第43話 おっさん、なんかわからんがアルバートを救ってた

「ふぅ……」


 アルバートが腰を上げて、一呼吸置いた。

 ある程度は回復したのだろう。


 ただし警戒は怠らない。


 どんな理由があったか知らんが、いきなり炎をぶっ放してきたのだ。


 カルラも同様に警戒を解いてはいない。角と尻尾はつけたままだからな。



 しばしの間静寂の時が流れる。


 が、その静寂を破って声が聞こえててきた。



「ま、待ちなさい! いますぐ争いをやめなさい!」



 んん? 誰だ?



 1人の美少女が息を切らせて駆けてくる。

 こんなところに場違いなドレスを揺らして。


 そしてその少女の横にはメイド服を着た女性。


「ひ、姫さま……護衛も付けずに。ハァハァ……勝手に飛び出して……」


 姫様と呼ばれる美少女。

 どこかでみたような……


 ああ! そうだ思い出した! リズの友達の姫か。

 たしか王国の第三王女だったか。


「ああ……止められなかったリズ」


 焼けこげた草原とアルバートを見て、がっくりと力を落とす姫。


「ファレーヌさま……どうしてここに?」


 第三王女は息を整えながら少しずつ話をはじめた。


 ザーイ王子がなにかしら企んでいるということ。

 ミスリルドラゴンの討伐に軍を動かしたこと。

 そして本来、王子の指示では動かないはずのアルバートが同行していたことに違和感を覚えたこと。


 どうやら第三王女は、そのことを伝えにきたようだ。

 伝達手段が限られており、王子の軍に同行するていを装って。


 まあすでにことは起こってしまったのだが。


「ということはザーイ王子の軍勢も付近にいるのですね」

「ええリズ、少し離れたところに陣を張っていますの」


 第三王女はコッソリ抜け出してきたらしい。


 よく見れば彼女のドレスはところどころ破けている。

 けっこう無茶をしたんだろう。



「ファレーヌ様、リズロッテ殿……」


 ここでずっと沈黙していたアルバートが口をひらいた。


「わしはザーイ殿下の脅しに屈したのです……情けない」



 話の流れからしてアルバートも王子の差し金である可能性は高かったが、やはりか。



 アルバートの話を聞くと、どうやら魔法学園に通っている孫を人質に取られているそうだ。

 といっても監禁されているわけではないという。


「闇魔法です。あのミサディという聖女がわしの孫に近づき、闇の制約をかけたのです」


 簡単に言うと、術者の指示に従わなければ孫の首が飛ぶ。

 そんな制約らしい。


 シンプルだが使いようによっては絶大な効果を誇る魔法だな。


「それであんたが命令された内容が、俺たちの抹殺か」

「ああ、そうじゃ……」



 えげつない事をしやがる。



「信じられません……お兄様はなぜそのようなことができるのでしょうか……」


 第三王女が思わず口に手をあてる。


「どうしても未来ある孫を助けたかった……」


「先生は勝っても負けても毒薬を飲むつもりでしたね」


 アルバートから取り上げた小瓶を手に、彼を見るリズ。


「……当然じゃ。孫のためとはいえ人としてはやってはならんことするのじゃ。ケジメはつけんといかん」


「たしかに、いかなる理由であれ罪は罪です。償いはしっかりしてもらいます。ですが、死んでしまったら何もできないですよ」


「じゃが、わしはリズロッテたちを本気で殺そうとしたのじゃぞ! もうこれしか解決方法がなかったんじゃ……」


「そんな解決の仕方、私の先生ならしません」

「じゃが……闇魔法の解除方法はわからんのじゃぞ」


「少なくとも私の知っている先生は、そんなことじゃ諦めませんよ。だれもが見捨てた私に魔法を教えてくれた先生なら」


 リズの真剣な眼差しがアルバートを射抜く。


「ふぅ……リズロッテは本当に成長したな。じゃが……もう時間切れじゃ」


「時間切れ?」


「そうじゃ、この闇魔法は時間制限もかけられている。今日がその期限じゃ。期限が来ればわしにつけられた刻印が発動して、孫もろとも首が飛ぶ」


「そうなんですか……でも今日の夜中までにまだなにか出来ることがあるはず」


 リズは最後まで諦めない。



「で、その刻印ってのはどこについてるの~~?」


 カルラがひょこっと会話に入ってきた。


「うむ、黒いお嬢さん、わしの首に黒い輪がついていおるじゃろう。これが刻印じゃ」


 んん? 


「この黒い輪が孫とつながっておるのじゃ」


 黒い輪?


「だからこの黒い輪じゃ……リズロッテ? 姫様も? なにを見て……」



「いや、なんもついてないよ~~」



 カルラの言う通りだ。

 なんもついてないけど。


 俺だけかと思ったが、みんな黒い輪などは見えていないようだ。



「ああ……忘れてました。バートスの炎はすべてを燃やすってこと」

「まあバートスさまの炎はちょっとね~」


 リズとカルラが若干呆れ気味な声をだす。


「馬鹿な……制約の元である刻印を消せば闇魔法は打ち消される。だからこそ、ありとあらゆる魔法や魔道具を試したというのに……なにをやっても消えなかった刻印だぞ……」



 え? なに? おっさんいらんことした?



「な、なんという。孫を救ってくれた。貴殿は命の恩人だ……」



 アルバートのじいさんもなんか言い出した。



「わたくしからもお礼申し上げます。アルバート先生を救ってくれて感謝します」

「バートス、やりましたね。やっぱりあなたは最高の従者です」


 美少女2人が満面の笑みで俺の両手を掴んでくる。


 そうか、まあおっさん役に立ったようだな。

 とにかくじいさんの孫は救われたようだ。良かったよ。


 その後、アルバートのじいさんを介抱する、リズと第三王女。

 2人にとって大事な存在なのだろう。最悪の事態は避けられたことを喜び合っている。



「ああぁあ~~んだこの茶番はよぉおお」



 そんな、少し和んだ空気を聞き覚えのある声が切り裂いた。



「な~~にが王国最強だよ。この役立たずじじいがよぉおお! この俺様にくっさいシーン見せてんじゃねぇ!」



 ザーイ王子だ。



 なるほど、すべての元凶のご登場か。





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