演技の真似をするぞ!
絶望的に演技ができない兄貴のために、私は「女らしい振る舞い」をするプロの動画を検索する。
「……歌舞伎?」
「そう。歌舞伎って男がみんなやってるんでしょ」
「でも俺はロリータになるんであって」
「和風か洋風かの違いはあると思うけど、参考にはなると思うよ」
私はこの前、授業で歌舞伎の動画を見せられたのを思い出した。先生が何度も「出てくるのは全員男だからな」と言っていたけれど、やっぱり
「……これがプロの動きだね」
「この人、男なんだよな?」
「歌舞伎なんだから男に決まってるでしょ」
「うーむ……」
なんというか、指の先まで神経が行き届いているというか、優雅で華やかという言葉がぴったりくる動きをしている。姿形だけ女の真似をしているわけではないことがよくわかる。
「なるほど、所作ひとつひとつを丁寧にすると女っぽく見えるか?」
何かヒントになったのか、兄貴がよくわからない感想を言う。
「やってみれば?」
「よし」
そう言って、バカなりに「丁寧に」行動しようと試みる。大仰に立ち上がり、すたすたと歩き回り、さっと身を翻し、そしてソファに戻ってきた。
「どうだ?」
「女というか、どっちかというと『さてもさても』という感じ」
「うーん、俺もそんな気はした……」
丁寧に行動をした結果、アクションが大げさすぎて女らしいというより狂言の動きに近くなってしまった。本当にセンスがないんだなあ。
「でも、さっきの台詞よりも『演じよう』という感じは伝わってきた」
「お、少しコツを掴んだか?」
いや、全然掴んでないよ。今ので何がわかったんだアンタは。
「とにかく、見るなら本物の女よりも演じている男を見た方がいいって」
「確かにそうかもしれないな、さんきゅ!」
そう言うと兄貴はスマホで何やら検索を始める。
「それでひらめいたんだけど、男の娘動画を見れば結構参考になるのでは?」
「最初からそれでいいじゃん!」
結局そういうところに行き着くのか。まあ、何かが解決したようで何よりだ。キラキラ女子本より収穫はあるだろう。
「……うわ」
変な呻き声が聞こえたので、私も兄貴のスマホを覗き込もうとした。
「やめろ、女子供は見るな!」
スマホをひっくり返して兄貴が叫ぶ。
「何よ、一体何が出てきたの?」
「たくさんのオッサンの脱毛動画……うわ、うわーないわー」
一体どういう検索をしたらそんなのが出てくるんだろう……でも見なくてよかったかもしれない。
「それで、脱毛動画見て参考になってるの?」
「いいや、全然……」
嫌なら見なきゃいいのに。呆れた私は部屋に戻ることにした。
***
それから兄貴は、何度か検索をかけてちゃんと参考になる「男の娘動画」を見つけたようだった。それを頼りに、何とか女の子の動きを勉強しているようだ。
その後、私は中間試験があったり兄貴は学園祭の準備でますます帰りが遅くなったりで、あまり顔を合わせることはなかった。何も言ってこないと言うことは順調なんだろうと思うと、少しだけ寂しい気もした。
そして、とうとう学園祭の当日がやってきた。
果たして、ちゃんと演技はできているのだろうか。
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