第62話 おっさん、魔王と話す
「―――ええぇ!! ま、ま、魔王ですってぇええええ!!」
リズがパニック寸前の声をあげる。
まあ映像とはいえ、いきなり魔王が出た来たらビックリするか。
「そうだリズ。あの人が魔王だ」
「ば、ば、バートスは魔王と知り合いなのですか!?」
「ああ、親父が生きていた頃はちょくちょく家に来たりしてたからな」
「ええぇ……なんですかその庶民的な感じ……」
まあ、良くも悪くもあまり威厳とか気にしない人だからな。
あ、人じゃないや、魔王だった。
周りを見ると、ほぼ全員が固まっている。
国王も、ファレーヌも兵士たちも。
「ごくり……あ、あれが魔王……まだ幼いのですね……」
『リズの言う通りじゃ。なんか子供みたいなのじゃ』
あ、マズイ……
それ言っちゃダメ。
「な、魔王が王城に!?」
「っていうかあれが魔王?」
「あのちびっこい幼女が?」
「ロリっこ魔王だ!」
うわぁ、兵士たちも好き勝手に言い出した。
だからそのワードはマズいんだよ。
が、俺が止めらるわけもなく……
〈―――うらぁあああ! だれがチビロリ魔王じゃぁあ!!
わらわは大人じゃ! ―――その証拠をみるがいい!〉
やっぱりキレちゃった。
っていうかなんか胸部をめっちゃ前にだした。
「ええ? なにを見るんだ?」
「なにもないぞ?」
「平地だ……ぺったんこだ」
「ちょっとみんなひどいよ~~もっとよく見てあげてよ~ちょっとだけ出てるでしょ!」
ムチムチ魔族がドデカイ2つをブルンと震わせて言う。
カルラ、おまえが言ったら逆効果だ……
〈ぬぅうう! こやつらふざけよって……いっぺんしばきまわすぞ!!〉
「ぐっ……魔王め、やはり攻めて来たのだな」
「こうなったら我ら王国騎士の意地をみせてくれる!」
魔王さまが映し出されている黒い壁を攻撃し始める兵士たち。
〈あ、こら! ガンガンすな! やめれ~~それ高かったんじゃぞ!〉
いかん、滅茶苦茶になってきた。
しょうがない―――
「―――【焼却】」
――――――ボウっ!
俺は空に向かって軽く【焼却】を発動した。
室外から聞こえた炎の音に驚いた兵士たちが、俺に注目する。
「よし、いったん落ち着いてくれ。魔王さまは君たちの国を攻めに来たんじゃない」
俺の言葉を聞いた兵士たちは、一斉に国王へ顔を向ける。
「うむ、我が騎士たちよ。バートスの言う通り、いったん矛をおさめよ。
して魔王殿、わしになにか話が合ってのことであろう?」
〈ふぅ……あやうく壊れるとこじゃった。うむ、わらわは魔王ヒルデアじゃ〉
「ラスガルト王国、国王のガイデル・ロイ・ラスガルトである」
〈ガイデル国王よ、いきなり邪魔したことは詫びるのじゃ、すまんかった〉
「かまわぬ。バートスとは知り合いのようじゃが?」
魔王さまは俺の生い立ちについて国王に軽く説明した。
「バートス……お主……」
「いや、国王陛下。黙っていてすまなかった」
魔界から来たとか言っても混乱するだけだろうし。
信じてもらえるとは思えんからな。
「ふむ、どこで育とうがバートスは聖女リズロッテの従者にて王国の大事な民じゃ」
そう答えた国王は再び魔王さまに視線を移し、会話の続きを促した。
〈ガイデル国王よ。―――カイザーヒドラが地上に放たれた〉
「カイザーヒドラ?」
〈魔界のヒドラを束ねていた親玉じゃ〉
「魔王さま、そいつは10本のことだな」
俺は会話に割って入る。
〈そうじゃバートス。わらわが討伐して清掃局におくった10本じゃ〉
「しかしなぜ10本が動けるんだ? 魔王さまにこっぴどくやられて回復してないはずだぞ。まさかゲナン副局長が……」
〈あのアホ(ゲナン)はお主を追放した挙句に、なんの対処もしとらんかった〉
うわぁ~~副局長なにやってんだ……
あれだけ言って引継ぎ書も渡したというのに。
「ってことは、北の砦で暴れている魔物って」
〈そうじゃ、10本じゃ〉
マジかよ……これはヤバいぞ。10本は普通の魔物とは違う。
〈本来ならばわらわが地上へ出張る案件じゃが、それは出来ん〉
魔王さまの説明によると転移ゲートが破損してしまったらしい。
10本が動力源の魔力タンクを吸収してしまい、さらに無理やりゲートを使用したようだ。
現状、転移ゲートの使用は制限がかかっており、魔王さまのような強力な魔力を持つ者は通れない。
そもそも天界との地上不可侵の約定がある為、魔王さま自身はすぐには動けないしな。
〈そこでじゃ……アホ(ゲナン副局長)がお主を地上に追放した話を思い出してのう〉
あ、なんか嫌な予感する。
〈―――バートス! お主に10本討伐を任せるのじゃ〉
やっぱり……
まあどのみち救援に駆けつける予定ではあったけど。
「バートス」
リズが俺の両手をそっと取る。
「そこまで危険な魔物であれば、すぐにでも駆けつけないと」
そうだよな。俺は聖女リズロッテの従者。
「ああ、わかってるよリズ。
―――ってことで魔王さま。やれるだけの事はしてくるぞ」
魔王さまは静かに頷く。
そして話を聞いていた国王が口を開いた。
「うむ、だいたいの事情はわかった。王国の危機である。急ぎ王国軍を招集する。悪いが聖女殿一行は先行して北の砦に向かってくれ」
〈すまぬのガイデル国王。今のゲートでは魔王軍の本隊も送ることができん。じゃが数名なら地上に送れるので、魔王軍の幹部数名を加勢させるでな〉
「相分かった。よもや魔王とこのような話をするとは思ってなかったぞ」
国王も動き出す。
「魔王さま」
〈なんじゃバートス?〉
俺はひとつだけ我儘を聞いてもらうことにした。
「転移ゲートは数名なら使えるんだな?」
〈そうじゃ、現状招集できている魔王軍幹部数名を……〉
「いや、幹部はいらない」
〈うむ? では誰を送るんじゃ?〉
「―――俺の元職場の仲間を送ってくれ」
〈そうか、そうじゃったな……わかった出来るだけ早く手配しよう〉
魔王軍幹部とやらは俺も良く分からん。
一緒に仕事をするなら―――知っている奴らがいい。
つまり―――
清掃局の仲間以上のやつらはいないってことだ。
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