おうちに帰るまでが学園祭です?
それから私はママと一通り学園祭の企画を巡って、家に帰ることにした。
3年生のクラスのお化け屋敷はかなり気合いが入っていて、怖いというより芸術的でとても楽しかった。1年生のクラスの縁日でもらった小さな金魚の玩具は、私のカバンの中で揺れている。
「いやー、ケンちゃん乙女してたねー!」
ママは息子が完璧に女装していたことにご満悦だ。クイズが終わってから、男装している
そして私は……私は、どうなんだろう。
なんというか、結局私ってアレの何なんだろうっていう思いが強くなってしまった。そりゃ妹だってのはそうなんだけど、妹としてどんな顔をしていいのかよくわからなくなってしまった。
めぐちゃんにブラコンと思われていたのもちょっと衝撃で、そして完璧に女装して出てきたアレと小西さんが仲良くしているところを見て何かモヤモヤしたのも衝撃だった。自分自身が何だか情けない。
なんだか自分がちっぽけなんだって思うと、少し悲しい。
「ふふ、しかし本当にプリキュアになるとはねー」
「なにそれ?」
ママの言葉に私は耳を疑う。え、アイツは小さい時からゴリゴリの仮面ライダー派だったじゃん。プリキュアになりたいなんて言ったの聞いたことなかったんだけど?
「あーちゃんは覚えてないかもしれないけどね、ケンちゃんってお兄ちゃんなんだなーって思った話があるのよ」
それからママは、昔のことを話し始めた。
「ケンちゃん、仮面ライダー好きでしょう? 幼稚園くらいの頃は毎日仮面ライダーごっこしてて、あーちゃんも一緒にやってたでしょう? 懐かしいわねー」
そう言われると、そうだった気がする。いつも私が逃げる人か仲間のライダーで、アイツは自分の好きなライダーになってたんだった。積み上げた布団からよく飛び降りていたような記憶が蘇ってくる。
「それでね、私が『たまにはあーちゃんの好きな遊びをしてやりなさい』って言ったら、『わかった、じゃあ今度はプリキュアごっこする!』ってあーちゃんにプリキュアごっこしようって言ったら、あーちゃんに『男はプリキュアになれないからダメ!』って言われたって凹んでてねー。結局、仮面ライダーごっこしてたのよ」
……そんなことあったかなあ?
家でプリキュアごっこをした記憶はないけど、買ったばかりのプリキュアのおもちゃを壊されて大泣きした記憶ならある。あれは忘れたくても忘れられない思い出だ。
「だからね、ケンちゃんはケンちゃんなりに女の子に寄り添ってるんだなーって思ったのよ。ああ、この子は優しい子でよかったーってお母さんは嬉しくてねえ」
優しい? 優しいかな?
……確かに優しいのかもしれないなあ。
小さい頃は何かとしょっちゅう叩いてきたし、お皿に嫌いな物をこっそり乗せられたし、何かと物は取り上げられたし、最近は気を遣ってるのか何なのか妙にボケてくるし……。
でも、一緒にいてすごく楽しいんだよなあ。楽というか、感性が一緒だから何を話しても同意してもらえる安心感というか、私の延長にいる人、みたいな感じ。
最初はお兄ちゃんが女装することをただただ面白いって思っていたのに、今となってなんだか私の知ってるお兄ちゃんが遠くに行ってしまった感じがして寂しい。私にとって、お兄ちゃんは一緒に仮面ライダーごっこする人だったのに。
もちろんこんなことを考えてるなんてママには言えず、私は曖昧に「そんなことあったんだー」と返事をしておいた。
家に帰って、私は例の動画で盛り上がるパパとママの間に入っていけなかった。そして帰ってきたお兄ちゃんにも「よかったね」としか言えなかった。元気がなさそうな私に、ママが「あーちゃんは疲れたのね」と言ってそっとしてくれたのは少し嬉しかった。
私って、やっぱりブラコンなのかな……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます