髪の毛を決めるぞ!

 学園祭で女装する兄貴のために、わざわざ土曜の午前中からクラスメイトがやってきた。しかも女の子2人。


「まずは使うウィッグを決定しちゃおうか」


 そう言って有村ありむらさんが、キャリーケースからいくつかウィッグを取り出す。それを見て兄貴が思いっきりため息をつく。


「うわあ……」


 うわあ、じゃないんだよ。今からお前がこれをつけるんだよ。


「ワンピースの印象からこの辺を選んできたんだけど、どうかな?」


 どうかなって……すごいじゃん。


 有村さんは2つのウィッグを候補に持ってきた。ひとつは赤みがかったピンクのロングヘアのウィッグ。もうひとつは淡い金髪のやはりロングのウィッグ。


「これに大きめのヘッドドレスをつけると、いかにも『ロリータ』って感じがするよ」


 うん……私もちょっと本格的になってきたなって思った。やっぱり顔を改造するってなると、別人になるんだなって思う。


「これ、有村さんの持ち物なんですか?」


 私の質問に有村さんは照れたように答えてくれる。


「へへ、お姉ちゃんが貸してくれたの。お姉ちゃんゴスゴスのレイヤーだから」


 ご、ゴスゴスのレイヤー……? どんな人なんだろう?


「さて、どっちがいいかなー」


 有村さんが始めにピンクのウィッグを兄貴に被せる。


「あー、うんうん。ワンピースに合わせるならこっちだね」


 それから梨崎なしざきさんが金髪のウィッグを被せる。


「うん……悪くないけどさっきの見ちゃったら、どうかな?」


 梨崎さんに感想を聞かれて、私は率直に答える。


「そうですね、私もピンクのほうがいいと思います」


 私の意見に、有村さんと梨崎さんは頷く。女3人で意見が一致したところで、自分がどうなっているかわからない兄貴がぼやく。


「あのさあ……俺の意見は?」

「ああ、ごめんね。こっちのほうがよかった?」


 金髪のウィッグを見せられて、兄貴は首を振る。


「いいや……俺もピンクのほうがいいと思ったけど、なんか無視されてる気がして」


 別に私たちは無視したつもりはないんだけど……結果的にそうなったというか何と言うか。


「誰も無視してないわよ、今日相模さがみくんは座ってればいいからね」

「でも俺のことだし、俺も……」

「はいはい、次はメイクの予行演習ね」


 おお、面倒くさいモードに入った兄貴のあしらい方が上手い。これが学年がひとつ違う大人の女って奴なのかな……?


 女の子2人は一度ウィッグをしまうと、メイクの準備に入る。


「ヘアバンドある?」

朱美あけみ、貸してくれ」


 そう言えば、しっかりメイクするならヘアバンドは必要だった。この前ドラストで安いの買えばよかった。


「えー、わかったよ」


 私は洗面所に行って、自分の洗顔用のヘアバンドを兄貴に渡す。


「さんきゅ」


 デコをばっちり出した兄貴に梨崎さんがケープをかける。なるほど、何かあったときにワンピースを汚さない工夫か。


「よし、これで準備OKね」


 梨崎さんが何だかものすごくニヤっとした気がする。それを見て兄貴がちょっとビビってるように見える。兄貴からしたら、まな板の上の冷凍マグロみたいなものなのかもしれない。


 こうして兄貴の解体ショーは始まろうとしていた。

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