ベースメイクは白っぽく?
ついにメイクをされることになって、兄貴はかなり緊張しているみたいだった。
「あの……お手柔らかにお願いします」
「何、今更緊張しているの?」
「大丈夫、すごく可愛くしてあげるから」
何だか私も他人事のはずなのに、こっちまで緊張してきた。
「まずは……眉毛からだね。顔の毛は一応キレイに剃ってあるけど、少し形変えていい?」
「ええ、でも」
「眉毛なんて1週間もすれば元通りだから、いいね?」
「はい……」
有無を言わさない形で兄貴は同意させられている。
「じゃあ少し細めにして、それからちょっとカットするね」
「キレイに頼むよ」
「任せなさいって」
そう言って梨崎さんは兄貴の眉毛を改造する。剃ると言ってもそれほど派手に剃り上げるわけではなく、本当に少しだけ手を加えただけだった。
「はい、後は短くカットすればそれっぽくなるよ」
梨崎さんはシェーバーから眉毛用ハサミを取り出し、仕上げにちょちょっと長さを揃える。ブラシで顔に落ちた細かい毛をケープに落とし、毛を払うために一度ケープをはずす。
「
「大丈夫、だと思うよ」
それほど激太の眉毛というわけでもないし、元から手入れはされているので兄貴の眉毛が少し細くなったところで「少し細くなったな」くらいの印象しかない。言わなきゃ気がつかないかもしれない。
「それじゃあ、下地から乗せていくね」
兄貴は再度ケープを装着され、
「ちゃんとスキンケアやってるんだって? 意識高いじゃん」
「朱美にちゃんとやれって言われたから」
有村さんはちらりと私のほうを見る。
「……ふーん、いいじゃん」
なんだろう、私を見て有村さんが笑った気がする。気のせいだろうか?
「あの、今から何をするんだ?」
怯えている兄貴に、有村さんは優しく解説する。
「今塗ってるのは下地って言って、これから乗せるファンデーションっていう奴を定着させやすくして、更に色味を鮮やかにする効果があるの。これはBBクリームって言って、日焼け止めや美容液の役割もするから便利ね」
「化粧するときはみんなするのか?」
「いきなりファンデとかいうのもあるけど……大体は乗せる。仕上がりが全然違うから」
「そういうものなのか、ふーん」
理屈がわかると兄貴は大人しくなる。下地が終わると、次はコンシーラーだ。
「ファンデーションじゃないのか?」
「これは……顔の気になる部分をカバーしたり立体感を出したりする奴よ」
「そうすると何かメリットが?」
「こうすると可愛くなるの」
梨崎さんにズバっと斬られて、兄貴は黙り込んでしまった。
「目元にもコンシーラーを乗せようか?」
「もし変だったら本番ではやめようか」
なんだか打ち合わせっぽくなってきた。試しに兄貴の目元にコンシーラーが盛られる。
「ワンピースに合わせるなら、やっぱり少し明るい色がいいよね」
ようやくファンデーションだ。使い捨てのパフで白っぽいファンデーションが乗せられていく。
「あんまり色黒じゃないし、様子を見て首にもファンデ塗るか考えようと思ったんだけど……いらないかな?」
ファンデーションの後に、有村さんはハイライトを置いていく。私は有村さんのハイライトの入れ方を見て、月並みだけどメイクの勉強をしている人はちゃんとやってるんだなと思った。目元、眉間と鼻筋のTゾーン、丁寧に明るさが増して「可愛らしい」が作られていく。
こうしてベースメイクが完成した。まだ白っぽくなった、という印象しかない。これからどうなっちゃうんだろう。
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