そんなに女子が怖いのか?
女装に目覚めてしまった兄貴のために除毛クリームを買いに来た私たちは、そのままドラッグストアの店内を歩き回ることになった。
「だいたい何なのよ、女コーナーって」
「女コーナーは女コーナーだろ」
そう言って兄貴が指さしたのは、生理用品コーナーだった。
「まあ、男は必要ないかもね」
「だろ?」
とりあえず兄貴の「女性の勉強がしたい」という気持ちはわかった。
「でも、あそこに行って何が変わるの?」
「俺の気持ちが女になる」
「……そうなの?」
こいつ妹がいるのに、生理用品ごときで恥ずかしがってんのホント思春期。
「じゃあ行くよ」
「うう、待ってくれ」
何で私の肩に掴まるの!?
そんなに一大事なの!?
「そんなにビビんないでよ」
「なんかさあ……小学校の時、女子トイレに入ったら女になるって遊びが流行ってさあ、俺絶対入りたくなかったもん」
「何そのくっだらない遊び、どんな遊びなの?」
「女子トイレの前で取っ組み合って、相手を女子トイレに押し込んだら女だ。チーム戦で一人を狙い撃ちにして担ぎ上げると盛り上がったな。結局消火器倒したり当の女子からクレームが来たりで、男子みんなで怒られたんだよな。懐かしい」
バカ。男って本当にバカ。
「そんな冷たい目で見るなよ。小学生男子なんてそんなもんだぞ」
「そんなもんが随分上等になったことで……ほら、女コーナーだよ?」
「うう、大丈夫、俺は女になるって決めたんだ」
ドラッグストアで生理用品コーナーの前に来るくらいで大袈裟なんだから……。私は何やら張り切ってる兄貴を連れて、生理用品コーナーへ行く。
「ほら、女コーナーに来た感想は?」
並ぶ生理用品を前に兄貴は自分の腹の当たりを見つめて、しみじみ呟く。
「……よかった、ついてる」
「バカ!」
よかった、やっぱりこいつはバカだ。
「なんか、いっぱい売ってる」
緊張して語彙力も低下してるな!?
「パンツ!? ︎︎パンツも売ってる!?」
生理用ショーツで騒ぐな、恥ずかしい。
「あれは特別なパンツなの」
「特別なパンツ、そうか……」
私の雑な説明で兄貴は沈黙する。それから少し気まずそうに切り出してくる。
「でも怖くないのか? ︎︎その……血が出る、とかさ……」
「別に、怖いというよりウザいとかめんどいとか、そういう感じだよ」
「そうだよな、その辺がもう違うって言うか、俺にはよくわからない」
そういうものなのかな?
私も男の人のアレを仕方ないことだから理解しろって言われても、面倒くさくないのかなって思っちゃうけどね。あんまり考えたくないというか、兄貴もパパもそうなんだってあんまり思いたくないというか……。
うーん、そういうものなのかもしれない。
口で説明されてもわからないから、わからないってことにしておきたいよね。
「そういうのは妹じゃなくて彼女に聞きなよ」
「彼女、か……やっぱりよくわからないんだよな。女ってなんだろう?」
まずい、何かスイッチが入っちゃったかな?
こいつが深く考えだすと面倒くさいのは、16年妹をやっていて得られた経験則だ。
「じゃあ、女コーナーはこの辺にして、別の女コーナーに行こうよ」
「別の女コーナー?」
「いっぱいあるでしょ、他にも女コーナーは」
さて、次はどの女コーナーに連れていこうかな。
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