第7章 忘れてないよねパンケーキ

よかったね、2位だってさ!

 私たちが学園祭に行った次の日、いつもより遅く兄貴が帰ってきた。後夜祭だのなんだのやってきたんだろうな。いいなあ。


「やったぞ! 2位だった!」


 よっぽど嬉しかったのか、指を2本立ててリビングに飛び込んできた。


「2位って、2年生で2位ってこと?」

「違う、学校全部で総合2位だ! 3年を抑えて2年が2位ってすごいんだぞ!」


 それは、そうかもしれない。3年生の発表はどこもクオリティ高かった。でもやっぱり、あのキスシーンの衝撃はどこのクラスよりもすごかったと思う。


「ちなみに1位はどこだったの?」

「吸血鬼のところ。流石にガチのゴスロリには負けたね。でもゴスロリやった先輩に顔覚えてもらって、俺は嬉しかったけどな」


 ふふんと胸を張る兄貴。なんでも、そこのクラスはマジモンのコスプレイヤーが数人いて、クラス企画と連動させて雰囲気を作ったとかでかなり評価が高かったそうだ。


 明日の月曜は片付けで半日だけ学校に行って、それからクラスで打ち上げに行くそうだ。楽しそうだな。


「あー疲れた」


 そう言って、ソファに倒れそうになった兄貴をママがブロックする。


「疲れたならさっさとお風呂入って寝なさい。ソファで寝落ちは禁止」

「はいはい……」


 兄貴は本当に疲れているっぽい身体を起こして、カバンを持って自分の部屋に行こうとした。


「自分の部屋でも寝落ち禁止。カバンは置いたままでいいから、先にお風呂に入りなさい」

「わかったよ……もう、うるさいな」


 母親歴17年のママは何でも先回りしてくる。兄貴はぶつくさ言いながら、リビングにカバンを置いたまま風呂場に向かおうとする。


「そうだ、朱美あけみ。次の土曜空いてるか?」


 急に兄貴に話しかけられて、私の心臓がどくんと跳ね上がる。


「えっ!? 多分空いてるけど?」

「じゃあ空けとけ。いいな?」


 全く、本当に兄って存在は理不尽で自分勝手なんだから……。


「わかったよ。それよりさあ、なんで『オリジン』ってあだ名なの?」


 何となく聞いた私に、今度は向こうがドッキリした顔をする。


「ええ、それは、ほら、あのな、その……」


 兄貴は何だか急にもじもじし始めた。


 え、私何か聞いちゃいけないこと聞いたの? 


「名字が相模さがみだから……それだけでさあ、特に意味はなくて……」


 兄貴はそう言って、逃げるように風呂場に行ってしまった。その後、リビングにいたパパが一番最初に吹き出した。ママも続いて「ホントくだらないわね」って苦笑いする。


 相模、さがみ、サガミ……?


 何か引っかかるものを感じて、私はスマホで調べてみる。


 オリジン……オリジナル……?


 ああ!


 もう、真剣に考えて損した!!!


 男ってバカ! 本当にバカ!!!


 一体なんでそんなバカなこと考えていられるの!?

 一気に自分の名前まで何だか嫌になっちゃったじゃん、もう!!


 ……それにしても、次の土曜日空けておけってどういうことだろう? 原宿にもドラストにもメイクの予行演習にも付き合って、これ以上一体何を付き合えって言うんだろう?


 本当に兄って奴はよくわからない生き物だわ……。

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