何の服を着るの!?

 それから私の顔だけクソ兄貴、相模謙介さがみけんすけはせっせと顔に化粧水を塗りたくるようになった。ふふふ、こまめなスキンケアでお肌のハリが違うのを実感するがいい。


 そんな感じで基礎のスキンケアはいいとして、このボケ兄貴に何を着せればいいのだろうか……?


 私は呑気にソシャゲを回してる兄貴を直撃する。


「あのさあ、女装って言っても何を着るの?」

「女の服を着るのでは?」

「だから、いろいろあるでしょ。制服とか、袴とか……」

「……??」


 はぁ、この兄貴に考えろってのが無理だった。


「あのさ、服ってもいろいろあるよ?スカートもロングとかミニとかタイトとかプリーツとか、いろいろあるんだよ?」


 私は参考文献として何冊か買ってきたファッション雑誌を兄貴の前に並べる。


「ほら、同じロングスカートでもこっちのスカートはふわっとするタイプで、こっちのはストンとシルエットが見えるタイプでさぁ……」


 雑誌を眺めて、兄貴は眉間に皺を寄せる。


「女の服ってこんなに種類があるのか……」

「あのさ、そもそもその連呼してる『女の服』ってなんなの?」


 兄貴はしばらく考えて、答える。


「いや、俺はお前から中学の時の制服とか借りればおしまいだと思っていたから……」


 こいつの想定していた女装のクオリティ、低!


「えー、じゃあ私の制服着ておしまいにするつもりだったの!?」

「女装って女の服を着ることだろ!?」

「ダメだよ!せっかくのいい機会なんだから!気合い入れた女装していかないと!」

「なんかお前の方が張り切ってないか……?」


 ええい、大雑把すぎて面倒くさい奴だ!


「やるからには徹底的にやる!これが我が家の家訓でしょ!!」

「そんな家訓あったか……??」

「いいから!それでどうしてもJKやりたいの!?」

「その辺は何も、考えてなかった……」


 あーこのクソ雑兄貴は!?舐めとんか!!


「だって女なんかスカート履いて胸になんか詰めればいいんじゃないのか!?」

「女を舐めんな!!」


 私はバンバン机を叩く。


「別に舐めてないけど……」

「いーやどうせ舐めてる!どうせ化粧だってなんかちょちょっと塗ってるだけでしょとか思ってるでしょそういう女を舐めた男がやれ女はイージーモードだの可愛い服着て股開けばチョロい永久就職だの偏見を垂れ流すんだからたまには男が女の苦労を少しは経験するべきなの!!わかる!?」

「お前普段から一体何見てんだよ……」

「とーにーかーく!!!」


 私はクソ兄貴にファッション雑誌を突きつける。


「私に協力しろって言ったからにはやるならちゃんとやって。そうしないと協力しないから!!!以上!!!」


 あ、ちょっとしゅんとしてる。

 言いすぎたかな。


「……わかったよ」


 そう言うと兄貴はファッション雑誌を引っ掴んで自分の部屋に引っ込んで行った。


 ちっ、拗ねたか。


 あーあ、これで兄貴女装計画もおしまいか。

 買ってきた安い化粧水、残りは私が使うか……。

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