第35話 聖女リズ、新たな聖杖を手に入れる

 エレナが来て数日がたった。


 初日はリズにお説教をくらっていたが、徐々に打ち解けていったようだ。聖女と天使だとなんか共通点でもあるのか。

 それに教会のシスターたちや子供たちとも良好な関係を築いている。


 カルラとも仲直りはしたようだ……たぶん


 エレナは意外にも真面目に働いている。

 ちゃんと働くからこそ、まわりも認める。


 単純な事なんだが、意外に出来ない奴が多い。


 エレナは長い間ゴーストに取り憑かれていた。自分の意思はあったらしいが、多少なりともゴーストの影響はあったのだと思う。安易に盗みに走ったのもその影響が少なからずあったのだろう。


 この教会で少しでも罪滅ぼしが出来そうで良かった。


 さっそくシスターの一人が、エレナに仕事をお願いしに来た。


 すっかり人気者だな。


「エレナさん、玄関の掃き掃除お願いしますね」

「今日は風が強いからいちいち掃かなくていいのじゃ」


 おい……


「エレナさん、トイレ掃除お願いします!」

「それは昨日やったのじゃ」


 おい……トイレは毎日掃除してくれ。


「エレナねえちゃ~~ん、あそぼ~~」

「めんどくさいから、やなのじゃ」



 数日しかもたんのか……おまえの真面目モードは。



 前言撤回だ。もしかしてエレナは、ゴーストに取り憑かれてなくてもこのキャラなのか?



「―――エレナ! ちょっとこっちにきてください!」


 リズが物凄い形相でズンズンこちらに歩いてくる。

 さきほどのやり取りを見ていたのだろう。


 リズにお説教を頂戴して、ひぃいい~~と叫びながらホウキを取りに行くエレナであった。




 ◇◇◇




 その翌日、俺がリズと拭き掃除をしていると神父さんがやってきた。

 手には聖杖を持っている。


「おお、リズの杖なおったのか!」


「ええ、杖は修復できましたがどうしても聖玉せいぎょくが……私の力では難しいです」


「聖玉?」


「はい、バートスさん。聖玉とは聖女の力を増幅する宝玉のことです」


 たしかに杖の先端にある宝玉とやらは割れたままだった。


 リズは神父さんに渡された聖杖をじっと見つめていた。


「リズ、残念ながら私では力及ばずでした」


「いえ、無理を言ったのは私です。折れ曲がった杖が戻っただけでもありがたいです。神父様、ありがとうございました」


「リズ……聖玉の損傷が想像以上に酷いです。おそらくは王都の大教会でないと修復は難しいでしょう」


「はい、神父様。次の討伐を終えたら王都に戻ります」


「そうですか……リズがそう決めたのなら、もうなにも言いません。ですがくれぐれも無理はしないように」


「フフ、ダメなら逃げ出しますから大丈夫ですよ」


 リズはその銀髪を揺らして、微笑んだ。



 さて、これで教会での生活も終わりか。


 俺たちは出立の準備を終えて、みんなとお別れの時間をむかえていた。


 神父さんや子供たちが手を振り、シスターマリルとノエルがお弁当を持たせてくれた。


「みなさん、お世話になりました! ありがとうございました!」

「世話になったな。みんな。またどーなつ食べに寄らせてもらうよ」

「みんなまたね~~あたしこの教会好きだから~~」

「さらばなのじゃ! 達者でのう!」


 俺たち3人はお礼を言ってその場をあとに……


 ―――って、ちょっとまて!


「さらばじゃないだろ?」


 当然のように教会とお別れしようとするロリ天使に、その場にいる全員の目が向けられる。



「なぜじゃ! われもバートスたちについていくのじゃ!!」


「ダメだエレナ。まだ罪滅ぼしが終わってないだろう」


「ええ~~もう充分じゃろ3日も真面目にやったんじゃから」


 エレナがおうとつの無い胸をフンっと張る。

 いや……たった3日でどんだけ威張るんだよこの天使。


「天使エレナ、あなたは教会に残ってやるべきことをやりましょう」


 神父さんがエレナを抱き上げて、俺たちに出立を促す。


「いやじゃ、いやじゃ~~うぅうううう~~」


 なにやってるんだ?


 ―――ポンッ!


