第55話 おっさん、美少女たちにからまれる(特に第三王女)

「ファレーヌです!」

「ええぇ!?」

「だからわたくしのことはファレーヌと呼んでください! バートス」


「お、おう……ファレーヌ……」


「はい、よくできました。フフ」


 良く分からない会話が繰り広げられているが、これは馬車内の一幕である。


 王都に向かうため、俺たちは第三王女の馬車に乗せてもらっているのだ。

 リズにカルラと第三王女に侍女。そして俺。


 エレナは聖杖形態で、ぐっすりと熟睡中である。

 杖からぐぅぐぅ寝息が漏れているのは何とも形容しがたい光景だが。


 っていうか。


 ぶっちゃけ俺も寝たい。

 だが、目の前のお姫さまがそうさせてくれない。


 なぜかやたらと絡んでくるのだ。俺に。


 先程の会話に戻るが、俺が第三王女と呼ぶのがダメだったらしい。「わたくしだけ他人みたいで嫌です!」とのことだ。

 まあ、たしかに親近感はないけど。王女がおっさんに友達づらされて嬉しいものなのか?


「しかしさすが第三……じゃないファレーヌの馬車。凄く豪華だな」

「でしょう! わかりますかバートス!」


 うお……なんかめっちゃ食いついてきた。


 そして何を思ったかファレーヌが腰を上げて、ズイっとこっちに寄って来ようとする。


「わたくしもそっち側に行きたいです」



 ええ!? なに言ってんだ? 



 俺の両脇にはリズとカルラがいる。

 向かいには、ファレーヌとメイドのアンナさんだ。


「ファレーヌがこっち来たら、あきらかに比率がおかしいだろう。ぎゅうぎゅうに密着してしまうじゃないか」


「はい、わたくしは密着OKです」



 いや……さっきから何を言ってんだ、この姫さま。



 初登場から随分とキャラ変わってないか?


 そんな俺の困惑にはお構いなしに、すごい前かがみで俺の顔を覗き込んでくるじゃないか。

 ファレーヌのドレスは胸元が深くあいており、そこからのぞきでる膨らみが馬車の揺れにあわせてブルンブルンしてる……。



 むぅ……リズとカルラにも劣らないご立派なやつだな。



「姫さま……はしたないですよ。自重なさってください」


「ええ~~だってチャンスがあるうちに色々しないといけないのに~~」


 チャンスってなんだ?


 頬を膨らませながら、やむなくメイドの言う事を聞くファレーヌ。


「ファレーヌさま。侍女のアンナさんの言う通りです。大人しくしてください」

「まったくだよ~~お姫様なんだから~」


 メイドの言葉にリズとカルラが続く。


 ちなみにリズとカルラは若干ピリついているようだ。

 この馬車に乗ってからだと思う。


 まあ疲れも溜まっているいるだろうし、こんな居心地のいい馬車なんだ。

 ぐっすり寝たいところをファレーヌが騒ぐからイライラしてんるんだろう。


「あら、リズとカルラはお休みになられたらどうかしら? 王国の為に頑張ってお疲れでしょうし」


「……ふぅ。ファレーヌさまがそんなだから、おちおち寝てられません」

「フフ、わたくしはいつも通りよ。それと人目がある場所ではないから、ファレーヌでいいわ」


「はぁ……わかりました。ファレーヌ」

「フフ、やっと昔のリズになりましたわね」


 やれやれといった感じで砕けた口調になるリズ。

 そういえば、2人はかつてアルバートに指導してもらっていた仲だったか。


「2人は仲良しなんだな」


「そうです! わたくしとリズは年も同じですし! 体型も似てますよ!」


「お、おう……そ、そうか……」


 ファレーヌがまたグイグイ寄ってきた。

 なんだこの子は? 情緒不安定なのか?


