仕上げをしよう!
アイメイクを終えた兄貴の顔は、可愛らしい少女のものになっていた。
「ちょっと、鏡見せて!」
「ダメ、まだ終わってないんだから」
「ピンクで統一感あったほうがいいよね」
「でもドール感も出したいから、濃いめで」
選ばれたのは、ショッキングピンクのリップだった。リップブラシで派手に唇にピンクが乗せられる。
「はい、んーってやって」
「なんだよそれ」
「口紅を全体に広げるの」
「何だかよくわかんないけど……」
言いたいことは伝わったようで、兄貴は唇をもごもごさせている。余分なリップを拭き取って、梨崎さんが上からグロスを塗る。
「なんで2回も塗るの?」
「こうするとツヤが出るの」
「ワックスみたいなものか?」
「そうかもね」
一通りメイクの終わった兄貴を、2人はしげしげと見つめる。そして梨崎さんがキャリーケースに手を突っ込む。
「やっぱり、グリッター入れたい」
そう言って目の中央から目尻に向かってキラキラしたものを置く。うう、ますます可愛くなった。
「よし、これで完成。あとはさっき選んだウィッグで……」
有村さんはピンクのウィッグを兄貴に被せる。
「そしてヘッドドレスなんだけど、ピンク系のはこんなのしかなくて……」
いくつか出されたヘッドドレスを見て、私はぎょっとする。
「何これ、うさみみ?」
「うん、可愛いでしょ」
「可愛いけど……」
そのピンクのうさみみヘッドドレスは可愛らしいけれど、それだけでかなりあざとい印象の危険な香りがする。とりあえず有村さんはぽかんとしている兄貴にうさみみを装着する。
「……なんか、キャラ迷走してない?」
「それに背が高いから、うさみみで余計視線が高くなるし……」
「やっぱりこれはナシってことで」
女3人の意見で、うさみみヘッドドレスは速攻で却下された。もう兄貴は何も言わなかった。何となく察するところがあったのだろう。
「さて、本命はこっちのふたつ」
有村さんの手には大きなヘッドドレスが握られていた。ひとつはヘッドドレスそのものがピンク色のシンプルなもので、もうひとつは白いレースの中に大きなピンク色のリボンが通っているものだった。
「シンプルよりも少し豪華な方がいいかも」
「こっちについてる大きなリボンがかなりアクセントになってる」
交互にヘッドドレスをあてがい、またしても私たちは一致した意見でリボンつきのヘッドドレスにすることに決めた。
「さて、どうかな? ちょっと女の子らしく座ってみて」
兄貴は慌てて足を閉じて斜めに構えて見せる。私たちは立ち上がって、ケープをはずした兄貴を少し遠くから見る。
白いタイツにピンクのリボンやレースがたくさんついていて、袖がふんわりしているワンピース。薄くピンクがかった髪に大きなピンク色のリボンをつけたヘッドドレスをつけて、しおらしく座っている女の子がそこにいた。
「これで完成?」
その女の子が間の抜けた質問をすると、一気にバカ兄貴に戻った。私は呆れる一方で、どこかほっとしたような気もした。
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