第53話 おっさん、魔族ミサディの【魅了】に耐える?

 俺を掴んだリズの手から力が抜けていく。


「おっと」


 倒れそうになるリズをそっと抱き上げる。


 ひんやりとした空気を感じて周りを見ると、

 湖面が凍っていた。


 俺は腕の中の少女に視線を移して思う。

 こんなに小さくて華奢な体なのに、とんでもない力を秘めている子だ。


「リズ、良く頑張ったな」


 そんな俺の呟きに気付いたのか、

 俺の腕の中で「ん、んん……」と声をもらす少女。


 その少女の目が開き、綺麗な瞳が俺の方に向く。


「リズのおかげで炎が消えたぞ。ありがとうな」


「え、ええ……」


「やはりリズは凄いな」


「あ、はい……」


 少し気の抜けた返事を繰り返すリズ。

 力を使い果たしたのだろう。俺の為にここまで頑張ってくれたリズには感謝しかない。



「聖女様バンザーイ!」

「従者様バンザーイ!」

「王国バンザーイ!」


 周辺に布陣していた王国兵たちから勝利の勝鬨があがる。


「見ろよリズ。みんなが讃えてくれているぞ」


「その……バートスちょっと」


 俺の目を見ながら、モゴモゴ小さな口を開くリズ。

 小さな両指先を絡めながら、もじもじしている。


「……降ろしてください」


「大丈夫なのか? しんどかったら遠慮しなくていんだぞ」


「も、もう大丈夫ですから……」


 なぜか真っ赤なリズ。

 ずっと炎の中で頑張っていたのだ、相当熱かったんだろう。



 俺はリズをそっと地面に降ろした。


 ふぅっと息を吐いて胸を抑えるリズ。



「バートスさま~~!!」


 元気な声が聞こえて来た。カルラか。

【活性化】を使用したのだろう、ムチムチのムキムキがこちらに駆けてくる。


 うしろにはアルバートのじいさんや第三王女の姿も見えた。


『う……うぅんん……はえぇ? バートス? おぬし燃えてないのじゃ……』


 野良天使も目覚めたようだ。


 そこへカルラたちが合流して、エレナといつもの小競り合いをはじめた。


 2人の争いを止めるリズ。


 ハハッ、いつもの風景になったな。



「バートス殿、とんでもないものを見せてもらった」

「バートス、凄いです……わたくし少し興奮してしまいました」


 アルバートのじいさんと第三王女か。


「ああ、でもリズやみんなの協力があってこそだ」


 実際リズがいなければ、俺は灰になっていただろうしな。


「それにしても……ここまでミスリルドラゴンを溶かしてしまうとは」


 アルバートが目を白黒させていると、周囲に集まった兵の一部から声があがる。


 何事かと声の元へ行ってみると。


「うわぁ~~バートスさまこれって」

『カッチカチなのじゃ~~』


 ザーイ王子だった。


 いや正確にはザーイ王子のミスリル像か。


「見事に固まっていますね、この人」

「ああ、リズ。こりゃ凄い」


 ミスリルドラゴンの溶解した液体を浴びたのか、ザーイ王子はカッチカチの像となっていた。

 アフロまでしっかりと固まっており、なんだか芸術品にすら思える出来栄えだ。ちょっと光ってるし。



「……お兄様」


 俺とリズの横で、小さく声を出した第三王女。


「ファレーヌ様、大丈夫ですか?」

「ええ……このような姿になるのは自業自得です……少し休ませて頂きます」


 第三王女は哀れみとも悲しみとも言えない複雑な表情で、その場を離れて行った。


 まさかザーイの最後がこんな形になるとは、予想もできなかったのだろう。


 その後、ザーイ像は兵士たちに囲まれて持ち運びの準備が進んでいた。

 とりあえず、王都に持ち帰るらしい。



「ふぅう~~やっと終わったか。今回の討伐は骨が折れたよ」

「ええ、バートス。お疲れ様です」


「リズは大活躍だったな」

「フフ、それはバートスもでしょう」


 互いに微笑みあう俺たち。


 リズは本当に良く頑張った。

 アルバートを救い。王国軍を建て直し。そして―――


 俺も助けてくれた。


「やっぱりリズの魔法は俺にとっての治癒魔法だな」

「またそれですか、フフ」

「ああ、だっていつも元に戻してくれるからな」


