第48話 おっさん、ドラゴンの前に立つ
王国軍がドラゴンと交戦に入って1時間がたった。
戦況は俺たちが来た当初よりは良くなっている。
陣形を立て直して、前線を維持しているし組織的に動けている。
リズがまとめて、ラット副官が采配をふるい、王国兵が善戦しているからだろう。
だが勝利が見えているというわけでもなく、どちらかというと膠着状態で現状維持という状況。
「バートス、このままでは消耗戦になってしまいます。みなさんが持ちません」
「そうだな、人間の方が先に限界がきそうだ」
「はい、やはりバートスの【焼却】が必要です」
たしかにあれが銀トカゲならば、俺の【焼却】で対処可能なはずだが。
「どうすればいいですか?」
「そうだな、ドラゴンを湖まで押しだしてくれればやりやすい」
「そうすれば、バートスの【焼却】を存分に使用できるということですね」
リズの言う通り、現状【焼却】を使用すれば確実に周辺の兵士を巻き込んでしまう。
しかも、銀トカゲはまあまあ硬い。
ある程度の時間は燃やす必要がある。
やるにはドラゴンを湖へ押し出す突破力が必要だ。
リズが純白の法衣を正して、聖杖をきゅっと握る。
「カルラ、私と一緒に前線に出てくれますか?」
「もちろんだよ~~リズ!」
「バートス、私が先頭に立って王国軍と共にドラゴンに一斉攻撃をかけます。なんとか湖まで押し出すので、あとは頼みますよ」
「ああ、わかった」
俺たちが本陣を出ようとすると、1人の男が入って来た。
「―――その仕事、わしにも手伝わせてくれ。聖女殿」
本陣に入って来た男はアルバートだった。
「本来であればこの場で拘束されるべき身だが……最後に共に戦うことを許して欲しい」
アルバートはその場でリズに跪き、頭を下げる。
「わしがしたことは許されんこと。だが……この王国軍の危機に動かなければ、牢屋で孫に合わせる顔がない」
「先生……」
アルバートのじいさまは長きにわたり王国に仕えてきた。
本当にその力を発揮したかったのは、王子の茶番ではなくこのような場面なのだろう。
「―――わかりました。ではその力を王国の為に使ってください」
「心得ました聖女殿……感謝する」
「顔を上げてくださいアルバート先生……体は大丈夫なんですか?」
「聖女リズ殿にポーションをたらふく飲ませさたからな。なんとか動くわい」
ぐりぐりんとオーバーに腕をまわすじいさまを見て、リズは笑みを含めて頷いた。
「さあ、急ぎましょう! ラット副官、各隊に伝達を勝負をかけます!」
副官は頷き、すぐに諸将に指示を与える。
そして俺たちは最前線へと向かうのであった。
◇◇◇
前線はドラゴンと一進一退の攻防を繰り広げている。
その周辺に各隊が速やかに配置に着く。ほとんどの兵士が前線付近に集結している状況だ。
兵たちの顔に高まる緊張感。
それを払拭するかのようにリズは大声をあげた。
「さあ! エレナ! いきますよ~~!」
『ふぇええ? 行くってなにリズ?』
「ミスリルドラゴンを聖女の打撃で湖へ押し出します! 聖杖に力を!」
『うそぉおおんん!! ふわぁあああ~~やだやだ!』
わめきながらも輝きだす聖杖。
その天使の輪を浮かべた聖杖を掲げてリズが最前線に踊り出た。
「おおぉ……聖女様が単身突撃されたぞ!」
「王国軍の真価をみせるぞ! 我らもつづけぇ!!」
「うぉおお、聖女様のブルンブルン揺れてる、すげぇ!!」
リズの突撃でいろいろと奮い立った兵士たちは、所定の配置より各隊突撃を開始した。
「うぉおおお! 第1小隊左側面へ突撃ぃいいい!!」
「がぁあああ! 第2小隊右側面へ突撃ぃいいい!!」
「―――
「「「――――――
「ギャゴォオオオオオオ!!」
突如として始まった渾身の突撃に驚いたミスリルドラゴンは、少しずつ後退をはじめた。
「あたしもいるんだからねぇええ!!」
そして、ムッキムキの筋肉カルラ渾身のパンチがミシリルドラゴンの腹部に炸裂する。
ズンとさらに後退するドラゴン。
そこへリズが大振りの聖杖で強烈な一撃を放つ。
エレナの力を最大限にため込んでいたのだろう。ドラゴンに直撃するや、あたり一面にその輝きが跳ねる。
「―――ギャグォオオオオオオ!!」
大きな咆哮と共に、その巨体を湖に落とすドラゴン。
立て続けの攻撃に苛立ったのか、ドラゴンの大きな口から炎が漏れ出してきた。
「みなさん! ブレスがきます! ―――先生、防御壁を!」
「ああ、リズ殿! ―――
「「「――――――
「―――
アルバートの魔法が王国軍全体を三重に包み込む。
そして、リズはドラゴンの正面に分厚い氷の壁を作る。
ミスリルドラゴンから灼熱のブレスが放たれ、あたり一面が真っ赤に染まった。
「ふう……先生の魔法防御壁がなければ危ないところでした……」
「いや、リズ殿の氷の壁が勢いを逸らしてくれたおかげじゃ」
「あれ~~バートスさまは?」
「まさか……魔法防御壁の外にいたのか!?」
「アルバート先生、バートスならあそこです」
「な……あのブレスを正面から受けただと……しかも至近距離じゃぞ……」
俺はミスリルドラゴンの眼前にいた。
そして、その全容をじっくりと見る。
やっぱり――――――どう見ても銀トカゲだ。
だが、トカゲだろうが関係ない。
みんなが作ってくれたこの状況。
俺は自分の仕事をするまでだ。
「さて、銀トカゲ。―――【焼却】の時間だ」
俺は下腹に力を入れて【焼却】を発動した。
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