ぱにえパニック!

 ピンクのふわふわワンピースを着たはずなのに、試着室の中から出てこない兄貴に私は我慢できなくて試着室の中を覗いた。


「な、ななななんだ!?」


 そこにいたのは確かにクソボケ兄貴のはずだった。はずだったのに。


 ピンクのワンピースを着た兄貴は恥ずかしそうに身体を抱えて、まるで漫画でよくある着替えを覗かれて怒るヒロインのような格好をしている。その仕草を含めて、そこにいたのはちょっと背の高い女の子だった。


 何だかすごく悪いことをした気がする。兄貴の着替え見ただけなのに。普段パンツ一丁でその辺ウロウロしてるはずなのに。


 何でこんなに気まずいの!?


「いいから背中見せて!?」


 ドキドキする心臓を誤魔化すように、私は例のチャックを探す。何とか後ろを向いてもらい、背面のファスナーを引き上げてやる。


「サイズはどうですか?」


 店員のジュンさんが私の後ろから声をかける。ジュンさんはまだ兄貴の格好を見ていない。


「あ、ああ、ピッタリだと思います!」

「そうですか、ちょっと見せてくださいね」


 ジュンさんがそう言うので、私はカーテンを全部開けた。ピンクの兄貴がそこにいる。


「ああ~、やっぱりいいじゃないですか!」


 ジュンさんがめっちゃ笑顔になる。

 反対に私と兄貴はめっちゃ顔を引きつらせる。

 あれ、何で私も引きつってんだろう?


「スカートの丈も……うんうん、こんなくらいでいいでしょう」


 私はジュンさんに釣られてスカートの裾を見る。ピンクのワンピースから男の足が出ている。男が着てるんだから当たり前か。なんか、やっとそこで目の前の女の子がうちのクソボケ兄貴なんだなぁって思った。


「このワンピースだとパニエ合わせたほうがいいですよ。試着用の貸しますので履いてみてください」

「ぱにえ?」


 それは私もわからないワードだった。


「簡単に言えば、スカートの中に履いて腰回りをふっくらさせるものです。男の娘コスなら必須アイテムですよ。これ、どうぞ」


 ジュンさんはなんか白いふわーっとした下着みたいなのを持ってきた。それを受け取って、不思議そうな顔をして兄貴は試着室に消えた。


「あの、結構こういうお客さん多いんですか?」


 兄貴のワンピース姿を見ても平然としていたジュンさんに私は尋ねる。


「うちは男サイズも売ってるので、それほど珍しくはないです。趣味以外でも宴会の出し物やコミケなんかのコスプレで着る方もいますし、中には服好きが高じてロリータファッションにやってくる人もいるんですよ。特にゴスロリをイメージした紳士用のロリータファッションも最近ではありますし」


 ふうん……。

 ロリータは奥が深いなぁ……。


 カーテンの向こうでゴソゴソやっているのが終わったようだ。今度は大丈夫かな?

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