女の子がやってきた!

 学園祭で女装する兄貴のメイク担当がとうとう家にやってきた。


「こんにちは、お邪魔します」


 でっかいキャリーバッグを持った女の子が2人、うちに入ってくる。


「さあさあ、上がって。こっちが妹の朱美あけみ

「初めまして、よろしくお願いします」


 私は兄貴の同級生にぺこりとお辞儀をする。

 なんか私がものすごくガン見されてる気がするのは、気のせいだろうか。


「初めまして、有村ありむらです」

「私は梨崎なしざきです」


 有村さんと梨崎さん、ね。

 どんな人が来るのかと思ったけど、2人とも真面目で大人しそうな子じゃない。服装もなんていうか、普通だ。


 とりあえず私たちは兄貴の部屋に集合することになった。女の子が来るからって張り切って片付けてたけど、本当にすっごくキレイに片付いている。ああ、この人たちに普段のだらけた部屋を見せてやりたい。


「それじゃあ、早速お洋服を見せてもらおうかな」

「ふっふっふ……これだぞ」


 早速、兄貴はこの前買ってきた甘ロリ激カワピンクワンピースを2人に見せつける。


「うわ……写真よりもふわふわしてる!」

「これは……ちょっと、早く着てきて!!」


 あ、2人とも興奮してる。


「じゃあ着替えてくるからさ、ここで準備してて」


 そう言って、兄貴は衣装と共に部屋を出て行った。


「さて……今のうちに準備しますか」


 2人はキャリーバッグを開けると、中からごっついメイク道具をいくつも取り出した。


「あの、それ自前ですよね?」


 おそるおそる私が尋ねると2人は顔を見合わせて、それからにっこり笑いながら教えてくれた。


「私たちね、よくイベントとかでコスプレしてるの。だからメイクは趣味、ってところかな」

「本当は服選びも一緒に行こうと思ったんだけど、その日は外せないイベントがあってね……」


 なるほど、そういうことだったのか。そういう趣味の方ですか。私のクラスにもいるなあ。


「でも妹さんがいるから、先に服を買ってくるって言うので甘えちゃったの」

「私たちのイベントに巻き込んでごめんなさいね」


 何だか謝られてしまった。


「いえいえ、なんていうか……面白いからいいですよ」


 そう、確かに何だか最近は面白い。いろいろ自分が知らないことを知ったり、身近な人が何かに挑戦するのを見ているのは、こう言ってはなんだけどちょっと楽しいと思っている。


「お待たせ……どうかな?」


 ロリータワンピースを着た兄貴がやってきて、有村さんと梨崎さんは顔色を変えた。


「えー! ちょっとマジどうしよう!」

「ちょっと待って動悸が」

「ほら救心じゃなくて、深呼吸、せーの」


 なんだか抱き合った後、有村さんと梨崎さんは兄貴をびしっと指さす。


「カワイすぎ!!」

「拝んでいいですか!?」


 いや、確かに可愛いと思うけど、何だかそこまで言われるとちょっと妹として恥ずかしい……。


「ふっふっふ、これを魔改造できるなんて」

「さて、どうしちゃおうかしら?」


 そう言って2人はキャリーケースの中を漁る。あ、兄貴が自分の家なのにタジタジしてる。これはママが目の前にいるときと同じ困り方だ。一体これからどうするんだろう……?

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