こんなところに隠しチャックが!

 ジュンさんに案内されて、私たちは試着室の前に連れてこられた。


「男性用も最近は仮装用として人気あるんで、結構出回ってるんです。この辺はどうですか?」


 ジュンさんが持ってきた服を見て、私は吹き出してしまった。


 それは清楚な薄いピンクのワンピースだった。大きな襟にふわっとした袖、そこかしこにレースが散りばめられ、これまたふわっとした腰周りにもリボンがあしらわれている。スカート部分の裾も白いレースとリボンが付いていて、いかにも「女の子~」という感じだ。


「え、あ、い、いいんじゃないですか?」


 クソボケ兄貴の声が上ずる。

 ま、ちょっと私でもご遠慮したくなるほどコテコテの少女趣味ワンピースだもん。仕方ないか。


「ほら、着てみてよホラホラ」


 ここは妹特権で煽って、何とか兄貴に頑張ってもらおう。


「わかったよ、うるさいな……」


 兄貴はワンピースを受け取ると渋々試着室へ消えた。そしてすぐに出てきた。


「どうやって着るんだ!?」


 それを見て、私とジュンさんは目を合わせて笑う。勉強は出来るけどそれ以外ボケてる男にワンピースの着用は早かったようだ。


「どうって……着ればいいんだよ」


 私がすっとぼけて言うと、クソボケのくせに急に兄貴面してくる。


「アドバイスになってない! ︎︎着方を教えろ!」

「しょうがないなぁ……」


 私はワンピースを受け取ると、背面のファスナーを開けてやる。


「おお、こんなところに隠しチャックが!」

「別に隠してないでしょ、ホラはやく着てきなよ」

「わかった、急かすなよ」


 それから兄貴はまた試着室に消えていった。しばらくゴソゴソやって、それからまた試着室の中から悲鳴が聞こえる。


「背中に手が届かない!!!」


 なんとなく想定していたことになっている。あのピンクのワンピース着て狭いところでモゾモゾやってる兄貴を思うと、なんだか面白くて仕方ない。


「そこはやってあげるから、出てきなよ」

「でも、これはコケンに関わる話でなぁ……」

「ごちゃごちゃ言わない! ︎︎背中のチャック以外は着れたの!?」

「着た、と、思う……」


 試着室の向こうが静かになった。


「出てきてよ、チャックできないよ?」

「待て、心の準備が」

「待てなーい!」

「うるさい、これはちょっと」

「カーテン開けていいですかぁ!?」

「バカ、やめろ、だから心の準備が」

「はーい、開けますよお!」

「うわあああやめろおおお!」


 なんだよ、ここに来て急に恥ずかしがっちゃって。面白いじゃん。


 私はカーテンに手をかけると、ジュンさんの手前、派手にご開帳はしないでそっとカーテンの中を覗き込んだ。


 お、おおおおお!?

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