憧れのツルツル?

 バカ兄貴がパンツ一丁で除毛クリームとパックシートを付けられてから、5分が経った。


「も、もういいだろ?」

「そうね、流してきていいわよ」


 脱衣所の時計を見てママが呟く。兄貴は早速パックシートを剥がすと風呂場に消えていった。


「うわー! ︎︎なんだこれ!!」


 風呂場から絶叫が聞こえてくる。


「うわ、すげえ! ︎︎すごいじゃん何これ!?」


 除毛クリームの効果を実感しているのだろうか。


「ねえ見てこれすごい! ︎︎ツルツル!!」


 またしても語彙力の低くなった兄貴がシャワーを終えて風呂場から飛び出してきた。


「でもさあ、ちょっと残ってるところもあるんだよ。これどうすんの?」


 除毛しそこなった毛を見せつけるな!


「それは後でカミソリか毛抜きで何とかしなさい。あと除毛クリーム使った場所はしっかり保湿するのよ、肌が荒れるから」


 ママは自分の使ってるボディミルクの容器をどんと置く。


「それから、排水溝洗ってキレイにおいてね。そしたら私もお風呂に入るから」


 息子の除毛を見届けて満足したのか、ママは脱衣所から出ていった。


「……大変なんだな、除毛クリームって」

「その代わりツルツルになるからね。レーザーとかで永久脱毛するほどじゃないけど、ここぞって時に使う感じじゃない?」


 兄貴は言われた通り、ボディミルクを塗り込んでいる。


「指がちょっと残ったな……これはカミソリかぁ」

「ママの眉毛用貰えば?」

「お、あれなら小さくていいかもな」


 私もこの前、ママから眉毛用のカミソリ貰ったんだった。


「とりあえず今日はこんなところか……あとは来週だな」

「何かあるの?」

「クラスの子がうちで化粧の予行演習したいって」

「は!? ︎︎しかも何でうちなの!?」


 パジャマに着替えた兄貴はさらりと言う。


「なんかさぁ、どこのクラスも仮装内容は秘密にしているっぽくて。だからうちのクラスも極秘に打ち合わせはうちでやることにしたんだ」

「あのさ。今まで聞かなかったんだけど、その学園祭の仮装って何なの?」


 なんかやることが大袈裟だなあ。私はてっきりクラスの男子とふざけるのにしては気合いが入ってるなと思ってたんだけど、この辺で認識を擦り合わせておきたい。


「ああ……去年まではクラス仮装って代表が10人出て、体育館でパフォーマンスしてたんだよ。結構大掛かりでさ、順番もつけられるんだ。でも今年から予算と労力と時間の削減ってことで男女代表1名ずつの異性装コンテストになったわけで、もうクラスをあげての一大プロジェクトだからクラス企画と別に異性装班も立ち上がって当日のシナリオまで作ってさあ……」


 あれ、何だか思ったよりもすごく気合いの入った話じゃない?


「そんなの、聞いてないよ」

「え、言ったじゃないか。『コンテストのクラス代表に選ばれた』って」

「でも、そんな気合いの入ったものだとは言わなかったじゃん」

「学園祭のコンテストはみんな気合い入るんじゃないのか?」

「でも、うーん……」


 いや、確かに兄貴はそう言っていた。

 こいつが最初に軽く考えていたから私も軽く考えてたけど、クラスをあげての企画ならそのくらい気合いが入ってもおかしくないか。


「そういうわけで、次の土曜日にメイク担当が来るからよろしく」

「よろしく、って私は何すればいいのよ」

「男の家に来るのに、妹でもいた方が向こうもリラックスできるだろ?」

「私は猫か何かか!!」

「じゃあそういうことで、よろしく」


 こいつ、人を猫扱いしやがって!

 基本天然のくせに、こういうところだけ兄貴ヅラが激しいんだよ!!


 んー……なんか釈然としないぞ!?

 アイツにとって私って何なの!?

 ホント解せない!!

 もう知らない!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る