第52話 聖女リズ視点、気合の治癒魔法(消火)

「えぇ~~い!!」

『むぅうううん!!』


 結界内に女子2人の気合が響く。

 エレナの力と私の魔力を常に充填させて、氷の結界内に冷気を大量放出する。


 結界を張ることで、バートスの炎が広がることは防げた。しかし、肝心の本人は依然真っ赤に燃え盛っている。


 ……相変わらずとんでもない炎ですね。


 無我夢中で結界を発動してから数分が経ったが、相変わらずバートスは真っ赤だ。


 女子二人(1人は杖)に抱き着かれてるんだから、いい加減に消火されてください!


『リズ~なんか頭がプスプスするのじゃ~』


 え? 聖杖から煙が出始めています!

 エレナももう限界が近い……


 そしてさらに事態は悪化する。


 ―――!?


 ウソ……結界の氷が溶け始めている!


 これではバートス自身を鎮火するどころか、再び炎が拡大してしまう。



 やっぱり無理なのですか……



 そう呟いたとたんに、かつての負の感情が荒波のように押し寄せて来た。


〖そうよ、無理に決まっているでしょ。出来損ない〗


 頭の中に声が響く。


 私の目の前にいるのは、出来損ない聖女として全てを失っていた頃の自分。過去の私。

 ああ……バートスと出会う前に良くでてきた私だ。


 そういえば法衣もこんなにボロボロでしたっけ。


「でも、あれから私は頑張ってきた」

〖頑張ったて、なにをよ〗

「魔物もたくさん討伐したし……」

〖それあんたの力? バートスに討伐させて手柄を横取りしてるだけじゃないの〗


 過去の私が、口角を引き上げてニヤついた視線を送ってくる。


「で、でも。結界もはれるようになったし……」

〖アハッ! それだって天使を無理やり使役させてるからでしょう。こんなに酷使しちゃって~あんた鬼だね~〗

「そんなことない! エレナと力を合わせたからこそできたんだから!」

〖だから~~それってあんたの力じゃないの。わかるかなぁ?〗


 否定の言葉を並び立てる過去の私。

 たしかに私だけの力ではない。


〖出来損ないは出来損ないらしく早く諦めなよ〗


 諦める……


 その心がよぎった瞬間―――



 ずっと心の奥底にフタをしていたナニカが吹き出してくる。


 ぐっ……


〖あんただけじゃ、ここまで近寄ることも出来なかったの。ほら~~早く諦めなよ~熱いしさぁ〗


 もう無理なの? 諦める? やっぱり聖女の力なんて元々無かった?


 聖杖を握る手から力が抜けていく。


「リズ!」

〖ちょ……なに?〗

「おい、リズ!」

〖なによ! おっさん邪魔しないでよおぉぉぉ……〗


 ……誰?

 揺さぶられている感覚……過去の私が消えていく。



 ―――バートス?



 わたしの肩を揺さぶっているのはバートスでした。


「あれ? 私……いったい?」


「しっかりしろリズ」


 どうやら大量の魔力消費と熱さで、意識が飛びそうになっていたようです。


「バートス、やっぱり私は―――」


「凄いぞリズ!」


「ええっと……なにがですか?」


 結界もボロボロだし、いよいよもって打つ手がない状態なのに。


「俺が灰になってないじゃないか」


 そ、それはそうかもしれませんが。


「でも時間の問題ですよ……」


 そう、もう魔力が尽きる。

 そうしたら、おしまいです。


「こんな私でごめんなさい……もっとちゃんとした聖女の方が良かったですよね」


 言ってしまった。

 こんなこと言って、なにになるのだろう。


 でも言わずにはいられない。

 また自分が嫌いになってきました。



「―――俺はリズの方がいい」



 ええ?


 こんな私がいいんですか?


「そうだ、リズの治癒魔法は世界一だぞ」


 ああ、そうだった。

 この人は、私の全てを肯定してくれる。


「ドーンとかまえて仕事しろ。悩む必要はないぞ」


 バートスはいつでも私を受け入れてくれる。


 ふぅ……


 ちょっとだけ楽になった。


「バートス……実は言っていないことがあります」

「なんだリズ?」

「ちょっと頭が焦げはじめています」


「うお!? マジで! どこ? いかん全部焦げてしまうのはマズイ!」


 なんですかこの緊張感のない人。


 もう……なんだかできそうに思えてきたじゃない……


 弱気とは別の感情がわいてきました。


 この人とずっと一緒にいたい。


 だったら―――


 やるしかないじゃない!



 っていうか、やる!!



「バートス! 頭の焦げを止めてあげますから。ちょっと大人しくしていてください」


 まずは崩れかかった結界の再構築です! 


「エレナ! 気合入れますよ~~~!」

『おっしゃ~~こうなりゃなんでもこいなのじゃ!!』


 さあ、聖女の力でも、火事場の馬鹿力でもなんでもいいです!

 ありったけのフルパワーですよ!


 バートスと私を囲う青い結界が新たに生まれ変わり、全方向から冷気を放出する。


 うっ……魔力が凄い勢いで消えていく。


 でも、同時にバートスの炎が弱まっていく。


 今しかない。ここで消火できなければ……もう二度とチャンスはありません!


 いまやらなければ、一緒にいられないんだから!


 体の隅々から魔力を絞り出して、その全てをバートスにぶつける。

 ピキピキと湖面に氷がはりだした。



 聖女リズロッテ! ここ一番の気合っ!!



 それからどれだけ力を振り絞っただろうか。


 記憶が所々飛んでいるようで時間の経過もよく分からないです。

 視界もぼやけて周りの様子もハッキリ見えない。


 なんだか体がフワリと持ち上がったような。


 あれ? 結界が……ない!?


 それに熱くないです。炎がない? ということは……


 ボンヤリとしていた視界が鮮明になっていく。

 私の目の前にある影。


「あ、バートスですか……」


 良かった。バートス無事だった。

 髪の毛もちゃんとあります。


 ところで……なんか私、さっきから浮いているような気がします。


 ―――え! ちょっと待って! 


 もしかして私、バートスに抱っこされません?


 しかもこれ、お姫さま抱っこというものでは!!


 いや、まあ消火のためにバートスに抱き着いてたけど……これはこれで……


 嬉しいけど……



 ――――――すっごい恥ずかしいです!



 私はビックリするぐらいドキドキ鳴る胸を抑えて、バートスの腕の中にうずくまるのであった。






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