第68話 聖女リズ視点、すべてを肯定してくれたおっさんの背中を押す

 す、凄い……凄いです!

 バートス達の炎が、あの巨大な化け物10本を押しています。


 魔界からきたバートスの元同僚さんたち。各自の能力が互いを補完し合って、バートスの力も相互作用でとんでもない力を発揮してます。


 10本の炎は完全に押さえ込まれて、確実にダメージを与えている。


 それにしても……


 今のバートスはとても生き生きしてますね。


 もちろん彼は今までの討伐でも頑張ってくれていました。

 でも、今のバートスは足りなかったものを得たような。


 そんな感じの表情です。



 ―――ちょっと悔しい。



 こんな時にそんな感情を抱くこと自体が、不謹慎なのはわかっていますが。



〖ぐぬぅうう〗

〖クズども〗

〖ちょうしにのるなよ、おっさん〗


 10本の首が一斉にバートスへ怨嗟の声を叩きつけてきます。

 予想外の攻撃に怒りを露わにする巨大ヒドラ。



〖やむおえん〗


〖うむ、やむおえん?〗

〖なんだ?〗


〖わしのちからおもいしらせてくれる〗


〖おう、おもいしらせる〗

〖―――!?〗

〖おい、なにやって……〗

〖ぐあぁあ……やめろ!〗



 な、なんですか!?



 10本が共食いを始めましたよ!!

 中央の首が周辺の首を次々に食べていきます。


 1本食べるごとに、中央の首は太く大きくなって……


「ば、バートス! あれは!!」

「ああ、リズ。どうやら一つにまとまったようだな」



 バートスの言うとおり、9本の首をすべて平らげて1本の巨大な首になったカイザーヒドラ。



〖さあごみども―――くらえ!!〗



 巨大化した大きな口から放たれるとてつもない炎。


 今まで10本の炎を押さえ込んでいたバートス達の炎が、徐々に押され始めました。



〖ハハハ、やはりわれがさいきょう〗



「うむ、やはり手強いな」


 バートスが唸ります。


 ……手強い。


 彼から「手強い」という言葉を初めて聞いたかもしれません。

 討伐前はとてもビビるバートスですが、いざ実戦となるとひょうひょうと魔物を倒してきました。


 やはり10本はバートスにとっても規格外なのでしょう。



「バートスさん。こりゃ全力でいくしかないですよ」

「だな。これじゃ埒があかねぇ!」

「ガハハ~おっさん、きめちまえ!」


 同僚のみなさんが、声を揃えます。


 ていうか―――


「バートス? 今まで全力じゃなかったんですか!?」


「いや……そうだな」


 珍しくバートスが口を濁した。


 普段のバートスなら、こんな時ははっきり言い切るはずです。


「お嬢ちゃん、バートスさんの力はこんなもんじゃない」

「ああ、俺たちが勤める前の話だが、いちど焼却場が燃えたことがあるって聞いたぜぇ」

「ガハハ~~おっさんやりすぎだ!」


 代わりに同僚の方たちが会話を紡いだ。


「リズ……」


 ようやくバートスが口を開いた。


「今の【焼却】は常時発動できる炎と、先ほど体内にためた炎を併用して発動している」

「バートスが体内にためると言っていた炎ですね」

「そうだ、ためた炎は一定の力で放出しているんだ」


 なるほど、だからいつもよりもより大きな炎を出すことができるのですね。


「が、これをまとめて一瞬で放出することもできる」


「え!? 一瞬で……」


 一定量の放出でもとんでもない威力だったのに。

 まとめて一気に放出すれば……もう想像がつきません。



「これをやったのは、一度だけだ―――

 まだ【焼却】のことをよく理解していない頃に、やらかした。俺には扱えない炎だったんだ。親父が身を挺して俺を救ってくれたが」


 その瞳は少しいつもと違い、バートスらしい余裕が感じられない。


「親父は元より体にガタがきていたが、俺のせいで大けがを負わせてしまった。そのまま復帰することなく清掃局を辞めることになったよ」


「バートス……」


「つまりだリズ。これは能力なんかじゃないんだ。単に暴走する制御不能の炎なんだ。使用すれば親父の時と一緒になってしまう」


 バートスがいつもと違う顔をしている理由がわかりました。



 ずっと悔いていたんですね。



 理由はどうあれ、父親を傷つけてしまったこと。

 もっといえば父親の大好きだった仕事を奪ってしまったことに。


 すぅ―――


 私は一呼吸おいて、バートスをしっかりと見た。



「一緒じゃありません。その時と大きな違いがありますよ」


「違いだって……?」


 バートスが少し首を傾げる。


 そりゃ違いますよ。なぜなら―――



「――――――私が傍にいます」



「しかし……【全力焼却】を使うとなると暴走が起こるぞ。しかもいまだかつてないほどの」


 この人は私のことを心配してくれているのですね。

 自身の父親にしたことが重なってるんだ。



 たしかに今回の暴走は、今までとは比べ物にならないでしょう。


 でももう大丈夫なんです。


 バートスと出会ってから、ずっと彼が助けてくれました。


 何度も心が折れそうになったけど、


 バートスはずっと私を肯定し続けてくれたから。


 バートスはずっと私の背中を押し続けてくれたから。



 だから、今度は私の番なんです。



 ―――彼の背中を押す!!



「バートス! 思いっきりやってください!」

「しかし、暴走が……」


「大丈夫です! 全て私が受け止めます! 信じてください!」


 なんの迷いもない。

 彼がずっと傍にいてくれたから。


「リズ……わかった」


 私の目をみたバートスは、ニッコリと微笑んでくれた。


 あ、いつものバートスになりました!?



「ハハッ! さすが聖女リズだ! よしきた!」



「フフ、そうですよあなたの聖女ですから」


 良かった。



 私はバートスの手をギュッと握る。

 バートスも同じくギュッと握り返してくれた。



「エレナ、フルパワーです! いきますよ!」

『らじゃー! どんとこいなのじゃ!!』


 聖杖のエレナが光り輝き、私の身体から青い結晶の輝きがバートスを包み込む。

 これでバートスは全力を出しても大丈夫。


 根拠はないけど、絶対に暴走させないから大丈夫です。


 私とバートスの視線が10本に向きます。



〖グハハ~おっさんが、いまさらなにをしてもむだ〗



 そんなわけないでしょう。


「バートス、あそこにふんぞり返っている魔物にガツンとかましますよ」

「ああ、もちろんだ。リズ」


 バートスは凄いんだから。


 出会った時から、今までずっと。


 そんなバートスが、唯一の能力を思いっきり解放します。




「――――――【焼却】全力発動!!」




 ―――――――――ボボボボボウっ!!!




 極大ブレスを吐く10本と、バートスの全力【焼却】の炎。



 想像を絶する2つの炎が衝突した。




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