第61話 おっさん、思わぬ人物から連絡がくる

 ◇ニセ聖女:魔族ミサディ視点◇



 ラスガルト王国 北の砦付近の森にて。


「きぃいいい……もうクタクタですわぁ……」


 おっさんに燃やされかけて……命からがら逃げに逃げた。


 お金も無いし、もう王城にも戻れない……。


 なんですのこれは? 

 真昼間になんで森なんか彷徨わないといけないんですの? 熱いですわ! 冷えたワイン飲みたいですわ!


 贅沢三昧の日々はどこにいってしまいましたの!


 くぅうう、全部あの出来損ない聖女とおっさんのせいですわぁ!



 ―――あら? なんか急に暗くなりましたわ?


 なんですのこれは? 


 ―――!?


「な、なんかデカいの出てきましたわぁあああ!!」


 前方からズンズンこちらへ来る魔物。

 なにこれ? ドラゴン?? デカすぎ! 首が10本もありますわ!


「ひぃいいい、こんな魔物見たことありませんわ!」


 ヤバいですわ! こんなの地上にいましたの?



 キャアアアですわ! 首が動いてわたくしを見てますわぁああ!



〖ここはどこだ?〗

〖なんかまりょくをくってたら〗

〖ここにきた〗


 なんか喋ってますわぁあ! 

 魔物が会話するなんてぇ!



〖おいおまえ〗

〖ここはどこだ〗

〖まかいか?〗



 ひぃいいなにこの魔物。魔界からきた伝説級のヤバイやつですわぁ。


 ―――あ? ちょっとまてですわ。


 こいつを【魅了】して従えれば~~~ふたたび支配者に返り咲けますわ!

 ンフフフ~~~やはりわたくしは頭がいいですわ。



「魔物さん、ここは地上(人間界)ですわ。いまからいいものあげますわ~~

 ――――――【魅了】!」


〖ちじょうだと?〗

〖にんげんかいということか〗


 はれ?


〖まあいい〗

〖どこにいようがおなじこと〗

〖じゅうりんしてやる〗


 ちょ、なに普通に会話すすめてますの!

 ―――【魅了】【魅了】みりょぉおおお!!


〖おい、こむすめ〗

〖さっきから〗

〖なにをやっている?〗

〖そんなクソみたなまりょく〗

〖わしにつうようするわけないだろ〗


 な、なんで!? わたくしの固有能力が……。


「そ、そんなわけありませんわ! 【魅了】【魅了】【魅了】ぅぅぅ……」


 ズーーーン! 



 ――――――プチっ!



