第60話 魔王さま、副局長ゲナンにブチ切れる
◇魔王ヒルデア視点◇
「ふうぅ~~~」
わらわは肩をグッと伸ばして、大きく息を吐いた。
専用大型馬車に揺られながら隣の友に視線を移す。
「久しぶりの休暇も終わりじゃな」
「はい、魔王様。満足して頂けたようでこのイジズ嬉しゅうございます」
わらわの横で口を開いたのは我が旧友のイジズ。この長期休暇を発案した本人じゃ。
天界との戦争が終わって30年、ずっと魔界の安定のために働きづめじゃったからのう。
うむ、行って良かった。
久々に良い気分転換ができたわい。
「そういえばさきほど拾った者はなんじゃ?」
「は。私が不在の間、清掃局の運営を任せておった者にございます。最終日は魔王様にご挨拶させて頂きたく参上させました。よろしいでしょうか?」
「うむ、かまわんぞ。とおせ」
大型馬車の奥から1人の男が我の前にて跪いた。
「魔王様~清掃局副局長ゲナンにございます~~ゲヘ」
うっ、なんか気持ちわる……
「う、うむ。清掃局はどうじゃ?」
「はい、魔王様! わたくしめゲナンがグフフと取り仕切っておりますので、まったく問題ございません!」
グフフってなんじゃ? 意味わからんのう……
「清掃局ゴミ処理施設は地味じゃが大事な仕事でな。よろしく頼んだぞ」
「はは~魔王さま~(グフフ~~魔王さまにあいさつ! これで俺様も出世コース確実だぜぇ~)」
なんじゃこやつブツブツと。やはり気持ちわるいのう……まあ良いか。
今日は新魔王城の完成日じゃからのう。わらわはすこぶる気分がいい。
そう、長い月日でボロボロになった魔王城が生まれ変わるのじゃ。
わらわは綺麗が大好きじゃ。
今までの魔王はド汚くて、くっさいのを気にもせんやつらじゃ。
魔王領も魔物の死骸が異臭を放ちまくって、最悪じゃった。
じゃから天界との大戦争のあと、疲弊しきった魔王軍を再編する際にいくつかの組織を立ち上げた。
清掃局もそのひとつじゃ。
そういえば清掃局にはわらわが生涯の友もおったのう。すでに他界してもうたが、たしか息子のバートスがおったはずじゃ。
懐かしいのう。久々にバートスにも会ってみとうなってきたわ。
今では古株らしいが、部下の面倒見もいいらしいしのう。あやつの【焼却】があるかぎり、ゴミ焼却場はうまく回るじゃろう。
「魔王様、間もなく魔王城に着きます」
きた~~~~~のじゃ!
綺麗な魔王城!
ピカピカの廊下!
蜘蛛の巣のない玉座の間!
ワクワクワク!!
キレイなお城~~~~~って……
――――――!?
なんか城から煙でとらんか?
な、な、なんじゃこりゃ~~~!!
建て替えられたはずの魔王城は、綺麗どころかぼっこぼこのボロボロになっていた。
ぷちっ―――
いかん……わらわ。
久々にキレちゃいそう……
◇◇◇
◇ゲナン副局長視点◇
ふわぁあああ……魔王城メタくそのボロボロじゃねぇか……
これのどこが新築なんだ?
―――ゾクゾクっ!
俺はとてつもない寒気を感じて、全身がビクビクッと震えた。
―――うおっ!!
その凍てつくような寒気の元が横にいる……魔王さまだ。
こんなちびっこい幼女みたいな外見からは、想像を絶する殺気を放ってやがる。
「魔王様に報告! 新築魔王城、全壊しました……」
「んなこた、見りゃわかるのじゃ!! で……なにがあったのじゃ」
「10本の首を持つヒドラに急襲されまして。応戦する間もなく蹂躙されて……ヒドラは満足したのかいずこかへ去って行きました」
「魔王様……10本の首をもつヒドラ……それは」
「ああ、―――カイザーヒドラ、通称
んん? 10本……なんか聞いたことあるような?
「イジズよ。10本の最終処理は清掃局に任せたはずじゃがのう」
「ええ、特別処理施設にてバートスが対応にあたっております。魔王様が存分に叩いた後に、バートスの【焼却】から逃げ出す余力などないはず……なぜ?」
―――んん?
なんかいま、クソうざいワードが聞こえたような?
「ゲナン副局長。わたしが留守の間になにかあったのか?」
「ええぇ! いや……別にとくになにもなかったですよ」
「なにも無くて10本が魔王城に来るはずがないだろ!」
んだよイジズ局長のやつ。グイグイきやがってうぜぇ。魔王様への忠誠心でも見せつけようってか?
んな事言われてもなぁ。なんもおこらねぇクソ平凡な職場だからなぁ……
―――あっ! まてよ!
「ああそうだ! 俺のカルラたん……じゃないカルラがいなくなってしまいました!」
「なに? カルラ嬢がか? なぜだ?」
「それが、意味不明な理由でして。俺がクビにしてやった能無し役立たずのおっさんを追いかけていったらしいです」
ああ、あのクソのこと思い出しちまったじゃねぇか。
イライラするぜぇ。
―――ガッ!!
え? あれ? なんか目の前が急に地面だぞ?
