第44話 いきる王子、パクっと頭からいかれる
俺たちの前に現れたザーイ王子。
その隣には黒い衣装をまとった聖女ミサディ。
「ったくクソの役にも立たねぇな~このじじい!」
「ンフ~~まったくですわ~最強の名も地に落ちたものですわね」
現れるなり、アルバートを罵倒し始める2人。
王子の頭がもっさもさと揺れている。
「バートスさま、モジャモジャがしゃべってるよ~」
『ほんとなのじゃ~~あんな魔物見たことないのじゃ~』
「カルラ、エレナ。あれはモジャ魔物じゃない。アフロ王子だぞ」
「誰がアフロだぁああああ!! こんなんしやがったおっさん、てめぇだけは許さねぇぞ!」
「アフロ! この件、全部おまえの差し金か!」
俺はモジャ頭を睨みつける。
こいつの外道ぶりには心底うんざりしている。
「グフフ~~そうだ~見事な策だろう。凡人には浮かばんだろうなぁ~~ただし、そこのじじいがクソザコ過ぎたのが予定外だったがなぁあ」
こいつに人の心は無いのだろうか。
魔族でもここまでゲスな奴はいないぞ……いや、1人いたかも。俺の元職場に。
しかし今はかつてのゲス上司を思い返している場合ではない。
俺はリズに視線を移すと、彼女はすでに聖杖を構えている。
その瞳には闘志がメラメラと沸き立っており、いつでもかかってこいと言わんばかりの様子だ。
気合入ってんな、リズ。
それもそうか、リズはこの王子に散々苦しめれてきたのだから。
だが、先に動いたのは俺やリズではなかった。
「お兄様! このようなこと、到底許される所業ではありません!」
「ああん? ファレーヌか? なんでこんなとこにいやがるんだ」
「今すぐ投降しなさい! 王都へ戻りお父様に全ての事情をお話します! 覚悟してください!」
「はあ? なんで俺様が覚悟しなきゃならないんだ?」
「ンフフ~ザーイ殿下。ファレーヌさまはまだ幼いのですわ。ザーイ様の崇高な行いに理解が追いついていないだけですわ」
「な、なにを言っているのですか!? あなたがアルバートを陥れたのでしょう! 聖女ミサディ!」
「おいおい、なに興奮してんだファレーヌ? アルバートは俺様にありがたく使われたんだぞ? まあクソの役にも立たなかったけどな」
「つ、使われた? な、なにを……」
「まあまあザーイ殿下。ファレーヌ姫にはあとでわたくしが教育致しますわ~」
「ほう~~教育か?」
「ンフフ、わたくしの魔法でたっぷりと殿下の偉大さを教えましょう。自我が無くなるまで~~」
「そうかそうか~~なら帰りの馬車でたっぷりと可愛がってやるか~~まあおまえは側室の娘、正室の息子である俺様に抱かれる以上の幸福はないだろうからな~~」
「ああ~~でも正妻はわたくしミサディですからね~~お忘れなく殿下」
「ギャハハハ~~もちろんだとも、こいつは所詮おもちゃ止まりだからなぁ~~」
「おもちゃ……!? あなた方……なにをさっきから意味のわからないことを……」
「うわぁ……バートスさま。あいつゲナン(魔界の副局長)と同じにおいがするよ~~」
『控え目に言ってもクズなのじゃ~~』
カルラとエレナの言う通りだ……
こいつは本当に救いようがないな。
「姫さん! そいつに何を言っても無駄だと思うぞ」
ゲナン副局長と同種だからな。まったくコミュニケーションが成り立たない。
「ファレーヌさま、こちらへ。あとは私たちにお任せください」
リズが固まっていた第三王女の手を引いて後ろに誘導する。
「ンフフ~ザーイ殿下~~さっさと終わらせましょう」
「グフフ、そうだなぁ。俺の頭をこんなにしたおっさんと出来損ない聖女~~お前らを始末しないとなぁああ!」
「リズ、王子は強いのか?」
「彼が戦っているところを見たことがありませんので、なんとも」
「ええ~~あのアフロどうみても弱そうだよ~」
『われもそう思うのじゃ。魔力もこれっぽちも感じられんし』
「たしかに小物感しかしませんが油断はしないでください。卑劣な手は一級品ですから」
たしかに……
「はあ? なんで俺様が貴様らごときに動くんだ? 相変わらず下民どもは俺様への言葉使いがなっちゃいねぇな~~ミサディ!」
「はいですわ~~。いらっしゃ~~い!」
ミサディの言葉が響くと、ズンズンと地面が揺れはじめた。
何かが近づいてくる!
