お母さんも一緒!
ドラッグストアから帰ってきたその日の夜。
ご飯を食べてさっさとお風呂に入って、脱衣所で張り切っている人が目の前にいる。
「
……パンツ一丁で本当に気合い入ってるなー。見慣れた兄だから別にいいけど、普通にセクハラじゃないかなー。
「はいはい、じゃあクリーム塗るところ見ててあげるから、しっかり塗るのよ」
「塗ってくれないのか?」
「誰が実の兄の手足にクリーム塗りたくるのよ」
百歩譲って、背中とかならわからなくもないけどさぁ……。
腕だのスネだのは自分で塗れ!!
「そういうことならお母さんが塗るわよ!」
ほーら、ママが聞きつけちゃったじゃないの。
「……自分で塗るからいいよ」
「何よそれ、妹に塗らせようとしてたくせに母親はNGとかどういうわけなの!?」
「それは……なんか自分の身体を傷つけてるような気がするから……申し訳ないなと思って……」
ピアスじゃないんだから!
「あーもー! ︎︎そういうことなら貸して! ︎︎アンタのヘソの下にたっぷり塗ってやるから!」
「やめろ! ︎︎わかった! ︎︎それはやめてくれ!」
ママは盛大に笑ってる。
結局ママと私が見守る中、兄貴は自分の毛にサヨナラすることになった。クリームを容器から取り出して、肌につけてヘラでならしていく。こうやってクリームを10分ほど放置したら、後は洗い流すだけ。
「これくらいでいいのか?」
「ダメよ、もっと厚く塗らなきゃ。これくらいだと結局毛が残るんだから」
加減がわからない兄貴は、最終的にママに仕上げをしてもらうことになった。腕と手の甲、スネをクリームまみれにされて何とも間抜けな姿だ。
「あのさあ、気がついたんだけど」
「何?」
「半袖なら上着ててもよかったんだなって」
「そうだね」
除毛するところが露出していればいいので何もパンツ一丁である必要はなかったんだけど、面倒なので敢えて放置してたことに気がつきやがった。
「何事も勉強でしょう? ︎︎本番前にまたやるんだから」
「そ、そうだな」
待ってる間、ママは私たちが買ってきたものを入れてある袋の中を見ていた。
「何これ、パックじゃない」
「やりたいんだってさ」
「じゃあ、ちょうど今じゃない」
ママは勝手にパックシートの封を切る。
「え、今なの?」
「待ち時間を無駄にしない、これが美容のヒケツよ」
「でもさっきちゃんとスキンケアしたから……」
そう、兄貴はあれから毎日ちゃんと律儀にスキンケアをしている。大したものだ。
「こういうのは重ねがけできるから大丈夫」
「違う、俺が言いたいのはそういうことではなく……」
「はい、顔上げて」
ママがパックシートを広げて笑っている。
もう一番楽しいのはママなのではないだろうか。
「はい……」
脱衣所に持ってきた椅子に腰掛けて、手足はクリームまみれでパンツ一丁の兄貴は更にパックシートまで装着されてしまった。
これは……なかなか酷い絵面だ。
「朱美……あと何分だ?」
「あと5分だね」
「5分かー、長いなー……」
パックシートの下で兄貴が呟く。クリームを塗っているからあまり自由にも動けないし、何よりママに監視されている。
「暇だな……」
「そんなんだとマニキュアなんか塗れないわよ」
ママが言い捨てる。
キレイになるのは大変だぁ……。
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