女の場所は匂いが違う?

 結局戦隊モノまでしっかりニチアサを堪能してから、私とお花畑兄貴は近所のドラッグストアまでやってきた。


「それで、何買うの?」

「全身用カミソリだ!」

「何で私についてきてもらうの?」

「なんか恥ずかしいだろ、男のくせに毛剃ってるのって」

「それで私に買わせようっての?」

「うーん、まぁ……」


 ったく、いきなり思春期ボーイになりやがって……。


「あのさぁ、今どき男でもムダ毛処理とか珍しくないし」

「今どきは関係ない、俺はなんかヤなの!」

「じゃあ水泳のインストラクターとかバレエダンサーとかどうなのよ」

「別にみんな剃ってるわけじゃないし」


 そりゃそうだ。


 服とか化粧と違って、ムダ毛ってその人のスタンスが大きく出るところだと思う。脇毛は剃るけどすね毛すごいとか、逆とかもあるもんね。男の人だとすごい胸毛の人とか処理が大変そうだからいっそしない、という人もいるだろうし。


「でも、水泳選手が胸毛モッサモサだったら水の抵抗とかすごそうじゃない?」

「そういう人のために今はラッシュガードなんだろ?」

「じゃあラッシュガード着てる人はみんな胸毛モッサモサなの?」

「好きで着てる人もいるだろうけどさ……」


 何で私たちは日曜日にドラッグストアで水泳選手の胸毛について考えてるんだろうか。


「そもそも、朱美あけみはどうやってるんだよ」

「あ、それをここで言わせるのは完全にセクハラ!」

「いや、参考にどういう道具を使うのかと思って……」


 確かに、女装するにあたってムダ毛処理からは逃れられないところかもしれない。


「それじゃあ……やってみる?」


 私は女性用のカミソリコーナーまで兄貴を連れて来ると、除毛クリームを手に取った。


「なんだそれ?」

「これ塗ると毛が溶けて消えるの」

「マジか!? ︎︎そんな便利なものが!!」

「ただし、仕上がりはいいけど高いし面倒だよ? ︎︎だから女子は海行く時とか、ここぞと言う時にだけ使うの」

「今がここぞ、じゃないか! ︎︎買お買お!!」


 兄貴はほくほくして除毛クリームを2本買い物カゴに放り込む。お小遣いは大丈夫なのだろうか。


「……それにしても、女性用のムダ毛処理コーナーはなんかピンクが多いな」

「男の髭剃りコーナーがむさいだけだよ」

「だよなあ、もっと爽やかでもいいよな。なんか女のコーナーってだけでいい匂いがする気がする」


 ……そうか?

 全然わからないけど。


「だいたい女のコーナーって入りにくいじゃないか。なんか見たら目が潰れるじゃないけど、俺には関係ないから意地でも見るもんかって思うよ」

「見るだけなのに?」

「男はだいたいそう思ってるんじゃないか?」


 ……いや、それはこのクソボケだけだと思うけど。


「そうだ、せっかくだから女コーナーを一緒に回りたい」

「何よその『女コーナー』ってのは」

「これも勉強の一環だ」


 まあ、女装するならそういうのも勉強か。本当に私たちは日曜日の昼間に何やってるのかなぁ。


「じゃあ、行こうか」


 私はドラッグストアを兄貴と満遍なく一周することにした。

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