女はデメリットを嫌う!

 ふとしたことから始まった「男女の感じ方の違い」についての話はまだ続いていた。


「つまり『受け入れてほしい』ということは、周囲と同化したいということだよな? 確かに女子は何かと周囲との差異に悩みがちな印象だけど、同じだと何かメリットでもあるのか?」


 悩みのなさそうなマイペース野郎には、なかなか理解できない悩みだろうな。


「どうなんだろうね、そもそも女ってメリットで行動しないかもしれない」

「は!?」


 私から見ると、男はどうしてそんなにメリットばかり気にするのかって思うけどね。


「メリットがある、じゃなくてデメリットになる行動を避けるって感じかな。集団で行動するとき、目立つことはデメリットになるからしない。逆に周囲と同じだと差異が少ないほうがデメリットになる恐れがない、ってところじゃないかな」


 女からすると自明のことだけど、マイペース君には理解が難しいようだ。


「ええと、つまり相手に合わせておけば失敗するリスクが減らせるっていうわけか?」

「ま、そういうこと」


 とりあえず理解はしたようだ。納得できたかどうかはよくわからないけど。


「それで、こんな話して『女らしい振る舞い』はわかった?」

「いや全然」


 だろうね、そうだろうね。


「まあ、アレよ。女ってのは常に周囲の視線を気にして生きてるの。ファッション、化粧、立ち振る舞い、恋人がいるかいないか。もう大変なのよ」

「そうか、それは大変だな……それで、月経もあるんだもんな……」


 どうやら「女コーナー」から少し考えが進歩したみたいだ。少女入門書、いい仕事したな。


「そうねえ。どうしたって本調子が出ない期間が確実にあるし、体力だって男よりないから男が羨ましいって思うこともかなりあるよ」

「体力がない……そうか、そりゃそうだよな、女は男より弱いもんな……」


 マイペース野郎がマイペースなりに考え込んでしまった。どうやら、いろいろ思うところがあるみたいだ。


「だからさ、男の基準で女の子をいろいろ連れ回すとアウトだよ」

「うっ」

「女の子は受け入れてほしくていろいろ言ってくるわけで、アンタと議論したいわけじゃないんだよ」

「そ、そうかもな」

「まずは女の子に寄り添わなきゃいけないのに『俺の意見はこうだ』とか言われたら、それだけで拒絶されたって思っちゃう」

「……もうやめてくれ」


 ふふふ、完全に打ちのめされている。女の心を思い知れ。


「わかったよ、俺が如何に男中心で生きてきたかって……目の前に女がいるってのに、俺という奴は一体何をやってきたんだ……」


 そうだそうだ、そんなんだから彼女が出来てもすぐ逃げていくんだぞ。


「わかった、これからは心を入れ替える。俺は女になるって決めたんだ、女の心がわからないでどうするんだ」

「……心を入れ替えるのはわかったけど、それでどうするの?」

「……どうしようかなあ」


 どうやら兄貴の「女らしい振る舞い」探しは振り出しに戻ってしまったようだ。


 そもそも、一朝一夕に女の心なんか理解できるわけがないんだ。それなら最初から男が男の理屈で考えた「女らしい振る舞い」講座でも見た方が理解が早いんじゃ……?


 そうか、その手があった!


「それならプロの『女らしい振る舞い』を見てみたら?」

「プロ?」


 本物の女を見るより、男が演じる女を見た方がきっとわかりやすいに違いない。私はスマホを取り出して「女らしい振る舞い」をするプロの動画を探し始めた。

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