第38話 聖杖(のじゃロリ野良天使)の力

「最強の火魔法使いだって!?」


「はい、バートス。王国で獄炎のアルバートという二つ名を知らない魔法使いはいません」



 最強……獄炎……。


 なにそれ、とんでもないじいさまじゃないか。



「随分と懐かしい名前だな……もう昔の話じゃよ。リズ殿」


「王国魔法師団長のあなたが、なぜ私たちを狙うのですか?」


「……」


 アルバートはリズの問いかけには答えず、手にもつ杖をこちらに向ける。



「―――火炎魔法ファイアーボール!」


 いきなり放たれる火球。



「くっ! ―――三連撃氷結槍魔法トリプルアイスランス!」


 リズの放った氷の槍は3本とも火球に命中して、双方の魔法は相殺された。



「おお、やるな聖女殿。わしの魔法を相殺するとは、以前より腕を上げたな」


「っ……! ただの初級魔法なのに、この威力ですか。とんでもない人ですね」


 なんだか状況が呑み込めないうちに戦闘がはじまってしまった。

 だが、俺はリズの従者だ。


 王国最強の火魔法使いだろうが関係ない。


「―――リズ、俺たちも加勢するぞ」


 だが、前に出ようとした俺にリズは制止の手をあげる。



「バートス、もう少しだけアルバートと話をさせてください」



 リズが真剣な眼差しを俺に送って来た。

 どうやらこのじいさんとは、ただの知り合いというわけではなさそうだ。


「わかった。リズのしたいようにしてくれ」

「ありがとう、バートス」

「だが俺が危ないと判断したら、その時は許可なく割って入るぞ」

「はい、お願いしますね」



 俺たちのやり取りを見ていたアルバートが、俺に鋭い視線を向ける。


「バートス……そうか。彼がレッドドラゴンを跡形もなく燃やしたという、火魔法使いじゃな」


「そうです。バートスは手強いですよ」


「ああ……そのようだな。全力で戦わねばならんかもしれんな」


「なぜです? あなたがこのようなことをする理由が見当たりません。話し合いはできないのですか?」


 リズのその綺麗な紫眼の奥には困惑と苛立ちがみえる。


 アルバートはふぅ……と一息入れたかと思うと、再び杖をリズに向けた。



「残念ながらそれはできん!―――三重詠唱スリーマジック

「「「――――――中級火炎魔法ミドルファイアーボール!」」」



 なにあれ!


 なんかアルバートの口が3つに増えた!?



「―――くっ! 3つ同時!! それにこれが中級魔法? 完全に上級魔法です!」


 リズが聖杖を構えて防御態勢を取る。


『ひゃ~~ん、あんなの無理じゃ~~』

「ちょっ、エレナ落ち着きなさい!」


 その場から逃げだそうと懸命にブルンブルン揺れる聖杖。


 なにやってんだ、エレナのやつ……。



「―――聖極大氷結鏡魔法ホーリーハイアイスミラー!!」



 おお! これ、ニワトリ討伐の時に使ったやつだ。


 リズのまわりに巨大な分厚い氷壁がズズズと現れる。



「む? なんと……独自魔法オリジナルか……やるな!

 ――――――だが!!」


 アルバートの放った3つの火球はリズの氷に激突して、その勢いを失わずに壁を削り取っていく。


「そんな……キングコカトリスの石化砲を跳ね返した壁が……」


 猛烈な勢いで削り取られていくリズの氷壁。


 これはピンチか? おっさんも参戦した方がいいのか?

 カルラも固有能力を使用するために角と尻尾をつけた。


 そこへやだやだ騒いでいた天使が、再び口を開いた。


『しょうがないのじゃ~~灰になりたくないからわれも力を貸すのじゃ~~』


「ちょっと、エレナ。暴れないでください!」



『んんんん~~~~』



 リズの言葉にはお構いなしに、ブルンブルンと暴れ倒すエレナ。

 ―――聖杖が光をおびて輝き出した。


「―――え? これは?」


 聖杖の先端にまるい光の輪が浮かび上がる。


 これは……エレナの天使の輪か?


「す、凄いですエレナ。なんだか力がみなぎってきます!」

『どうじゃ~~われが本気をだせば~~こんなもんじゃい! エッヘン!』


 どうやら聖杖エレナが本領を発揮したらしい。

 まあ天使だし。単に食いしん坊な幼女ではないとうことか。


 聖杖をブンブン振り回して自信に満ち溢れるリズ。


 リズはその勢いのまま、壁を崩しつつ迫る火球に聖杖を思いっきり振りあげる。



『へ? ちょ、ちょっとまつのじゃ~~リズ! もっと聖女っぽい魔法とか……』



「さあ! 行きますよ~~エレナ~~

 ――――――えいっ!!」


 スパコ―――ン!!


 と子気味良い音を上げて、火球の1つを打ち返すリズ。


 こりゃ凄いな。魔法なのか良く分からんが、思いっきり聖杖を振りぬいたぞ。



「凄いですよエレナ! さあ~~次々行きますよ~~ブンブン!!」


『ぶんぶんって……ま、まつのじゃリズ。ねぇ~~まってぇえええええたらぁああ!!』



「―――――えいっ! えいっ!」


 スパコ―――ン!!

 スパコ―――ン!!


 あっと言う間に火球はすべて弾き飛ばされていった。


『使い方がわれの想像と違うのじゃ~~あついぃいいい!!』


 エレナはリズの聖杖として大活躍だな。さすが天使だ。

 まあ当の本人は悲鳴をあげているけどな。



「―――ぐっ! まさかわしの三重火球を……跳ね返すとは!?」


 アルバートはおなじ魔法を再度放ち、はじき返されてきた火球を相殺しつつ驚きの声を漏らした。



「ふぅ……あの一撃で決める予定だったんだが。随分と変わられたようだな。聖女殿は」



「はい先生。あなたの弟子は成長しましたよ」


 先生? リズが弟子だって?


 どういうことだ?



 リズはその綺麗な銀髪を揺らして、先生と呼ぶ魔法使いをじっと見つめた。






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