「―――ギシュエエエエエエ!」
あたりに響く不気味な咆哮。
森がメキメキと悲鳴を上げて暗がりから何かが出て来た。
「こ、これは……ドラゴン?」
リズが驚きの声を上げる。
「うわぁあなんか腐ってるけどぉ~~気持ち悪いよ~~」
『臭いのじゃぁ! これアンデッドじゃなあ~~』
「ンフフ~~そうですわ~~王国軍総出で討伐したアースドラゴンの死体を保管しておいて良かったですわ~~」
「くっ……アンデッド化したコカトリスもあなたの仕業ですね! それにアルバート先生への仕打ちも……なんて卑劣なの」
リズがミサディを睨みつける。
その視線を受けて、ミサディはやれやれといった仕草でため息をついた。
「ンフフ~~わたくし多彩な魔法が使えますの~あなたのような出来損ないと違って」
「なにが多彩な魔法ですか! 闇魔法を悪用しているくせに!」
「はあぁ……。リズよ、おまえは救いようのないアホだなぁ。俺様のミサディが闇魔法なんて使うわけないだろうが。ミサディは聖女なんだぞ!」
胸を張り、得意げにフフンと鼻息を鳴らす王子。
んん? ちょっとまて!
アルバートに使った制約てのは闇魔法なんだろ?
ていうか目の前にいる魔物は、ミサディの闇魔法でアンデッド化されたんじゃないのか。
「ミサディは死んだ生物を生き返らせたんだぞ! どこが闇魔法なんだ? これ以上聖女っぽい魔法があるかよ! これだから下民どもは学がないぜ!」
「まあまあ、このような者たちに殿下のような高い理解力はありませんわ~」
「そうだなミサディ。こいつら全員アホすぎるからなぁ~~」
グフフ、ムフフと2人の笑いがその場に響き渡る。
ヤバいな、何を言ってるのか良く分からんぞ。
そんな意味不明なやり取りが繰り広げられる最中に……
なんか地面が若干揺れたような気がする。
ズン!
「さすが俺の聖女ミサディだぜ! さあぁ~~茶番は終りだぁ! 全員ドラゴンに殺されやがれぇ! ギャハハハ!!」
―――ズン!
「ああ? どうした?」
―――ズズン!
「おい? ミサディまでなに固まってんだ?」
「で、殿下……う、う、うしろ」
「ああ? うしろって……」
あ、なんかいる。
「あ、あれはミスリルドラゴン……!?」
「ええぇ、デカくない? あのドラゴン~~」
『ひえぇえええ、で、で、でたのじゃぁ。リ、リズ逃げるのじゃ~~』
んん? ミスリルドラゴンだと?
「――――――なんじゃこりゃぁああ! はべぶっ!!」
―――パクッ!
ザーイ王子は頭から根元まで、かぶりつかれた。
おい! アフロ王子が食べられたぞ!?
「ギャァアアア! ザーイ殿下~~でんかぁかあ~~でんかぁあああ!!」
激しく取り乱す聖女ミサディ。
アースドラゴンってやつが出てきて。
さらに、ミスリルドラゴンてのが出てきて、
王子がパクっといかれた。
目まぐるしく変わる状況になかなか整理が追い付かない。
だが、ちょっと待って欲しい。
おっさんは別の疑問が湧いている。
ひょっとして。
ここにいるやつら全部――――――トカゲじゃないのか?
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