っていうか―――頭痛いぃいいい!
「はぅうう~~魔王さま~~なにを~~」
魔王さまが凄い形相で俺様の頭を掴んで、地面にグリグリしていた。
そして、頭上からとんでもない圧の言霊が俺に襲い掛かる。
「だ~~れ~~をクビにしたのじゃ?」
「ひぃいいい! 能無しのクズおっさんですぅうう! 痛いぃいいい!」
「だ~~か~~ら~~誰をクビにしたんじゃ?」
「ば、バートスというおっさんですぅううう! あんな能無しのこと、魔王様が知っているわけないじゃないですかぁ~~ギャァア~~グリグリ強くしないでぇええ!!」
「バートスはどこにいるのじゃ?」
「あいつは魔界にはいませんですぅううう~~」
「なんじゃと!」
「地上(人間界)に追放してやりましたから~~ギャァアアアア!! 顔取れるぅうううう!!」
「くっ……この愚か者が! 無能はおまえじゃゲナン!!」
俺は地面グリグリ地獄を死ぬほど味わった。
数分後になんとか解放された俺は、地面にぐったりと横たわる。
もう立ち上げる気力もない……
にしても、幼女体型のクセにとんでもない馬鹿力だ……顔が禿げたんじゃないかと思うぐらい痛かったぜぇ。
俺の頭上から魔王と局長の会話が聞こえてくる。
「ま、魔王様! 面目次第もありません! すべて局長のわたしの責任……指導不足です……」
「よいイジズ。始末はあとじゃ! そこのアホ(ゲナン)の話じゃと10本はそこそこ放置されておったようじゃ」
「つまり……やつの体力・魔力はかなり回復していると?」
「そうじゃ! 我の現状魔力では勝てるかどうかわからん」
「―――魔王様、報告! 転移ゲート付近にて10本を発見!」
「なんじゃと!」
「魔王さま。あそこにはゲート使用のための魔力タンクが……あれを吸収されるとさらに手が付けられません」
「むぅうう……衛兵、転移ゲート付近の住民に避難命令じゃ! わらわと魔王軍本体が到着するまでは手を出してはならんぞ! 軍本体の招集をいそげ!」
「魔王様、魔王城跡に使える武器が残っているかもしれません。行きましょう」
おいおい、みんなどっか行っちまったぞ……
んだよこれ……俺様は放置かよ。
ゴキュゴキュ……俺は懐に忍ばせていた最高級回復薬を一気飲みした。
「ふぅ……」
上体を起き上がらせるが、今だに頭の痛みは残る。
ズキズキしやがる。
クソがぁあ!
なんだよこれ?
俺様の出世イベントがぶち壊しじゃねぇか!
誰のせいだ?
んなこと初めから分かっている。
全部あいつのせいだ……
おっさん―――目にもの見せてやるぜぇ……
◇◇◇
魔界転移ゲート付近。
「いた……いやがった。あれが10本か?」
ゲートの魔法陣の上で満足そうに休憩しているクソデカいヒドラ。
近くの魔力タンクはすでに破壊されている。おそらく魔力をたらふく食べたんだろ。
「魔王軍はまだ来てないようだな……」
そりゃそうか、大軍がそんな簡単に集まるわけがねぇぜ。
それに、ゲートの施設ももぬけの殻だ。避難でもしたのか?
んん? ありゃ操作パネルか?
「ゲヘヘヘ~~こりゃついてるぜ」
この化け物をおっさんのいる地上(人間界)に送り込んでやる。
バートスぅう。おまえは追放されたあげくに、その地も地獄と化すんだぁああ!
「操作なんかわかんねぇ~~オラ!オラ!オラ!」
俺は操作パネルを適当にいじくり回した。
すると、周辺から魔法陣の起動音が響き始める。
『警告、警告。魔力タンク破損により転移魔力が安定シマセン』
「ヒャッハー起動したぜぇ~~やっぱ俺様は天才だぜぇえええ!」
『警告、警告。魔力タンク破損により転移魔力が安定シマセン。魔法陣の起動を中止してクダサイ』
「ああ? さっきからごちゃごちゃうるせぇえ! バートスぅうう! 俺様からの贈り物を受け取りやがれぇええ! ポチ!」
あきらかに目立つ赤いボタンをポチっと押した俺様。
魔法陣が輝きはじめて、10本の体を包み込んでいく。
「ギャハハハ~~行ってこい! 化け物ぉお……んん!?」
『警告、警告。転移範囲が安定シマセン。魔法陣周辺から退避シテクダサイ』
おいおいおいおいおい!
俺様も光ってんじゃねぇかよ!!
「やめ、やめろ! 俺様は行かねぇええ―――ひぃい化け物と一緒になんて嫌だぁああ!
―――ギャァアアアア!」
そして、10本とゲナンはその場から消えたのであった。
―――――――――――――――――――
いつも読んで頂きありがとうございます。
少しでも面白い! 少しでも続きが読みたい! と思って頂けましたら、
作品の「フォロー」と「☆評価」、各話「♡」で応援していただけると作者の大きな励みとなります!
すでに作品フォローや☆評価、♡応援、応援コメントをしてくださっている皆様、
本当にありがとうございます!
めちゃくちゃ作者の励みになっております!
引き続き応援よろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます