第47話 真の聖女が王国兵士を動かす
「なに? 聖女様だと……誰がだ?」
ラット副官をはじめその場にいる諸将は、俺の言葉にこいつ何言ってんだという顔をする。
「リズは聖女だろ。だから聖女ならここにいると言ってるんだ」
「リズ……ああ、もしやリズロッテ様ですか……」
なんだこの反応?
以前のリズは出来損ないというレッテルを張られていたが、今は違うはずだぞ。
多くの魔物を討伐して、聖女としての責務を全うしている。
なのにこの何とも言えない微妙な感じ。
「ラット副官、ここにいる聖女リズロッテはレッドドラゴンを討伐しました。彼女なら実力、人格ともに申し分ないでしょう」
「れ、レッドドラゴンを!?」
初耳なのか、第三王女の言葉に驚きの顔を隠せないラット副官。
「ラットさま、私の生まれ育った町が聖女リズロッテ様に救われたと、母の手紙に書いてありました。キングポイズントードにずっと悩まされていた町なのですが」
「わたしの部下もそのような事を言っておりました。故郷をキングコカトリスから救ってくれた聖女さまがいると」
数人の将官がラット副官に追加の報告をする。
リズの活躍は、人づてに伝わっているようだ。
地道に各地で討伐を続けているからな。
「しかしおかしいな。リズは王都に討伐報告の通信鳥を送っているんじゃなかったか?」
「ええ、バートス。そのはずですが」
だったら、ラット副官など諸将には直接情報が入るんじゃないのか?
「そのお話はわたくしも初めて聞きました」
第三王女とリズ、そしてラット副官の視線が交差する。
「どうやら何者かが聖女リズロッテの報告を妨害していたようですね」
「ええ……そのようですね。ファレーヌさま」
何者とは?
「考えたくはないですが、おそらくお兄様でしょう」
まあそうだろうな。あのバカ王子以外に思い当たらない。
「ええ!? ザーイ王子殿下がですか?」
ラット副官がそんなまさかと声をあげた。
「お兄様は魔法師団長のアルバートを卑劣な手で陥れ、聖女リズロッテ一行を暗殺しようとしました。所在は不明ですが見つけ次第拘束してください」
「し、しかし、いかにファレーヌさまのお言葉とはいえ、証拠もなく殿下を拘束するわけには」
「証拠であれば、この記録石に一連の会話が入っています」
ええ、そんな魔道具があんの?
ラット副官たちが、おおこれは殿下の声! なんということを……!
などと驚きの声をあげているなか―――
「バートスちょっと……」
リズが俺の服の袖をちょんと掴み、こそっと耳打ちしてきた。
「私にもできるでしょうか……その……まさかこんなことになるとは思わなかったので」
その美しい紫眼の奥には少し不安の色が見え隠れして、袖を掴んだ指にキュッと力が入っている。
「ああ、大丈夫だ。だってリズは今まで俺たち従者を引っ張ってきたじゃないか。ちょっと数が多くなっただけだ、いつも通りのリズでいいんだ」
「そうですね……いつも通りですね…いつも通り」
俺の言葉を嚙みしめるように繰り返すリズ。
まあ、緊張はするだろうな。
「なにかあっても俺が傍にいるし、カルラやエレナもいる。いつも通り頼ってくれ」
「フフ、なんだか私が毎回頼っているみたいですね。実際頼っていますけどね」
「おっさんが出来ることであれば、なんでもするぞ」
「ええ、今回も頼りしてますよバートス」
銀髪を揺らして柔らかい笑みを浮かべたリズ。
そんなやり取りを隅でコソこそやっていると、第三王女の声が響く。
「この軍の最高責任者は王族であるわたくしが臨時で引き継ぎます。そして第三王女ファレーヌの名において命じます。聖女リズロッテ、軍を立て直してミスリルドラゴンを討伐してください!」
「―――はい、聖女の名にかけて使命を全うします」
彼女から不安の色はいつの間にか無くなっていた。
◇◇◇
俺たちは本陣を出て、近くの丘に移動した。
ここなら戦場全体を見渡すことが出来る。
「エレナ、聖杖を光らせてください。できるだけ目立つように!」
『ひええ~~リズ~~やっぱ帰ろうよぉおお~~どらごんやばいよぉおお~~』
「ふざけてないで、急いでください!」
ブツブツ言いながらもリズの言いつけを守り、黄金色の輝きを放ちだす聖杖。
眼下の混乱した戦場から徐々に視線が集まり始める。
「ラット副官。魔法支援をお願いします」
数名の魔法使いが、何かを詠唱するとリズの声が大きく響くようになる。
風魔法の応用で声を拡張する魔法らしい。
「―――みなさん! 私は聖女リズロッテです!」
