お値段と紅茶!

 ロリータ専門店の黒い店員さん――ジュンさんは私たちをお店の奥にあるテーブルに案内した。


「よかったら紅茶でもどうですか?」

「あ、あのお構いなく」

「遠慮しなくていいのよ」

「じゃあ遠慮なく」


 ジュンさんはまたクスリと笑うと、テーブルにカタログみたいな雑誌を数冊置いて奥へ行ってしまった。


「あのさ、大丈夫かな」

「大丈夫だろ」

「いや、あのお金とか」

「安心しろ、俺の財布は宇宙だ」

「それってスッカラカンって意味だよ!!」


 クソ兄貴のボケは置いといて、チラチラ見た雑誌の値段に私はビビってた。服1着に2万円とか結構ある……これ、大丈夫なんかな?


「だから安心しろ。学園祭実行委員から仮装の被服費としてクラスに5000円が支給されている。男装チームはほぼ金を掛けないそうだから、俺の衣装に全額かけていいそうだ」

「つまり、とりあえず5000円引きは確定ってこと?」

「まあ、そういうところだ。ついでに俺がロリータやると言ったら、衣装代の残りはクラスカンパで賄う話が出ている」


 すごい。みんなどれだけこいつの女装見たいんだよ。いや、私もちょっと見たいけどさ。


「ついでに一部のクラスの女子が偉く興奮してな……上手くいけば化粧品などは彼女たちが調達してくれるかもしれん」

「じゃあ、その女子と買い物に来た方がよかったんじゃないの?」

「何故か皆、既に予定があってな……空いてるのがお前しかいなかったんだ」


 なんだよそれ!

 なんか私が寂しい奴みたいじゃん!


「でも、俺には妹がいると言ったら『是非見たい』だそうだ」

「何その珍獣扱い」


 うーん、でも他人事なら気持ちはわからないでもないなぁ。なんか目立つ人に兄弟がいるってなったら私も「ちょっと見たい 」くらいは思っちゃうもんなあ。当人としては複雑だけど。


「そういうわけで本番はお前も来るんだぞ、予定は空けておけ」

「うーん……何だか腑に落ちないけど、それはわかってるよ」


 私が兄貴とあーでもないこーでもないと言ってると、ジュンさんがキレイなカップに入った紅茶を運んできた。


「お待ちどうさま。良かったら冷めないうちにどうぞ」


 私たちは紅茶を口にして、驚く。

 紅茶ってこんなにおいしかったっけ?

 私は別に好きでも何でもなかったけど、これはとてもおいしい。


「すごいです! ︎︎ジュンさんこれ!」


 ああ、バカ兄貴が語彙力を失ってる。

 でも本当にそのくらいおいしい。


「よかった、気に入ってもらえて」


 ジュンさんはにっこり笑って、テーブルの対面に座る。


「それじゃあ、ロリータの種類についてお話しますね」


 私たちはジュンさんの持ってるカタログを見つめる。ロリータの種類か……種類なんてあったんだなぁ。

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