第54話 おっさんと聖女リズ、ニセ聖女ミサディにガツンとかます

「きぃいい! 【魅了】が効かないなんて~~こうなったら皆殺しですわ~

 ――――――闇火炎球魔法ダークファイアーボール!」


 上空を飛ぶミサディから黒い火の玉が無数に放たれる。


「ンフフ~~反撃できるものならやってみなさいな~~ここにいるお姫さまもただでは済みませんわよ~~」


 不敵な笑いを漏らしながら、攻撃を続けるミサディ。


「ぐっ……どこまでも腐ったやつらだ」


 アルバートのじいさんが、眉間にしわを寄せて上空のミサディを睨みつける。


「バートスさま~~これじゃ反撃できないよう~~」


 たしかにカルラの言う通りだ。

 人質となっている第三王女を何とかしない限り、防戦一方だぞ。



「バートス、エレナ、カルラ、アルバート先生。作戦があります」



 ミサディの攻撃をかわしつつ、リズが全員に声をかける。


 リズは先の戦いと俺の炎を消火する為に、魔力をほとんど使ってしまっている。

 アルバートやカルラも同じくだ。たぶんエレナもほとんど力は残っていないだろう。


 そんな状況下でも勝機を見出すための作戦をすぐに考える。

 さすがリズだ。


 作戦を聞いたアルバートがリズの役割に若干難色を示したが、彼女は迷っている暇はないですよと押し切った。

 作戦立案から実行までがはやい。



 リズの作戦を聞いた俺たちは各々の配置についた。


「はぁああ? ま~~た出来損ないがくだらない事を考えているのかしら~

 まあいいですわ。そんなことも考えられないぐらい躍らせてあげますわ~~」


 俺たちの動きを見てイラついたミサディが、黒炎の量をさらに増やす。


 狙いも定めず地上へ滅多撃ちだ。



「―――五重詠唱ファイブマジック

「「「「「魔力の壁よ、敵の攻撃を拒め! ―――魔法防御壁マジックシールド」」」」

 ―――物理防御力上昇フィジカルディフェンスアップ



 アルバートが5重の魔法を同時詠唱。4重のシールドを展開して、みんなを黒炎の弾丸から守る。

 残り1つの補助魔法はリズへのアシストだ。


 だがミサディが放つ黒炎の猛攻に、早くも一枚目のシールドが崩壊する。

 それを見て苦虫を嚙み潰したような顔をするアルバート。


 魔力が枯渇寸前なのだろう。彼本来の精度が維持できていない様子だ。


「お三方、―――急がれよ!」


 アルバートがミサディの猛攻を一手に引き受ける中、リズとカルラの連携プレイが開始される。


「カルラ! 頼みましたよ! 思いっきりやってください! アルバート先生の魔法で強化されているので多少の無茶は大丈夫です!」


「わかったよ~~リズ! 思いっきりいくからねぇ!」

『ちょ、ちょっと待つのじゃ! われはなんも補助魔法受けてないの~~』


「あんたは杖なんだから大丈夫でしょ―――

 ――――――うおらぁあああああ!!」


【活性化】した筋肉ムキムキのカルラが、リズを抱えて思いっきり放り投げる。


『ひゃぶぅううう~~折れちゃう折れちゃう~~』


 とんでもない速度でリズと聖杖が上空に打ち出された。

 目標はもちろん上空のミサディだ。


 迫るリズに、ミサディが眉間に皺を寄せる。



「きぃいいい! そんな特攻をわたくしが許すと思いまして! 黒炎をその憎たらしい顔にぶつけて終わりですわ!」



 ミサディは直線状に飛んでくるリズに、黒炎をぶつけるべく魔力を集中した。


「くたばりなさいですわ! ―――上級闇火炎ハイダークファイ………えっ!?」



 ―――ガブっ!