凄まじい音量でリズの声が戦場にこだまする。
多くの兵士がこちらに気付いたようだ。
『ひぃいい~~どらごんもこっちむいた~~』
「こちらに注意を引きつけられたようですね。攻撃の手が緩んでいます。好都合ですよエレナ」
ざわめく兵士たち。
「な、なんだ? どこからともなく声が……!?」
「おい、あの丘をみろ! あそこにいらっしゃるのは聖女様……?」
「―――そうです! あなた方の味方、聖女です!」
リズははっきりとそう伝えた。
たしかに、こんな時はシンプルにいくのが良いだろう。
味方であること。
そして聖女であること。
この国にとっては聖女は特別な存在だからな。
「聖杖が光輝いている! す、凄い!」
「なんか天使の輪っかみたいの浮いているぞ! こんなの見たことないぞ!」
「聖女ミサディ様でもこなんことは出来なかった。奇跡だ!」
そして特別感の演出。
リズはそれほど知られていない。
だからこそ常人とは違うぞということを一目でわからせる。
「ザーイ王子殿下は事情があり指揮を取れません。聖女ミサディも同じくです」
「「「ええぇえ、ザーイ殿下とミサディさまがいない……!?」」」
とたんに浮足立つ兵たち。
まあそりゃそうか。大将と聖女がいなくなったんだからな。
だが、ここが勝負所だ。
リズの言葉で兵たちをまとめなければならない。
「ですが、安心してください私は―――!?」
「「「い、いない……いないのかぁああ!!」」」
リズの言葉を遮るようにあちらこちらから声があがる。
くっ……話すらさせてもらえいないのか……どうする。
おっさんの【焼却】を空に放って注目してもらうか。
「人をゴミのように扱う王子がいない……!? うぉおおおお!!」
「贅沢の限りを尽くして、俺たちの給料を下げまくる聖女がいない……!? うぉおおおお!」
「今度の聖女様は、クソとかアホとか言わないぞぉおお!」
あれ?
え? なに?
どうしたの兵士のみなさん?
「え、えと……あの? みなさん?」
リズもなにが起こっているのか掴みかねているようだ。
兵士たちの様子がおかしい。
彼らの発言から察するに、どうやらザーイ王子とミサディにかなり不満が溜まっていたようだ。
「リーズ!」「リーズ!」「リーズ!」
そこら中からリズロッテコールが起こり始めた。
いまや全兵士がリズに注目している。
そんななか、リズが光輝く聖杖を掲げて彼らに声をかける。
「私が来た以上は必ずみなさんを勝利に導きます! 各部隊はラット副官の指示に従って動いてください! さあ、王都へ勝利の報告を持ち帰りましょう!」
予想外の展開に驚きを抑えつつ、胸を張って言葉を締めくくるリズ。
「うぉおおお! 聖女リズロッテ様だ! 我らには真の聖女様がついているぞ!」
「やってやるぜぇ!! まともな聖女様がいれば百人力だぁあ!」
士気の高まった兵士たちから、次々と力強い雄たけびがあがる。
誰が見てもリズは超絶美少女だ。
こんな美少女に「いっしょに頑張って!」と言われて昂らない男は、まあいないだろう。
「聖女リズロッテ様ばんざい! 王国ばんざい!」
「聖女様麗しい! かわいい!」
「おっぱいでかい! ブルンブルン!」
……まあ、若干不純な奴もまざっているようだ。
だが俺も男。気持ちはわからんでもない。実際リズが胸を張るたびにブルンしてるからな。
戦う原動力になればそれで良し。
ってことにしとこう。
「ラット副官。あとはお願いします」
「はい、聖女リズロッテさま! ―――よし! 各隊に伝達! 交戦中の部隊には攻撃続行、出来る限りドラゴンの注意をひかせろ! その他の部隊はいったん陣形を再構築だ!」
頼りなかった副官がいきいきとしはじめた。
なるほど、適材適所か。しかもリズはザーイのように文句をつけないから、思うがままに采配をふるえる。
「ふぅ……なんとかなったようです。バートス」
小さな額から一筋の汗を流して、ほっと息をつくリズ。
「よく頑張ったな」
「フフ、バートスの士気も上がりましたか?」
「ああ、当然だ」
もちろんだろ、こんな超絶美少女が戦女神とか最高にもほどがある。
「まだ始まったばかりですからね」
リズの瞳に再び闘志がともりはじめる。
「バートスの【焼却】の出番はあると思います。その時は―――
――――――頼みますよ。私の従者」
「もちろんだ――――――俺の聖女さま」
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