なんで私が着替えるの!?
パンケーキを食べに原宿に来たはずの私たちは、何故かロリータ服専門店でまた紅茶を飲むことになった。
「ねえ、何のつもりなの?」
「何って、ここは服屋なんだから服を買いに来たんだぞ?」
しらばっくれているのか、いつもの天然なのかわからない返しをされてしまった。
「はい、お待たせしました」
ジュンさんがビニールに包まれた黒い衣装を持ってきて、テーブルに置いた。
「サイズを見るのに、着てもらってもいいですか?」
そう言ってジュンさんは私の方を見る。
「え、これ私が着るの?」
「そうだよ」
紅茶を飲みながら、しれっと兄貴が言う。
「そうだよって、聞いてないんだけど」
「言ってないからな」
……ああ、もうこいつ本当に面倒くさい。
「いいから着てこい。サイズ合ってると思うけど、俺が思ってるよりデブだったら嫌だからな」
「あー! そうやって人をデブ呼ばわりする!」
「うるさいな、いいからさっさと着てこい」
まったくもう、しょうがないな……。
私は席を立つと、渡された衣装の包みを持って試着室に行く。ビニールの包みの上からは、黒い服だということしかわからない。
もしかして、私もジュンさんみたいにゴスロリの格好をしろって言うのかな?
特にこういうファッションがしたいってこだわりがあるわけでもないけど、私にロリータなんて似合わないに決まってるのに、どうしてそういう意地悪するんだろう。私がお兄ちゃんの甘ロリを面白がったから? だから仕返しに私にもロリータ着せようっていうの?
それにしても、あのニヤけた面が気になってる。彼女を家に連れてきた時だって、あんなにニコニコしてなかったのに。一体どういう風の吹き回しなんだろう。それにロリータ服って普通の服よりお高いんじゃなかったっけ? 結局甘ロリ女装だってクラスカンパを足しても少し足が出たって言うのに、私に一体何を着せたいんだか……。
私は試着室の中で包みを開けた。黒いドレスが出てくるかと思ったけど、入っていたのは黒いドレスじゃなかった。
これは、半ズボン?
包みの中にはシャツや靴下も入っている。全部着替えなければならないので、私は狭い試着室の中でごそごそすることになった。着替えている間、少しだけ試着室の外が気になった。今はテーブルで兄貴とジュンさんが話をしてるんだろうか。一体どんな話をしているんだろう。
「……これで、いいのかな?」
私は試着室の鏡に着替えた自分を映して、少しドキドキする。
「お、終わったか?」
試着室の外から間の抜けた兄貴の声が聞こえてくる。スタンバイしてたんかい。
「終わったけどさあ……一体これは何なの?」
「何なのって、ロリータ服だよ」
「だから、何で私が着なくちゃいけないの?」
「お前に似合うと思ったから」
いや、そうかもしれないけどさ……一体こいつはどういうつもりで私にこれを着せたんだろう?
「着替え終わってるんだよな? はやく出てこいよ」
「……やだよ。脱ぐ」
「脱ぐな、見せろ」
「やだ、なんとなく」
「開けるぞ、いいな?」
ああもう! 勝手にカーテンに手をかけるな! 開けるな!!
どうしてこうも兄って存在は理不尽なの!!
「……いいじゃん、それ」
うう、恥ずかしい。別に用意された服を着ただけなのに、なんでこんなに恥ずかしいの?
兄貴は「男装」させられた私を見て、とっても嬉しそうだった。
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