第3章 ︎︎兄貴という生き物
両親、それでいいのか?
さて、兄貴がフリフリピンクのワンピースを買って帰ってきたその日の夜。
「まーケンちゃんとっても可愛い!」
さっそくうちのクソボケ兄貴、
「まだ服だけなのにそんな大袈裟な……」
「何を言うの! ︎︎息子は何を着ても可愛いの!! ︎︎娘のドレス姿とはまた別の栄養なの!!!」
そう言いながらママのスマホのカメラロールがピンクの兄貴で埋まっていく。
「ほら、ケンちゃん笑って!」
「だめよ、そこはポーズ!」
「スカートの裾を持ってね、そうよ!!」
まるで子供用写真スタジオのようなノリでママがカシャカシャやっている。
「時代ってもんかなぁ……」
そんなママを見ながらパパが遠い目をしている。
「俺があのくらいの時は、女装なんてふざけてもしたくなかったけどな」
「別にしたくない人は今でもしたくないと思うけど」
私もパパの隣で、異様なテンションのママと困ってる兄貴を見つめている。
「でもこれから、カツラとか化粧とかするからさぁ……ただ服着てるだけで面白い?」
「面白い! ︎︎息子が面白いもの着てたら面白いに決まってる!!」
「でも製作途中を見せてるみたいであんまり、なぁ……」
「だからいいんでしょ!? ︎︎寝起きのジョニー・デップとかメイク前のトランプマンとかいいでしょ!!」
「トランプマンのほうは良さも何もわからないかな……」
はあ、やれやれ。兄貴が浮世離れしてるのは、完全にママ似なんだよなぁ、きっと。
「ああ、この後ケンちゃんがお化粧してもっと可愛くなったらどうしよう、更にパパ似になるのかしら!? ︎︎おばあちゃんにも写真送らなきゃ」
「完成してない孫の女装を送るのはやめて!?」
流石に兄貴もすっぴん状態のワンピース姿を送られるのは嫌みたいだ。
「じゃあ完成させないとね。とりあえず今からママがガッチリお化粧してあげるから」
「もう夜だから、今度にしよう!?」
私はパパと時計を見上げる。良い子はベッドに行かなきゃ行けない時間だ。パパは飽きたのか、テレビのチャンネルを回し始めた。
「世界ふしぎ発見はやってないのか?」
「この前終わったじゃない」
私はとりあえずパパに返事をする。
「……そうだったか? ︎︎黒柳徹子はついにテレビ引退か」
「徹子の部屋があるじゃない」
パパはもう完全に息子の女装に興味がないみたい。そんなパパとは真逆に、まだママは食らいついている。
「スカーフか何か持ってきて髪の毛は誤魔化せないかしら」
「だからそういうのはまた今度!!」
「それじゃあ本番の写真は2L版でプリントアウトして飾らないと」
「だからそういうのもやめて!? ︎︎もう脱ぐぞ!?」
「脱いだところも撮るよ!」
……あ、兄貴がしゅんとしてる。
息子は母には勝てないかー。
「わかったけどさあ、やるならちゃんとしたところにしよう、ねえ!?」
「そうねえ、じゃあ最後に後ろ姿をもう1枚!」
そう言って、兄貴はやっとママから解放された。
「いいケンちゃん、本番の写真は絶対おばあちゃんに見せるからね!!」
「何で母親のほうが気合い入ってるんだよ……」
ワンピースを脱いで元通りになった兄貴は、なんだかぐったりしていた。
「……お疲れ様」
「あのさあ、女ってみんなこうなの!?」
「うーん、否定できないかな?」
「なんだよそれ」
私もせっかく軸になるワンピースを買ってきたのでやっておきたいことがあったけど、今日は疲れてるみたいなので兄貴は放っておいてやろう。
一方、パパはまだチャンネルを回していた。
「ふしぎ発見が終わるとつまんないな」
「そんなに毎週真剣に見てなかったくせに」
「板東英二が出ていた頃はよく見ていたぞ」
「何年前の話よ。私よくわからないんだけど、てか板東英二って誰?」
この絶妙に噛み合わない話の仕方、多分兄貴のパパ似の部分なんだろうな。なんかこの両親にしてこの子ありって思う。
私もそう見えてるのかな。
血って謎だよなー。
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