ツケマつけるかつけないか?

 有村ありむらさんによって兄貴はベースメイクをされた。まだ変に白っぽい兄貴という印象しかない。


「先にアイブロウとチーク、それからアイシャドウは調整しようか」


 キャリーケースの中を見ながら有村さんと梨崎なしざきさんが話し合ってると、申し訳なさそうに兄貴が切り出す。


「あのさ……いい?」

「何?」

「俺、めっちゃ遊ばれてる気がするんだけど……」


 その反応に2人は顔を見合わせて、それから笑った。


「その意見は否定できないわね」

「実際ちょっと遊んでるし」

「ほらー! もう少し尊厳ってのをさあ……」


 兄貴がぼやくと、2人は真剣に諭し始める。


「でもさ、私たちも一応真剣にやってるわけ」

「だってやるなら、勝ちたいじゃない。目標は総合優勝でしょ」


 ……これって、そういうものだったんだ? そこまでこだわってるから、学校で予行演習しないでこうやって秘密にされてるってわけか……。


「んー、まあ、そうだけどさ、なんていうか、その……いいや、もう」


 兄貴が先に折れた。自分で自分に面倒くさくなったんだろうな。


「じゃあ続きやるよ。眉毛はふんわりお嬢様っぽく」


 梨崎さんはブラシでふわっと眉毛を描いていく。柔らかいブラウンの眉毛だけでもかなり印象が変わった気がする。


「次はチークね。カワイイ系にしたいから、結構大胆に乗せちゃってもいいと思う」


 チークは頬骨の上に大きくふわりと置かれ、それから明るいピンクのハイライトも入れられた。


「さて……アイメイクだけど、ツケマをつけるかつけないか問題、ね」


 これは私も気になっていた。元からぱっちり二重のまつ毛につけまつげを加えたらクドくなってしまうのでは、と思っていた。かといってナシにしていいものか、など考えていた。


「とりあえず今日はナシにして、寂しかったら本番で入れてみようか」


 梨崎さんがビューラーを取り出して、兄貴のまつ毛に当てる。


「あ、これまつ毛くるんって奴だよな? ピーラーだっけ?」

「皮剥いてどうするのよ」


 梨崎さんにさらりと流されて、兄貴は黙ってしまった。


「うーん、思ったよりまつ毛の量あるから、ナシでもいけるかも」

「マスカラを盛れる奴にすればいいかもね」


 そういう有村さんの手にはアイシャドウが握られている。


「全体的にピンクだから、アイシャドウもガンガンピンク乗せで」


 白と濃いピンクのアイシャドウがどんと瞼に乗せられた。


「さらにアイライナー。ちょっとじっとしててね、ここが大事だから」


 有村さんは濃い茶色のリキッドアイライナーを取り出す。


「目はつぶったほうがいい?」

「動かないなら、そっちのほうがいいかも」


 そう言って有村さんは閉じた瞼に丁寧にリキッドアイライナーで線を引いていく。うーん、手際がいいな。私なんてママのリキッド使ったら滲んじゃって、自分用にペンシルの買ったっていうのに。


「なんか冷たい」

「リキッドだからね、目は閉じてて。ついでにマスカラしちゃうから」


 そのままマスカラでまつ毛をモリモリに盛られた。


「いいよ、目を開けて」


 兄貴が目を開けて、私はびっくりした。


 どうしよう、ちょっと可愛いじゃん。

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