第4章 顔が変われば別人
パパとママには内緒だよ
そんで次の土曜日、兄貴のメイクの予行演習の日になった。クラスメイトの女の子2人が家に来て、実際に服と合わせながら学園祭当日にするメイクとウィッグを試すことになっている。
「女の子が2人も家に来るなんてね~、あーちゃん、ちょっと手伝って」
ママは昨日からフルーツレアチーズケーキを作っている。今日は果物を切って上に飾るだけにしてあって、今はるんるんしながら紅茶のセットを並べている。
「そんなに張り切るなよ……小学生のお誕生日会じゃないんだから」
「あら、アンタのためじゃないわよ。これは親としてのプライドよ、『ケンスケくんちのお母さんケチだ』なんて言われたくないでしょ」
「はいはい……」
兄貴は呆れてるけど、私はママの気持ちはちょっとわかる。私たちは年子だから、小学校も中学校も私は「相模の妹」だった。高校に入って兄貴のことを知っている人が少なくなって、ようやく私は私らしく生活できるようになった感じがする。だから別に妹の私がどうこうじゃなくても兄の動向は気になるし、それが自分の評価に直結している気がしてしまう。
「なあ
「うーん、そういうのとちょっと違うんだよなあ……」
このところ兄貴は何かと「女ってどう考えてるのか」ということを気にしている。私としてはそんなに難しく考えてほしくないところなんだけど……。
「だって、女になるんだから少しくらい女の気持ちがわからないといけないと思って……」
こいつ、変に真面目だ。
「あのね、女は女のことなんか深く考えないの。男のほうがワケわかんないって思ってるよ」
「そうか?」
「何でも簡単にわかったら苦労しないでしょう?」
「それもそうだな……」
腕を組みながら、兄貴は自分の部屋を片付けに行った。
「じゃあ、お母さんは行ってくるから。あーちゃん、お茶お願いね」
そう言うとママは出かけてしまった。土曜なのに、仕事の大事な打ち合わせがあるらしい。パパも夕方まで用事で帰ってこない、というのは口実で「息子の女友達が来るのに父親が家にいられるか」とどこかに避難したようだ。これはママ情報だけどね。
「面倒くさいのね、男だの女だの……」
確かに、兄貴が女装するって話になったときから「男とは」「女とは」ということについて何となく考えることが増えた気がする。私もメイクは興味本位でやってるけど、まだまだ勉強しなくちゃいけないことも多いし、そもそもなんでメイクなんかしなくちゃいけないのかなって思う。
リビングでテレビを見ながらぼーっとしていると、兄貴がバタバタやってきた。
「なあ朱美、剃り残しないよな?」
「うーん……ないんじゃない?」
私に顎を突き出すな。自分で鏡を確認しろ。
「よし、これで準備OKだな」
どうやら部屋の掃除は終わったらしい。ママには「張り切るなよ」と言っておいて、当の自分も結構気合い入ってるんじゃないの?
「あとは、時間になるだけだ」
そして約束の時間ぴったりに、うちのチャイムがなった。
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