「痛ぁあああ! ですわぁあああ!!」


 ミサディの魔法はリズに放たれることは無かった。

 なぜなら、第三王女が魔法を放たんとしたミサディの腕に噛みついたからだ。


「くぅ……離しなさいこの小娘が! お飾りのお淑やか良い子ちゃん姫のクセに!」


「たしかに、わたくしは何の力もないお飾り人形かもしれませんけど……」


 第三王女は怯んだミサディの腕から右手を抜くと、小さな杖を出して魔法の詠唱を開始する。



 ファレーヌさまがじっとしているはずがありません。私が動けば彼女もアクションするでしょう。

 リズが作戦時に言っていた言葉だ。


 いや、姫さま本当に動いたな……がぶりと。



「お飾り姫が、生意気ですわ!」


 ミサディはファレーヌの魔法が発動する前に、彼女を空中で放り投げた。



 そのタイミングで現れるもう一人の少女。



「エレナ! 残っている力を全部ください!」

『杖使いが荒いのう~~ニセ聖女、お主が悪さするからじゃ! リズ~~思いっきりやるのじゃ~~』


 空中に放り出された第三王女も、落下しつつ必死に体勢を整えて杖をミサディに向けている。



「きぃいいい! この出来損ない聖女のくせにぃいい! お飾り姫のくせにぃいい!」



「「黙りなさい! ニセ聖女! 私たちを―――

 ――――――あんまり舐めないでもらえるかしら!!」」



 第三王女の魔法とリズの一撃が同時にミサディへ叩き込まれる。



「痛いぃいいいい~~ですわぁああ!!」



 その衝撃で、ミサデイは大きく吹っ飛ばされた。



「―――バートス! あとは任せましたよ!」


 空中で俺に叫ぶリズ。


「よ~~し、まかせとけ!」


 これで第三王女はミサディから離れた。


 やっとおっさんの出番だ!



「―――闇魔法防御壁ダークマジックシールド! アルバートとの死闘にドラゴン2頭を討伐したのだから~~おっさんにも力はほとんど残っていないはずですわ~~」


 リズたちの一撃で体制を崩しながらも、黒い防御シールドをはったミサディが俺から距離を取ろうとする。


 悪いが……


「俺は全く疲れていない!」


 だって、1人と2匹分しか働いていないんだからな。

 こんなもので終わるほど、魔界のゴミ焼却場は楽じゃない。


「ひぃいいい! なんですの、このおっさん!」


 羽をばたつかせて、さらに俺から距離を取ろうとするミサディ。

【焼却】の射的距離外に逃げるつもりなんだろうが―――



「これで終わりだ――――――【焼却】!!」



 ――――――ボウっ!!



「ひやぁああああ! 闇魔法防御壁ダークマジックシールド! 闇魔法防御壁ダークマジックシールド! 闇魔法防御壁ダークマジックシールド!」


 そんな壁はいくら出しても無意味だぞ。


 瞬く間に全ての壁が燃やされ、そのままミサディに襲い掛かる。



「あっちぃいいい! あついですわぁああああ~~~」



 ミサディは真っ赤に焼けて煙を吹きながら、森の方へと落ちていった。


「ふう……今度こそ終わったな」



 いや……違った。これで仕事完了ではない。


 上空から騒がしい声が聞こえてきたからな。


 頭上に視線を向けると、なんか白いのがいっぱい見える。


「ちょっとエレナ! もっと本気で羽ばたいてください!」

「無理なのじゃ~~元々われ飛べないのにぃいい~~」


 空中に放り出された美少女たちだ。


 エレナが聖杖ではなく、天使の姿になっている。

 どうやら彼女の小さな羽根で、リズと第三王女を落ちないように支えているらしい。


 が……所詮は自分すら飛べない羽だ。

 エレナが力尽きたようで、3人とも落ちてくる。


 リズと第三王女は衣服がめくれて……白いのが見え放題なんだが。


 上を向かないと、彼女たちを受け止められない。

 だから俺は変態じゃない。


 というかそんなパンツに気を取られている場合じゃなかった。


「エレナ! 落ちてもいいから気合入れて羽を動かすんだ!」

「うぅうう~~やってるのじゃ~~」


 エレナが半泣きで羽をはばたかせたことで、落下スピードが多少おちた。



 よし、これなら―――



 右腕でリズを―――ボヨンと揺れる感触が。

 左腕に第三王女を―――こちらもボヨンと揺れる感触が。


 これが良いクッションとなり、衝撃を散らすことができた。

 2人とも少女ながら、ご立派な膨らみを持っていて良かったよ。


 そして最後は、野良天使のエレナ―――


「―――ゴフっ!」


 なんとか掴んだけど、まったく衝撃が散らされなかった。

 クッションとなるものがなにもなかったからだ。


「―――しまった、大丈夫かエレナ?」 


 するとガバっと起き上がった天使は、涙目で俺に訴えて来た。


「ズルいのじゃ~~乳デカ聖女と乳デカ王女ばかりズルいのじゃ~~われもバインバインしたいのじゃ~~」


 乳デカって言うなよ……

 まあでも、エレナも良く頑張ったので気のすむまで言わせておこう。


 ここまで元気なら、大丈夫だろう。良かったよ。




 ◇◇◇




 その後は王国軍の帰還準備を待ち、俺たちも王都行きの馬車に乗り込んだ。


 何故ゆえに俺たちも行くのかというと。

 第三王女のお願いだからである。国王に謁見してほしいとのことだ。


 国王が領地視察から帰ってくるらしい。

 ザーイ王子の事も含め、色々とありすぎたからな。

 さすがに報告が必要なのだろう。



 馬車ではゆっくり寝れると思ったのだが……



 ―――そのおっさんの考えは甘かった。






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