第63話 おっさん、決戦の地へ

「準備はできましたね。みなさん」


 いつもの服装に戻った俺とカルラは頷き、エレナは杖を揺らした。


 俺たちは魔王さまの転移魔法で、現場近くまで移動させてもらうことになった。

 数名程度なら遠隔でもできるらしい。


 さすが魔王、見た目は幼女だけど。


「みなさん気を付けて。バートス、必ず帰ってきてくださいね」


 ファレーヌが俺の右手を握ってキレイな瞳をこちらに向ける。そのまま俺の右腕に身体を預けてきた。

 いや……仮にも王女だからな。


 すると左腕と背中になんか柔らかいのが引っ付いてきた。

 リズとカルラだ。


 この子達大丈夫か? おっさんに引っ付いてなにをしている?

 国王の鬼視線がヤバいぐらい突き刺さっているんだぞ。



〈なんじゃバートス。お主の妻たちか? 見せつけるのう〉


 画面越しに魔王さまがニヤニヤしている。

 この人、おっさんの窮地を楽しんでるな。


「この子たちは俺の妻じゃない。誤解を招くような発言をしないでくれ」

〈そうかのう、そやつらはまんざらでもなさそうじゃが。人族2人に魔族……それにその杖は天界のやつか……んん? いや、天界の神力を別に感じるが〉


 神力ってたしか天使たちの力の源だったか。それがあるのはエレナだけだろう。他に天界の力をもっている子はいない。


「魔王さま、遊んでないでさっさと送ってくれ」


〈ふぅ。まったくノリの悪いやつじゃ〉


 ノリで妻とか言うんじゃないよ。

 たく、しょうのない人だ。


 魔王さまがパチンと指を鳴らすと、俺たちの周囲が輝きはじめる。


「さあ、行くかリズ」

「ええ、バートス」


 10本は強敵だ。たぶん俺の力を出し切らないとダメだ。


 自然と拳に力が入る。


 そんな俺の手をそっと握る小さな手。


「バートス、思いっきりやって大丈夫ですよ」

「リズ……」


「聖女の私がいるんですから」


 そうだな、俺にはリズがいる。


 俺の目に闘志が宿るとともに、周辺の景色は王城から決戦の地へと変わっていくのであった。




 ◇◇◇




 ◇アルバート視点◇


 王国、北の砦。

 その砦の正面にはとてつもなくデカいヒドラが10の首をうねらせている。


「アルバート師団長~~前衛の騎士団被害甚大! これ以上はもちません!」

「くっ……いったん砦に下がらせよ!」


 とんでもないことになった。


 処刑を覚悟したわしじゃったが、国王陛下より死ぬまで国に尽くせとのお言葉を頂き、再び現職に戻ることができた。


 頂いた命じゃ。今まで関わってきた魔法師団のために出来ることをする。

 まずは若手育成のため、北の砦にて実地訓練を行っていたのだが。


〖もろい〗

〖なんだこれは?〗

〖にんげんもろい〗


 なんじゃこいつは……

 言葉を話す魔物だと。


 10本の頭がそれぞれに口を開く。


〖ちまちま〗

〖めんどくさい〗

〖ふきとべ〗


 そのうちのひとつがこちらを向いて口を大きく開く。



「ブレスがくるぞ! 魔法師団! 総員―――魔法防御壁用意!」



「「「「「魔力の壁よ、敵の攻撃を拒め! 

 ――――――魔法防御壁マジックシールド!」」」」」


 砦に展開される魔法の壁。

 成長途中の若造たちなので魔法の練度は荒いが、何重にも重ね掛けしているのだ。


 容易く破れはしな……


 ぐっ―――!


 なんじゃ、あのブレスは!?


 あれは炎なのか? 


 分厚く赤い光の束が、展開している魔法防御壁マジックシールドを粉々に打ち砕いていく。


 ―――いかん!


「そう簡単には抜かせん!―――七重詠唱レインボーマジック

「「「「「「「――――――上級火炎魔法ハイファイアーボール!!」」」」」」」


 わしの放った7つの特大火炎弾が、赤い光の束と衝突する。


 とたんに周囲を高熱が吹き荒れて、大爆発を起こした。


 砦の外壁がドロリと溶けて、あちらこちらからうめき声が聞こえてくる。

 なんという炎じゃ。



 たった一度のブレスでこのありさまか……。



「あ、アルバート師団長ぅ……各所で被害発生。外壁の半分近くを消失。負傷者多数!」


 ぬぅ……ここで諦めるわけにはいかん。


 こいつを行かせてしまったら、すべての町が火の海と化すだろう。



「守備兵は負傷者の対応! 魔法師団に告ぐ! 総員魔法攻撃準備!」


 守勢に入ったら確実に全滅じゃ。

 もはや砦の意味もほとんどない。


 魔物が本領を発揮する前に―――



「――――――魔法師団、総攻撃開始せよ!」



 無数の火炎弾が魔物に向かって放たれる。

 動ける魔王師団兵、全員の一斉攻撃だ。


 何十何百という炎が、赤い軌跡をえがいて敵に降り注ぐ。

 わしも、多重詠唱を使い、ありったけの炎を魔物に叩き込んだ。


 が―――


「アルバート師団長ぉおお! 魔物は依然健在!」

「なんというやつじゃ……」

「ダメです! か、火力が足りません!」


 くそ……これ以上火力など。どこにあると言うのだ。


「し、師団長! 魔物の口がぁああ!」


 マズイ! またブレスがくる!!


 若造たちの魔力はもうほとんど残っていない。


 このままでは……王国はおろか世界が滅びるぞ……



〖くそもろい〗

〖こいつらざこだ〗

〖さっさとほろびろ〗



 再度放たれる赤い炎の閃光。

 しかも今度は3つの頭からだ。


 1つでも壊滅的な威力があるのに……3つ同時だと。



 もはやここまでか……



 わしを初め、砦を守る兵は誰もが絶望の淵に立たされた。



 ―――なんだ!!



 ―――なにかがくる!?



 飛んできたのは炎の塊だ。


 その炎は魔物の放った赤いブレスと衝突して大爆発が起こり、すべてを空中で相殺してしまった。



「アルバート師団長! こ、後方から炎が! 魔物の動きが止まりました! いったい誰が!?」


 これは……見覚えのある炎じゃないか。


 忘れろと言われても忘れられんぞ。


「安心せい。味方じゃ」

「ええ? 王国の援軍でしょうか? にしては早すぎるし、あんな大魔法……みたことがありません」



 ハハ、こんなことが出来るのはあの男しかいない。

 まさか……来てくれるとはな。



「これは生き残れるかもしれんな、わしら」



 希望の光が見えてきたぞ。






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