パンケーキリベンジ、じゃないの?

 その次の土曜日。私はまた兄貴と原宿まで来ることになった。


「本当に今度は大丈夫なんでしょうね?」

「ああ。念のために席の予約もしたし、ばっちりだ!」


 私たちがもう一度原宿までやってきたのは、パンケーキのためだった。原宿にまで付き合わせた上に、私が希望するパンケーキを食べさせられなかったのが兄貴の心残りだったようで、こうしてリベンジに連れてきたんだそうだ。


「でも、その前にちょっと寄りたいところがあるんだ」


 兄貴はまっすぐパンケーキのお店に行かず、どこかへ私を連れて行こうとする。これ以上何をする気なのか、私には全く理解できなかった。


 土曜日ということもあって、歩いている人は多い。友達同士、親子連れっぽい人たち、おそらく恋人同士。そして私たちは、一応家族だ。


 私はこっそり兄を見上げる。中身はともかく、見た目だけはとてもよろしい。背も高いし、モデルさんみたいだねって昔からよく言われていた。さっきから何人もこっちを振り返っているのがよくわかる。その隣を歩く私なんて、みんなきっと見てないんだろうな。


「ねえ」

「なんだ?」


 ……うーん、なんて言っていいのかわからない。でも声をかけちゃった手前、何か話をしないといけないしなー。


「あのさ、中学の頃よく一緒に帰ってたじゃない?」

「ああ、あれか」


 兄貴はちょっと空を見上げて、そして懐かしそうな顔をする。


「それがどうした?」

「なんかさ、どうして迎えに来てたのかなあって、思ってさ……」


 もしかして、こいつは本当に何も考えてなくて何となく私のことを迎えに来てただけだったのかな。私が変に勘違いして深く考えすぎなだけだったらいいんだけど。

 

 私は本当に何となく聞いたつもりだったんだけど、いつにもなくお兄ちゃんは真面目な顔をしている。あの真面目に考えるだけ考えちゃって面倒くさくなる前の表情だ。


「あ、別に深い意味はないけど……ただ聞いただけだから、本当に」

「あの時はなあ……ここで話すと長くなるし、また後でな」


 ええ……なんか重い話になりそう。せっかくパンケーキ食べたかっただけなのに。それ以上何も聞けなくて、私は兄貴についてしょぼしょぼ歩いていく。


「さーて、着いたぞ」

「着いたって……ここ、ワンピース買ったお店じゃない」


 そこは女装するって決めて最初にやってきたロリータ服専門店だった。2回目だから今度は物怖じせず、私たちはお店の中に入る。


「こんにちはー」


 兄貴が声をかけると、奥から知ってるゴスロリの人が出てくる。えーと、この人は……ジュンさん、だっけ?


「いらっしゃいませ、お待ちしてました!」


 お、お待ちしてました?


「今日はよろしくお願いしますー」


 兄貴がヘラヘラしながらジュンさんと喋ってる。あいつ、いつの間に仲良くなってるんだろう……?


「それじゃあ、少し掛けてお待ちくださいね。紅茶持ってきますから」


 私たちはカタログがいっぱい置いてあるテーブルに案内された。そっと兄貴の顔を見ると、この上なくニヤけた面をしている。こんなに嬉しそうな顔はあんまり見たことがない。


 高校に合格したときだってそんなに笑ってなかったぞ……? 一体今から何が始まるっていうのさ!

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