第67話 おっさん、元同僚たちと10本を圧倒する

「ひょぉ~~バートスさんだ!」

「おっさん久しぶり!」

「ガハハ~元気してたかよ!」


 俺たちの前に現れた魔族たち。

 懐かしい顔ぶれがズラリと並ぶ。


 魔王さまが、魔界から職場の同僚を寄こしてくれた。


「ハハッ、おっさんは変わらず元気だ! みんな、よく来てくれたな!」


「で、仕事なんですねバートスさん?」

「そりゃおっさんが呼ぶ以上は仕事だろうな」

「ガハハ~バートス仕事ばっかだな」


「出張してもらって悪いが、そのとおりだよ」


 わざわざ魔界から来てくれるとは、おっさんいい仲間を持ったよ。


「み、みんな~~来てくれたんだね~」


「おお、カルラちゃん!」

「やっぱかわいいなぁああ」

「ガハハ~来るに決まってる」


 カルラと再会を喜ぶ仲間たち。


 変わらんな、こいつら。


 俺は消耗しきったカルラをリズに任せて、みんなと共に10本に視線を移す。



〖なんだあれ〗

〖まかいのにおい〗

〖まぞくか〗

〖だが〗

〖ざこがふえたところで〗

〖なにもかわらん〗


 10本の巨体からのびる10本の首。


〖めんどうだ〗

〖まとめてけしとべ〗


〖――――――いっせいぶれす〗


 その全ての口が大きく開かれる。



「ば、バートス! 10本全ての口が開いて……ぶ、ブレスがきます!」


 リズが聖杖をグッと握り、俺に視線を向ける。

 10本全部の炎か。


「大丈夫だリズ。みんな……

 ――――――悪いが仕事の時間だ!」



 10本全ての口から一斉に放たれる赤いブレス。

 その空間に隙間がないほど熱線が重なり合って、赤い炎がこちらへ向かってくる。


「さてと。んじゃ、やりますか」


 魔族(同僚)たちが各々の配置につき―――



「―――【可燃物創成】!」

「―――【着火剤強化】!」

「―――【爆炎点火】!」


 次々と仲間たちが、各自の固有能力を発動し始める。


 よし、ここだな。


「――――――【焼却】!!」


 ――――――ボボボウっ!!!


 ため込んだ【焼却】だ。通常よりも激しい炎が立ち上がる。


「よっしゃ、バートスさんの火がはいったぜぇ~後続も発動だぁ!」



「―――【送風倍化】!」

「―――【加熱温度上昇】!」

「―――【燃焼物増加】!」

「―――【延焼範囲拡大】!」


「ひゅ~~きたきた~~」

「これだよ~~これ!」


 各自の固有能力により勢いを増した炎は、10本の一斉ブレスに正面から衝突する。


「おら~~おせおせ~~!」

「やっぱバートスさんの火があると違うなぁ~~!!」


 俺たちの炎が10本のブレスを押し始めた。



〖ばかな〗

〖ありえない〗

〖こんなクズたちに〗

〖われがおされるはずがない〗


 おいおい、10本よ。

 なにを驚くことがあるんだ?


 ここにいる者たちはみな魔界ゴミ焼却場の現役職員なんだぞ。

 燃やすことになにかしら特化した奴らの集まりだ。


 そんなやつらが毎日毎日汗水垂らして燃やしているんだ。

 連携だって昨日今日の話ではない。


 ずっと一つのことをやり続けてきたやつら。


「10本、おまえ俺たちが誰だかわかっているのか?」


 10本のブレスは完全に霧散してしまい。俺たちの炎がその巨体を包み込む。

 ブスブスと肉の焼けこげる臭いが周辺に漂い始めた。


〖むぐぅうう〗

〖ちょうしにのりやがって〗

〖くそぉお~〗

〖ザコどものくせに〗


〖だが〗

〖すぐにもとにもどる〗


 ダメージを負うと同時に損傷部分が徐々になおり始める10本。

 そうだった。こいつは再生能力が異常に高いんだった。


 しかし、俺たちの放つ炎は依然継続中だ。

 損傷しては再生を繰り返す。


 まるでいたちごっこだな。


 この状況が永遠に続くのかと言えば、そうではない。

 10本にせよ、俺たちにせよ、体力魔力には限りがある。


 俺たちにとって長期戦は不利か?

 答えは彼らを見ればわかる。


「うりゃああ~~」

「まだまだぁあ!」

「ガハハ~~どんどんいけ~」


 ―――ハハッ。さすがは同僚たちだ。


 俺たちは短期戦より長期戦の方が慣れている。


 ゴミ焼却場は火を絶やさない場所だからな。

 みんな底抜けの体力を持っているんだ。



 さらに―――


「魔力が回復した者から順次攻撃開始じゃぁあ!」


 アルバートが先頭に立ち、魔法師団を立て直したようだ。

 次々と炎の弾丸が10本に放たれていく。


「我らには聖女様とその従者様たちがついてるぞ!」


 チラッと後ろを見ると。

 疲弊しきったカルラの回復に集中しているリズがビシッとサムズアップしてみせる。


 大量のポーションを持って来たからな。


「聖女様の魔力ポーション最高ぅうう!」

「これ聖女様がさわったやつ? 良い匂いする~ぺろぺろ~~!」


 こら! ビンを舐めるんじゃない! それ流石にアウトだぞ。


 ともあれ、砦の兵士たちも息を吹き返した。しかも士気が爆上がりだ。

 まあ一部変なテンションの上がり方をしている奴もいるが。



「はは~~バートスさん、地上のやつらもやるじゃねぇか~」

「ああ、そうだな。みんな……彼らの炎にもバフをかけてやってくれ」


「「「「「任された~~!!」」」」」


 同僚たちの固有能力が、王国軍にも広がって行く。


 勢いを増した炎は、さらに10本の巨体を焼きまくりダメージを蓄積させていく。


 ブスブスと焼けていく10本の巨体。

 すでに再生能力が追い付かなくなり始めている。



〖なぜだ〗

〖ざこどものくせに〗

〖くずのよせあつめなのに〗



 ふむ……


 そろばんが合わなくなったか。


 たしかに1人1人の力だけなら、10本に遠く及ばないだろう。


 ―――だがな



「おい、10本。ひとつ教えてやる―――

 仕事は一人じゃなくて――――――みんなでやるもんなんだよ!!」




―――――――――――――――――――


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