「そいえばファレーヌ。ミサディの行方はわかったのですか?」


 ふたたびこちらへ迫りくるファレーヌをガシっと抑えつつ、リズが無理やり話題を変える。


「いえ、見つかったという報告は入っていません。バートスの炎を受けて無事でいるとは思えませんが……」


「そうか、俺も森に落ちたところまでは見えてたんだがな」


 ミサディの死体は見つかっていないらしい。

 まあ灰になってしまったのなら何も残らないのだが。逃げ延びた可能性はある。


 この場にいないアルバートも護送中とのことだ。

 脅されていたとはいえ、俺たちに襲い掛かったことは事実。罪は罪だからな。国王が直々に沙汰を下すらしい。


 王子にミサディにアルバートにトカゲ。色んな出来事が重なった。

 王都に着いたら少しゆっくりしたいよ、おっさん。


 たこ焼きも随分と食べていない。

 王都にたこ焼き屋はあるのだろうか? 


 俺は何気なく窓から外に視線を移した。



「む……」

「どうかしましたか? バートス」

「いや、なんかチラチラと視線を感じてな」


「フフ、当然です。ミスリルドラゴンを討伐した聖女リズご一行が乗っている馬車ですからね。注目はされるでしょう」


 ファレーヌがその大きな膨らみをブルンと揺らして胸を張る。


 そんなものかね。


 だが、よくよく馬車内を見ると、ブルンブルンさせているファレーヌに聖女リズ。この2人は美少女なうえに、持っているものがデカいというほぼ反則的な容姿をしている。


 さらにカルラ。可愛らしい顔の下は、褐色ムチムチの代表選手みたいな体。まさに悪魔的な魅力。

 さらに目立たないが、メイドのアンナさんも美人さんだ。


 美少女美女の詰め合わせではないか。


 そりゃチラ見もするわな。


 男なら。


「たしかにこの馬車は注目されるかもな。そう考えるとおっさんは邪魔か……」


 当然だろう、疲れた兵士たちにおっさん需要は皆無と思われる。


 見ても癒されないし。


「いいえ! バートスに癒される人もいますよ!」


 バルんと胸を揺らして立ち上がるファレーヌ。



 いや―――どうした? 


 この子に何が起こったというのだろう?


 馬車に乗ってからなんかずっとおかしいぞ。

 第三王女という重責で、張りつめていた糸がぷっつり切れてしまったのか?



「いやいや、どう考えてもファレーヌやリズたちをチラ見しているんだろう」

「いえ、少なくともわたくしはバートスを見ています」


「え? おっさんなんか見てどうするんだ? ファレーヌは疲れているんだ。ちょっと休んだ方が良いぞ」

「休む? バートスを見て疲れるわけがありません」



 いや、これはかなりヤバイぞ。



 心の病にでもかかっているのか? 魔界の職場でもたまにいるんだよな、「まだ出来ます」とか言って無茶な仕事を続けるやつが。


 なんか心配になってきたよ。


「フフ、なるほど~~リズも苦労するわけですね」

「ちょっ! ファレーヌ! な、なにを言ってるの……別に私は苦労なんか……」

「はは~~ん、リズはリズで足ふみ状態ですか~~」

「ちょっと、さっきから言ってる意味がわかりません! いちいちバートスの前に出てこないで! 姫としてあるまじき行為ですよ!」


「ほうほう……これならばわたくしにも十分チャンスがありますね。それに舞台は王城。わたくしに有利です」


 チャンスってなんだ? さっきも言ってたが、サッパリ分からんな。

 これが若い子たちの会話なのか……おっさんはもうついていけん。


 にしても。


 舞台は王城かよ……


「なんか不安になってきた」


 ファレーヌを見ていると、俄然行きたく無くなってきたぞ。

 リズに視線を向けると。


「バートス、王城だろうがどこだろうが私の傍を離れてはいけませんからね!」

「ほんとだよ~~バートスさま浮気はダメだからね!」


 またまた理解不能な言葉がリズとカルラから出て来た。

 もうファレーヌだけで勘弁して欲しい。



 さっきからファレーヌの膨らみはブルンブルンしっぱなしだし。

 ついでにリズとカルラもブルンしてるし。



 こうして俺はご褒美なのか罰なのかよくわからん時間を過ごしながら、王都に向かうのであった。





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