よし、パンケーキタイムだ!?
パニエを装着しに試着室に戻った兄貴だったが、今度はすぐにカーテンが開いた。
「
パニエを装着して語彙力が低くなった兄貴が嬉しそうに顔を出す。
「すご、え、なにこれ、マジで女の子じゃん、うわ、俺なにこれ?」
何だかテンションが上がっている兄貴を見て、ジュンさんも嬉しそうにしている。
「よかったら、ヘッドドレスやウィッグなんかも選んで行きますか?」
「いや、今日は服だけ買ってきてほしいと言われてるのでこれだけにします。とりあえず気に入った服を持ってきて、そこからコンセプトを決めようって話なんです」
へえ、案外ちゃんとしてるんだ。たかが学園祭の女装なのに。
「はい、じゃあこのワンピースと新品のパニエ、それと必須になると思うから白いタイツもつけましょうか」
それから例の隠しチャックを開けてやって、兄貴はワンピースを脱いで試着室から出てきた。男の服を着た兄貴はいつもの兄貴だった。
「このチラシのQRコードからお友達登録ができます。よかったら次回から割引など出来るので、また来てくださいね」
それからジュンさんに服を包んでもらって、お会計をしてお店を出た。何だかすごく濃密な時間だったなぁ。
さて、この後は愛しのパンケーキを……
「朱美、先に謝らなければならないことがある」
「何?」
お店を出てから兄貴が深刻そうに呟く。
「パンケーキ代がなくなった」
へ!?
「は!? ︎︎ちょっと、さっきので全部お金使っちゃったの!?」
「パニエとタイツの分が思ったより、な……」
みるみる兄貴の顔が気まずそうな薄ら笑いになっていく。確かにどっちもパンケーキ代くらいの値段したけどさ……。
「バカ!」
私は路上構わず大声を出してしまった。
「バカ、バカバカバカ! ︎︎せっかくの土曜日に原宿に来たのにアンタの女装見ておしまいとかそれってあんまりじゃない!」
「あんまり大声出すなよ……」
でも、でもさあ!
せっかくここまで頑張って来たのに!
「そうなんだが……クレープくらいなら買ってやれるぞ」
兄貴は本当に申し訳なさそうに言う。
「なんだよ、クレープなんかで誤魔化される私じゃないよ……」
「パンケーキはまた買ってやるから、な?」
結局私はクレープをひとつ買ってもらった。兄貴はもそもそチョコバナナクレープを食べる私を見てなんとなく満足そうだったけど、あまり目は合わせなかった。
ふんだ、せっかく楽しみにしてたのに。
食べたかったなあ、パンケーキ……。
ふわふわでしっとり甘くて、生クリームとフルーツがどっさり乗ってる奴がよかった。
クレープもおいしいけどさ、今食べたいのはパンケーキだったのに……。
こうして私たちは家路についた。
せっかくの土曜日に兄貴と原宿なんて、私は何をやっていたんだろうな……。
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