第1章 女装って何ですか?

スキンケアしか勝たん!

 次の日から私の「うちの兄貴めちゃくちゃ可愛い女の子化計画」はスタートした。


「はいこれ、まずは毎日スキンケアね」


 私はドラッグストアで買ってきたとりあえず安くてデカい化粧水の瓶と乳液、美容液を風呂上がりの兄貴の前に並べる。


「これと女装になんの関係が?」

「やるからには徹底的に、よ!」


 兄貴は化粧水を見て、露骨に面倒くさそうな顔をしている。


「女装とは女の服を着ればいいんじゃないか?」

「あまーい!女を舐めるな!!」


 私はビシッと指を立てる。


「じゃあ論理的に考えるよ、女の人はどうやってキレイになるの!?」

「……??」


 わっかんねえのかよ!!


「メイクだよ!化粧!」

「ああ、化粧か。化粧は当日でいいんだぞ」

「そーなんだけど!!」


 私はダンっと机を叩く。


「化粧ってね、肌に粉やクリームを塗るわけでしょう?そのとき肌がガサガサだとそこからポロポロ剥がれてきちゃうの。だから、常に肌をツルツルスベスベのモチモチにしておいたほうがいいの」


 男子諸君にはまずハードルの高い「お肌のお手入れ」に、早速兄貴は面食らってるようだ。


「それで、そのためにこれを使うのか?」

「そうよ。使い方はわかる?」

「飲むのか?」

「顔に塗るのよ」


 兄貴の天然ボケをスルーして、私は化粧水の使い方のレクチャーに入る。


「まず、今日から洗顔後に必ずこの化粧水をつけること」

「風呂に入ってる時にか?」

「あがってからでいいの!」


 あーもう、本当に疲れるこの兄貴。


「まず、こっちのデカいのを、このコットンに染み込ませる」


 私は100均で買ってきたコットンを1枚取り出して、化粧水を染み込ませる。


「そして、これを顔にくるくる塗る」

「CMみたいに手でパンパンってやらないのか?」

「あれはパフォーマンスとしっかりスキンケアやってる人向け。アンタはこれで十分」


 私はビタビタのコットンを兄貴に渡す。


「でもこっちのが面倒くさくないか?直接パンパンやったほうが早いだろ」

「こっちのが楽に顔全体に行き渡るのよ、いいから早くやって」


 しぶしぶ化粧水を肌に塗りたくる兄貴に、次は乳液の瓶を渡す。


「そしたら次はこっち」


 乳液が終わったら今度は美容クリーム。


「これを毎晩やるのか?」

「毎晩じゃない、朝もやるのよ」

「面倒くさくないか?」

「やるったらやるの、髭剃りと一緒」

「うーむ……」


 渋る兄貴に私は喝を入れる。


「とにかく!これをやるとすっごく可愛く化粧が出来るの!」

「そうなのか……?」

「そうなの!」


 化粧水ひとつでこれなんだもの、先が思いやられるなぁ……。

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