第65話 10本(カイザーヒドラ)の実力
俺たちはアルバートがいる砦に到着した。
四角い建物で上部が櫓状になっているという、いたって簡素な作りの砦だ。
その砦はところどころ溶解しており、今までの激戦を物語っていた。
「―――アルバート先生!」
「おお、聖女リズロッテにバートス殿か。よく来てくれた」
俺たちを歓迎するアルバート。
その笑顔とは裏腹に、疲労の色がみえる。
守備隊長は早々に負傷してしまい、彼が臨時で指揮を取っているとのことだ。
俺たちは各自担いでいたバックパックを近場の兵に渡す。
中身は体力ポーションと魔力ポーションだ。
「ふむ、あの化け物のブレスに物資倉庫をやられてしまってな。これは助かる」
アルバートは近場の兵数名に、ポーションの配布を指示しながらゴクゴクと魔力ポーションを飲み干した。
「なるほど、あれは魔界から来た怪物という事か。とんでもないやつがきたもんじゃ」
俺の説明にアルバートが頷き、眉間にしわを寄せた。
「さて―――」
俺は砦の最前線に歩を進める。視線の先にあるのは10本の首を持つ魔物。
やっぱデカいなこいつ。
10本はその動きを止めていた。
自身のブレスを相殺されたことに少なからず驚いたのであろうか。
俺が前に出ると、その10個の頭が一斉にこちらを見た。
〖おっさんか〗
〖こいつ魔界にいたおっさんだ〗
〖火を出すおっさんか〗
〖いまいましいおっさんか〗
いや、おっさん連呼すんなよ。
俺が視界に取りやすい場所に出たからか、砦内の兵士たちも俺に注目する。
「おお、あれはミスリルドラゴンを討伐した時のおっさんだ!」
「炎のおっさんだ!」
「燃えるおっさんだ!」
こっちもおっさん連呼かい。
おっさんであることは間違いないけどな。
そんなおっさんコールを受けていると、砦がミシミシと揺れはじめた。
〖おっさんつぶす〗
〖そうだそれがいい〗
〖やっちまえ〗
10本はその巨体を揺らして、再びこちらにズンズンと前進を開始した。
やはり魔界の特別施設で俺に【焼却】処理されていたことを根に持っているようだ。
俺は下腹に力をいれて【焼却】を発動する。
――――――ボボボウっ!!
俺の炎が10本の巨体を包み込む。
やはり、ここまでの巨体だとかなり力まないとダメだ。
炎の中で複数の頭が口を開く。
〖なんだこれ〗
〖たいしたことないな〗
〖―――ふん!〗
10本の声とともに、俺の炎は四散して消滅した。
「う、うそ……バートスの【焼却】が押し負けるなんて……」
「うわぁ~~あたしもはじめてみた」
リズやカルラから驚きの声が漏れる。
それはそうだ。こいつはトカゲなどとはわけが違う。
魔界ゴミ焼却場では、10本を定期的に燃やしていたが完全に灰には出来なかった。
しかもそれは魔王さまが、大きなダメージを負わせたあとなのだ。
ある程度体力を削るまではいったが、その後追放されてしまったから仕事は完遂できなかった。
だから俺の【焼却】で瞬時に灰にすることは難しい。
俺一人ではな……
〖なんだおっさん〗
〖これはよゆうだな〗
〖かった〗
〖いっきにけし飛ばそう〗
〖そうだ、それがいい〗
5本の首が前にせり出してくる。
――――――こんどは5本の炎か。
「バートス! 結界を張ります!
―――エレナいきますよ!!」
『らじゃ~なのじゃ~~』
そう、俺一人だとどうにもならんが、おっさんには仲間がいる。
リズが結界を発動。
青い氷の結晶が、光を放ちながら砦全体を囲んでいく。
「我らも
アルバートが魔法師団の若手を総動員して魔法の壁をバンバン展開していく。
〖むだ〗
〖そんなかべ〗
〖むいみだ〗
〖―――くらえ〗
10本から、5つの強烈な炎が吐き出されて、砦全体に襲いかかる。
リズたちの展開した壁と10本の炎が正面から衝突した。
「くっ……なんて強烈な炎ですか……」
ギシギシと音を立てるリズの結界。
さすがに正面から5本の炎はキツイか。
だが―――
俺が自由に動けるぞ!
10本の炎をまともに受けるのはマズイ。耐えたとしてもダメージが大きすぎるからだ。だが、リズたちが10本の炎に対応してくれたことで俺は【焼却】に専念することができる。
下腹にグッと力を入れる。
―――強く燃え盛る炎のイメージだ。
「――――――【焼却】!!」
―――――――――ボボボボウッ!!
力強く繰り出された俺の炎が10本に直撃する。
〖おっと〗
〖さっききとはちがう〗
〖そうだな〗
10本の巨体が少しばかり揺れる。
〖―――だが〗
〖たいしたことない〗
〖ああ〗
〖さしてあつくない〗
10本は5つの頭から吐き出される炎を止めて、再び同じセリフを放つ。
〖――――――ふん!〗
再び俺の炎は四散した。
むっ……これでもダメか。
想像以上に10本は体力を回復させているっぽい。
俺が追放されてから、なんの対処もしていなかったからだろう。
いかんな、やはり即席の【焼却】では決め手に欠く。
「はぁはぁ……とんでもない炎です……」
『ふにゅう~~力が……もうヘトヘトじゃあ』
「ぐっ……総員今のうちに魔力ポーションで補給! いそげ!」
壁を張ったみんなの疲労が大きい。
〖グハハ〗
〖こいつらおそれている〗
〖きたきたこれだ〗
〖うまい〗
〖もっともっと〗
そういえば魔王さまが言ってたな。10本は負の感情を喰らうと。
うむ……
やはりためる時間が必要か。
「バートス? どうしましたか?」
リズが俺に視線を向けて問いかける。
「ああ、リズ。俺の【焼却】は即時発動するのが通常なんだが、それだと今の10本は燃やせない」
「たしかに、バートスの炎はすぐに出ますからね……ってことはもっと強力な炎が出せる方法があるのですか?」
「そうだ、【焼却】を体内で発動してためることができる。ためればためるほど、威力の増した炎を持続することが出来る」
「ということは……バートス」
「ああ……ためる時間があれば、10本に対抗できる炎を繰り出すことができる」
だがその間、俺は何もできない。
「わかりました。アルバート先生、引き続き魔法師団のみなさんと
「わかった、聖女リズロッテ殿はどうするつもりだ?」
「私がエレナとともに10本に直接攻撃を仕掛けて、注意を引きます」
「な! 単騎で突撃だと? 無茶だ!」
「もちろんどうこうできるとは思えませんが、なんとか翻弄させて―――」
「リズ―――ここはあたしがいくよ」
リズを止めて、前に出て来たのはカルラだった。
「か、カルラですが!」
「リズはバートスさまの傍にいないとダメだよ~~」
カルラはいつもの口調であったが、なにかが違う。
「あたし行ってくるねバートスさま」
そう断言したカルラ。
その綺麗な紅玉色の瞳が強く燃えている。
彼女なりになにかを決意したような目だ。
「わかった。任せたぞカルラ」
「は~~い! 任されちゃいます~~!!」
そう言うとカルラは10本に視線を向けた。
「久しぶりじゃん怪物さん。こんどは逃げないから―――あたし」
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