〖つぶれた〗

〖うるさいのつぶれた〗

〖もろい〗


〖ちょうどとりでがみえるぞ〗

〖にんげんどもがいるのか?〗

〖しらん〗

〖いればみなごろしだ〗

〖じゅうりん〗

〖あばれるぞ〗

〖がはは〗




 ◇◇◇



 ◇バートス視点◇




 ラスガルド王国、王都にて。


「うむ……動きずらいぞ」


 討伐パレード出席のために俺は正装させれていた。


「フフ、似合ってますよバートス」

「わぁあ~~カッコいいバートスさま~~」


 リズとカルラからお褒めの言葉を頂いたのはいいが、いかんせん体が動かしにくい。


「無理をすると破けそうだ」


 普段着ることのない上等な服なので、おっさん気を使うじゃないか。


「聖女第一の従者なんですよ。それぐらい我慢です」


 そういうリズは煌めく純白の法衣に青いベールをかぶっており、とても綺麗かつ清楚な感じに仕上がっている。なんかどこぞの花嫁みたいだ。


 まあ元が良いからなに着ても似合うんだろうけど。


 しかし、本当に見惚れるほどの美しさだな。


「すげぇ……聖女らしさ200点だ……」

「フフ、なんですかそれ? 褒めてるんですか?」


「聖女が何を着るものなのかは知らんが、とにかく惚れ惚れする姿だぞ」

「まあ、バートスらしいですね。でも褒めてもらえたなら嬉しいです」


 そう言って少し頬を赤くするリズ。



「むぅ~また2人でイチャイチャしてるぅ~~」


 おっと、もう一人のドレスを着た姫が頬を膨らませている。


「カルラもとても綺麗だぞ。より美人さんになったな」


「えへ~~~でしょう。やた~バートスさまに褒められたぁ~」



『バートス、われはどうじゃ?』


 そうだった、聖杖もおめかししてるんだったな。


「ああ、いつもよりも光っているぞエレナ」


 エレナはピカピカに磨かれて、白いレース柄の布が杖の一部に巻かれていた。


『われもドレス着たかったのにぃ』


 エレナが天使であることは、第三王女のファレーヌや国王には伝えてある。

 が、パレード中は聖杖としての姿を求められた。


 聖杖は聖女の象徴でもあるからだ。


 それに杖がいきなり天使になったら、民衆はパニックになるかもしれん。

 ならないにしても、混乱はおこるだろう。


「エレナ。すまんがパレード中は我慢してくれ。終わったら食事会だ。その時は天使状態でいっぱい食べていいからな」


『しょうがないのじゃ……リズと一緒にパレード楽しむのじゃ』


 そう言ってリズにすり寄る杖。


 なんだかんだ言いつつも、リズといることが好きなんだろう。

 彼女と共に戦う事で絆が深まっているのかもしれないな。



 準備の出来た俺たちは、国王のいる謁見の間に移動した。

 そこから国王と共にパレード用の馬車まで行くらしい。


 俺たちが進む道の左右にラッパをもった兵がズラリと並ぶ。



 うぉ……おっさん緊張して来た……。



 だがその場で鳴り響いたのはラッパのファンファーレではなく、必死の形相で駆けつけた兵士の声であった。



「―――急報!! 北の砦を巨大な魔物が急襲! 至急援軍の要請あり! 危険度SSS級とのこと!」

  

「なんじゃと! 砦の状況は?」


 国王が伝令兵士に鋭い視線を向ける。


「砦の守備兵および訓練中だったアルバート魔法師団が、魔物と交戦中とのことです」


「将軍! すぐに援軍の準備じゃ! そして―――

 聖女リズロッテよ、すまぬが其方たちも行ってくれるか?」


「はい、国王陛下。バートス、カルラすぐに出立の準備を!」


「お、おう!」


 マジかよ……エスエスエス級ってなんだ……。


 この世の終わりみたいなやつが暴れてるのか?


 とにかくパレードは終りだ。

 そんなことをやっている場合ではないからな。


「バートス、カルラ! 着替えましょう!」


 たしかにこんな格好じゃ、うまく動けん。


〈ばーと…す…〉


 んん?


「どうした? リズ?」

「え? なんですかバートス?」


 あれ? 俺の聞き間違いか。

 誰かが俺を呼んだような気がしたんだが。


「とにかく急ぎましょう!」


 リズたちと共に先程の控え部屋に行こうとした時だった―――



〈ばーとす! こりゃ! 返事せぇ! 聞こえとらんのかぁああ!!〉



 びーーんと謁見の間全体に響くデカい声。



〈おい、なんじゃこれ? ボリュームしっかり調整せい! あと映像出とらんぞ!〉


 んん? 


 聞き覚えのある声……おい、もしかして……。



 俺たちの眼前の空間が歪んだかと思うと、黒い壁が現れる。


「ば、バートスなんですかこれ! こ、攻撃ですか!? 魔法!?」

「ああ……リズ。たぶん大丈夫だ」

「でも、なんだかとんでもない魔力を感じますよ!」


 そして、その壁面に何者かが映し出された。


 やっぱり―――



「―――なんであなたが?」



〈おお~~ばーとす! 久しぶりじゃのう! ちと映像調整に手間取ったわい〉


 相変わらず軽い感じで絡んでくるな、この人。



「どうしたんです? 魔王さま」


 リズがとんでもない魔力を感じるのは当然だ。

 俺に絡んできたのは魔界の王。すなわち魔王なのだから。







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