第64話 おっさん、懐かしのゲナン副局長に会う

「あれが10本ですか……」

『ひぃいい~~デカいのじゃぁ』


 俺たちは魔王さまの転移魔法により、現地付近に到着した。


 その場に着くなり、視界いっぱいに巨体がうつる。


 分厚い四肢に支えらえた巨体から伸びる10本の首が、ユラユラとうごく。

 カイザーヒドラ、通称10本である。


 ズンズンと巨体を揺らしてゆっくりと前進する10本。

 その先にあるのは砦だ。


「バートス! 砦が半壊してます!」

「ああそのようだな、リズ」


 俺たちは10本の後方に転移したようだ。

 その先に見える砦は10本の攻撃により、半分崩れてしまっている。


『はわわわ~~砦が溶けているぅうう~怖すぎるのじゃ~』


 エレナの言う通り、砦の一部は溶けている。

 10本の炎で溶けたのだろう。


 だが砦は沈黙しているわけではなく、近づく10本に攻撃を加えている。

 全滅したわけではないようだ。


 その先頭にみた顔のじいさんがいた。


「せ、先生は無事なようです! バートス、まずはアルバート先生たちと合流しましょう!」

「わかった、リズ」


 俺たちは10本を回り込むようにして、砦に向かう。



「と、とんでもない巨体です……」



 走りながら、リズが声を漏らした。

 たしかに、今まで討伐したどの魔物よりも大きい。


「ねぇ~バートスさま~」

「どうしたカルラ?」

「10本の足になんか引っ付いているよ~~」


 んん? じっと目を凝らすと。


 たしかになんかついてるな。人か?

 ついているというか、しがみついている感じ。



 そして次の瞬間―――



 ポイっとそれはこちらへ飛ばされてきた。


 飛ばされて来たそれは、俺たちの目の前にべっちゃっと落下した。

 急に行く手を阻まれた俺たちは、いったん急ブレーキをかけて停止する。



「キャッ! な、なんですか!」

『ふぁ! 人が飛んできたのじゃ!』



 地面にべちょっと頭から突っ込んだ人が、むっくりと起き上がる。


「ぐはぁああ……死ぬかと思ったぜぇ……」


 顔面血まみれの男が発した言葉。


 聞き覚えのある声だ。それに――― 

 ―――なんか見たことあるぞ。まさか!?


「あ~~~あんたは~~!?」


 カルラも気づいたようだ。


「ふ、副局長か……?」



「んん? なんだ無能のおっさんじゃねぇか……って、ああ!!」



 ゲナン副局長の視線が俺の横にいるカルラに移る。

 とたんに身体がブルブルと震えだして、目がバキバキに充血しはじめた。


 なんだかヤバそうな雰囲気だぞ。



「うほぉおおおおお~~~!! カルラた~~~ん!!」



 そして、ゲナンがとんでもない跳躍力でカルラに飛んできた。まるでカエルだ。



「キモい!!」


 ――――――バチンっ!!



 が、跳んできたゲナンはカルラの強烈な平手打ちで、元いた場所まで吹っ飛ばされた。


「がはぁああ……ど、どうして俺様のカルラたん!」

「キモいし! しゃべらないで!!」


「俺様がキモい? そっかぁああ! 照れてるんだね!」 

「いや、普通にキモいって、言ってんの!」

「またまた~~恥じらいだね~! わかるよ、うん! わかるよぉおおお!!」



 副局長……何を言ってるんだ? 



「バートス! この人ザーイ王子っぽいです!」

『うわぁ……たしかにあのバカ王子と同じ匂いがするのじゃ~』


 リズとエレナがドン引きしてるじゃないか。


 毎度思う事だが、ゲナン副局長はまったく会話が成立しないな。


「ところで、どうして副局長が地上(人間界)にいるんだ?」


「ああ? おっさん、てめえのせいだよこの能無し野郎が」

「俺のせい? どういうことだ?」


「だ~か~ら~~、おっさんのせいで俺様は魔王様に怒られたんだよぉおお! てわけで、この化け物を地上に放っておっさんもろとも葬りさってやろうってことだぁ!!」

「なにを言っているんだ? 正気か?」


「たりめぇだろうが! 俺様まで転移ゲートに巻き込まれさえしなければ完璧だったのによぉお! 全部おまえのせいだ! バートス!」


 さっきから何を言ってるんだ、この男は。

 自分がしたことが分かっているのか?


 俺の拳に力が入る。


 だが俺よりさきに大声を出した者がいた。



「さっきから聞いてれば! ―――なんですか、あなたは!!」


 リズだ。


「んん?」


「そもそもあなたがやった事でしょう!」


「―――んん?」


「なぜバートスのせいにしているのですか! 意味がわかりません!!」


「……いい」


「え? なに?」


「いいじゃないか! 君、カルラたん並にいいじゃないかぁあああ!」


「ちょ、この人……な、なにを言って……」



「―――うほぉおおおおお~~銀髪ブルンちゃん!!」



 うわ! 副局長のやつ……リズに飛びつく気か! 

 俺は阻止しようと、地を蹴ったのだが……



「キャ! 気持ち悪い! ―――えぃ!!」

『なんじゃこやつ! ぶっ飛ぶのじゃ―――!』



「ぶげらぁああああああぁぁぁぁぁ!」


 ゲナン副局長は思いっきりリズの聖杖にぶん殴られて、10本の方へ吹っ飛んで行った……



 ズ―――ン!!


 プチっ!



 飛んで行った場所が運悪かったのか、10本の分厚い足に踏まれた副局長。


「あ~~これは強烈だね~」

『プチっと逝ってしまったのじゃ』

「じ、自業自得です! 気持ち悪かった……」


 三人の女性からはまったく同情されていない……

 まあ、これは仕方ないか。



 副局長をプチッと潰したことなんぞまったく気付いていないであろう10本が、赤い閃光を放つ。



「―――バートス! ブレスです!」



 おっと、ゲナンという余計な邪魔が入って行動が遅れてしまった。

 3つの頭が砦に炎を放ったのだ。


 俺はすかさず【焼却】を発動。



 ―――ボボウっ!!

 ―――ボボウっ!!

 ―――ボボウっ!!


 俺の放った炎が10本の3つのブレスと衝突して爆発音が舞う。

 3つのブレスを相殺したことにより、10本の注意がこちらに向く。



 さてと……おっさんも加勢させてもらうぞ。




―――――――――――――――――――


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