第36話 動き出すザーイ王子と聖女ミサディ。そして第三王女

◇ザーイ第二王子視点◇



「次はミスリルドラゴンの討伐だと? クソッ、調子に乗りやがって!」


俺は王城の自室にて、出来損ない聖女リズの手紙をグシャと潰した。


あの女からの通信はすべて俺様が握り潰している。

のだが……あの出来損ないめ。急にバンバン討伐しやがって。


いったいどうなってやがる。


「クソ~~父上が領地視察に行って不在とはいえ、そろそろ誤魔化しきれんぞ……」


なんか手を打たねぇと。


「ンフフ~~ザ~イさま。聖女リズたちはミスリルドラゴン討伐に向かうのですね?」


スッと俺の横に現れた聖女ミサディ。


「ああ、そうだ」


「でしたら、ここで決着をつけるのです」

「決着をつけるだと?」

「はい、リズ一行を始末するのですわ」


「ふむ……しかしあからさまに始末はできんぞ」


「ミスリルドラゴンはSS級の強力な魔物、討伐に失敗したことにしてしまえばいいのですわ」


「おお! なるほど!」


「さらに、我々でミスリルドラゴンを討伐してしまいましょう。大軍を動員するのですわ。王子の権力で」


「うむうむ!」


「聖女リズが討伐出来なかった魔物を我々が討伐する。これで王子とわたくしの実績と人気は不動のものになるでしょう」


さすが俺の聖女ミサディだ。俺の未来の妻なだけあって、俺と同じく頭が切れるな。


「で、また暗殺者を送り込むのか? 従者のおっさんの火魔法はそこそこやっかいだぞ」


俺の頭をこんなアフロにしやがったあの野郎。


「ンフフ~ご安心ください。ザーイ殿下。ようやく準備は整いましたわ」


「んん? 準備ってことは」


「はい、王国最強の火魔法使い。魔法師団長のアルバートは、我々の指示通りに動くようになりましたわ」


魔法師団長アルバート。

王国歴戦の魔法使いにして、その得意とする火魔法は他国にも鳴り響くほどの使い手。

ただし、気難しい真面目な野郎で扱いが難しかった。


それにアルバートが所属する王国魔法師団に俺の指揮権はねぇ。


「おお……よくやったぞミサディ! あのアルバートをよく動かせたな」


「ンフフ~彼には愛すべき家族がいますから。家族のためならなんでもするものですわ」


以前俺に話していたミサディの下準備とやらのことだな。

どんな手を使ってでも目的を達成する。グフフ~~やはりミサディは俺好みの性格だぇ。


最高の聖女だ。


「ということは……ミサディ」


「はい、聖女リズご一行はここで全員お亡くなりになるのです。ンフフ」



「ギャハハハ~~そりゃ最高だぜぇ!」



やはり俺の聖女は最高だぜ。あんな出来損ないとは大違いだ。


それにこれで―――



「――――――あのクソおっさんをギャフンと言わせられるなぁああ!」



「もちろんですザーイ殿下。王国最強のアルバートにとって、あんな小汚いおっさんの火魔法などまさしく風前の灯火ですわ~~ムフフ」


グフフフフ~~楽しみだぜぇ。


「よし、ミサディ! 俺たちも出陣だぜぇ! 勝ち確定の戦いだがなぁ~~ギャハハハ!!」



数日後、王城よりミスリルドラゴン討伐のザーイ第二王子軍が、出発するのであった。




◇◇◇




◇ファレーヌ第三王女視点◇



ザーイ第二王子軍の隊列にひときわ豪華な馬車が揺れていた。



「ファレーヌさまがわざわざ向かわれなくても……」


馬車内で向かいに座る侍女のアンナが心配そうな声を漏らす。

私はお兄様にお願いして、討伐隊に同行させてもらっているのだ。


「アンナ、無理についてこなくてもいいのですよ。これだけの大軍ですから、心配することもないですし」


「そんなことできません! ファレーヌさまの専属従者としてどこまでもついていきます!

 それにミスリルドラゴンはSS級の魔物ですよ。ザーイ殿下の大軍がついているとはいえ不安です……」



「アンナ……どうしても嫌な予感がするのです」


「予感って……」


「私が行かないとダメなんです」


それ以上アンナはなにも話さなかった。



侍女のアンナには予感と言ったが、実は予感などではない。


聞いてしまったのである。


お兄様の部屋からいつもの独特な笑い声が聞こえてきたあの日。

たまたま近くを通りかかった私は、衝撃の言葉を聞いてしまった。


リズ一行を亡きものにするという言葉を。



詳細はわかりません。

ですが、あのお兄様のことなので本当にやりかねない。



なんとかリズに伝えないと。



わたくしは王族とはいえ所詮は第三王女。

いずれは他国の王族か、国内の有力貴族に嫁がされる身です。

ですから、王国の政治や軍事へはほんとんど関わっていません。


お父様は長期不在で相談することもできませんし、しても信じて頂けるかわかりません。証拠も何もないのですから。

それに城内も誰が味方かわからず。うかつに話すこともできない。


リズの所在はわからず、伝書鳥も使用できない。



でも……大切な友人であるリズを助けたい。



「あ、あれアルバートさまですよね!」


アンナが騎乗する1人の男性を指さして声をあげた。


―――え?


なぜ魔法師団長のアルバートがザーイお兄様の軍にいるのですか?


単に戦力アップのためだけに同行しているとは思えません。

彼は王国守備の要でもあります。父上不在の今、そう簡単に王都を離れるのはおかしいです。


そういえば……


たしかリズの従者バートスも優れた火魔法使い。


そしてアルバートは王国一の魔法使い。

しかもなかでも得意とする火魔法は他国が一目置くほどの使い手。獄炎のアルバートという二つ名は世界に知れ渡っている。


「小さいお孫さんが王都の新聞に載ってました! すでに魔法適性が高くて将来有望だとか」


王国の民でアルバートを知らない者はいない。


「うわぁ~~最強のアルバートさまがいらっしゃるなら。安心ですね」

「え……ええ。そうねアンナ……」



もしお兄様の企みが、アルバートをバートスにけしかけることなら。



―――万にひとつもリズたちに勝ち目はない。


これはいけないわ。



リズたちになんとしても伝えないと。



王子が、聖女が、王女が、様々な思惑を胸に秘め、おっさんの元に集うのであった。





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