ママ……ママも絡んでるのかコレ……。
「いーじゃないか、そこの靴履いて行くぞ」
気がつくと、試着室の前にかっこいい靴が置いてあった。私が履いてきたスニーカーだと、この格好に合わないもんなあ……って、ちょっと待った!
「待って! これ着たまま行くの!?」
「いいだろ? 着て帰るって奴だ、セレブだろう?」
いやいやいやいや!!!!
こんなコスプレみたいな格好して街中歩けっていうの!?
「だって、こんな格好で、街中で!?」
「俺はピンクのワンピース着て人前でキスしたぞ」
うう、それを言われると何も言えない……。
「じゃあジュンさん、また今度」
「はーい、また来てね-! ありがとうございましたー!」
兄貴は私の着てきた服と靴をお店の紙袋に入れてもらって、それを持っている。これから私はこの小っ恥ずかしい格好で外に出なくちゃいけない。一体何の罰ゲームだって言うの!?
「さーて、行くぞ。迷子になるなよ、王子様」
渋々お店から出る。何だか道行く人が私を見てるんじゃないかって不安になる。「あ、あの子コスプレしてちょっとイタイ子だー」って思われるんじゃないかな……大丈夫かな……。
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