『われの力も忘れるでないのじゃ!』


「そうだな、エレナもよく頑張ったぞ」


 聖杖をぽんぽんと優しく叩くと、にへへ~と締まらない声を漏らすエレナ。


 カルラにも労いの言葉をかけようと彼女に視線を移したのだが。

 なにやらあたりをキョロキョロと見まわしている。


「どうしたんだ、カルラ?」

「うん、バートスさま。なんか魔族のにおいがするの」


 ええ……魔族って。



「―――キャァアアア!」



「バートス! ファレーヌ様の声です!」

「バートスさま、あそこ!」


 カルラの指さす上空にいたのは聖女ミサディであった。

 背中から大きな羽を出して、頭には一本の角がはえている。


 その片腕には第三王女を抱えて。



「きぃいいいい! やってくれましたわね! 出来損ない聖女! なにもかもぶち壊しですわ~~!」



「バートス……あれって」

「ああ、どうやらミサディは魔族だったようだな」


 こいつ……現地魔族だったか。

 角に尻尾、そして羽あり。


 第三王女を抱えて、俺たちの上空を旋回するミサディ。



「……くっ。この偽聖女……あぐっ……!」


 必死に抵抗しようと体を動かす第三王女だが、ギュッと締め付けられて小さな悲鳴が漏れる。


「フン! お茶しか飲めない軟弱姫がいっちょ前に抵抗なんかしくさるなですわ!」


「ファレーヌさま!」


「ムフフ~~こうなったらわたくしが王国を支配してやりますわ~~」


「ミサディ! ファレーヌさまを放しなさい! 恨みがあるのは私でしょう!」


「いちいちうっさいですわね~出来損ない聖女は引っ込んでなさい! さあ、そこのおっさん、一歩前に出てこっちを見なさいですわ!」


 え? 俺のことか?


「さっさとしなさいですわ! おっさん!」


「あんたの火魔法は恐ろしい力を秘めていますわ~~だからあんたをわたくしのモノにしてあげますの!」


「良く分からんが、俺はおまえの言うことなど聞かんぞ」


「ンフフ~~わたくしには【魅了】という強力な能力がありますの。これにかかれば誰だろうがわたくしの虜ですわぁ~~~」


 なるほど、魔族の固有能力か。

 しかしこれはマズいな。おっさん虜にされたら、言う事聞かざる負えなくなるんじゃなかろうか。


 どうしよう……



「アホ王子の【魅了】を解除して~~

 ――――――おっさんに対して【魅了】発動ですわ~~~!!」



 ヤバい! なんも対処法が見つからんまま、ミサディの固有能力が発動されてしまった。


「ンフフ~~さあおっさん! わたくしのものになりなさぁ~いですわ!」


 ぐおっ―――!? 


 頭にモヤがかかったような感覚に……


 徐々に手も足も思うようには動かなく……



 ――――――ならないな。



「おい? なんだこれ? 能力をちゃんと発動したのか?」


 俺は思わずミサディに聞いてしまった。


「なあぁああ!? あ、ありえませんわ、【魅了】は発動しているはず。なんでなにも変化しないの!」


 上空で焦りの声をあげるミサディ。どうやら固有能力の発動に失敗したようだ。



「くうぅう、追加発動ですわぁ! 【魅了】【魅了】【魅了】【魅了】【魅了】ぅう!」



 おいおい、なんかミサディの顔色がどんどん悪くなっていくぞ。


 魔力を大量に使用したのか、ぜぇぜぇと肩で息をするミサディ。


 しかし―――


「おい、だからこれなんだ? 意味がわからん」


「……っ! な、なんできかないの? まさか精神攻撃にまで耐性がありますの!?」


 ミサディの能力、俺には効果がないらしい。

 まあ、虜にされなくて良かったんだが。


「ああ……バートスはちょっと……」

「だよね~バートスさま、この手のことはねぇ……」


 リズとカルラが同じような呆れ顔をしている。

 なんだろう、俺はミサディの攻撃に耐えたのに。褒められている感じがあまりしない……。



 そう、これは耐性などではない。

 単におっさんは鈍感がすぎているだけだった。




―――――――――――――――――――


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