 うお! エレナの背中からなんか羽根っぽいのが出て来た。


 ロリ天使は必死にその羽根をばたつかせるが、いっこうに飛ぶ気配はない。


 だって……



「「「―――羽根ちっちゃ!!」」」



 俺たちは思わず同時に声を上げた。


「ちいさい言うな~~飛ぶのじゃ~仕事やなのじゃ~~!」


 神父さんの腕の中でジタバタとあがくエレナ。

 そんなに仕事したくないのかよ……。


「あ~~ん、やっぱり飛べないのじゃ~~」


 どうやらこの天使は飛べないらしい。


「いい加減にしなさいエレナ。リズは聖杖も完全ではないのに旅立つのです。邪魔をしてはいけません」


「ううぅ……バートスのそばがいいのじゃ」


 まあ気持ちは嬉しいが、ダメなものはダメだ。

 それに討伐の旅は遊びじゃないからな。ゴーストでなくなったエリナは以前のような力もない。


「あきらめないのじゃ~~むぅううううう

 ――――――だぁ!!」


「お、おいエレナ、なにやってんだ!」


 エレナの体が黄金色に輝き始める。


 なにこれ!?


 黄金の光は神父の手からこぼれて、リズの聖杖へと流れ込んでいく。


「う、ウソ……聖杖の聖玉が……」

「おい、リズこれ……」

「はい、バートス。聖玉が元に戻っています。というか以前よりも力を感じます……」


『あたりまえなのじゃ!』



「「「杖がしゃべった―――――!!」」」



「お、おい。エレナなのか?」

『そうなのじゃ! われはリズの聖杖になったのじゃ!』


 たしかに……エレナの声だ。


『天使には個別の能力があるのじゃ。われの固有能力は【武器化】じゃ!』


 なるほど、そういえば天使にも魔族と同じく固有能力があるって親父が言ってた気がする。

 今更ながらに思い出した。



『さあさあ! これでわれも連れていかねばならなくなったのじゃ』



「う……うむ。たしかに……いやしかしなぁ」


『なにを悩むのじゃバートス。われも人助けをするのじゃ! その旅なのじゃろ?』


 むぅ……これは想定外の展開だ。

 たしかにリズの聖杖が完全復活したのは大きい。彼女もその力を最大限発揮できるだろう。



『さあさあ! どうなのじゃ!』



 さあさあと息巻くロリ天使。そこへ神父さんがリズに視線を向ける。


「こうなった以上は、エレナも連れて行った方が良いでしょう。リズ頼めますか?」


「エレナ、私の聖杖として共に旅をする。ということでいいんですね?」

『もちろんなのじゃ~~!』


「まだ今なら教会に残れますよ、本当にいいんですね?」

『いいのじゃ~~われはリズの聖杖なのじゃから~~エッヘンなのじゃ!』


「わかりました。神父様、エレナも連れて行きます」

「ええリズ。よろしくお願いします。聖杖が復活して本当に良かったですよ」


『やた~~これでチマチマしたお仕事ともおさらばなのじゃ~~フンフン♪』


 こいつ……まあ自分の選んだ道を後悔しなければいいがな。


「ところでリズ。次はどこは向かうのですか?」


『きまってるのじゃ~~ハイソな街で高級でぃなー食べまくるのじゃ!』


「はい、神父様。ミスリルドラゴンの討伐に向かいます」



『へ?……みすりるどらごん?』



「そうですか、王国SS級指定の魔物ですか。その名の通りミスリルのように固い体をもつ個体。それはまた困難な道のりですね」


『えすえすきゅう……』


「はい、道は険しくても成し遂げます。聖杖も新しく生まれ変わりましたし。硬いドラゴンだろうが、ブンブン振るいます♪」

「ああ、リズロッテらしいですね」


『われをブンブンふるう!?』


 おい、なんて情けない声を出すんだ。

 俺だってSS級とかビビりまくりなんだぞ。


『リズまって! われやっぱり教会にいる! 罪滅ぼしちゃんとする!』

「何を言っているのですかエレナ。聖杖は聖女と共に常に最前線で戦う神聖な杖です。知ってますよね」


 リズが小悪魔めいた笑みを浮かべながら、聖杖をおもむろにブンブン振ってみせる。


「うん。やはりエレナの聖杖は良い感じです♪ では行きましょうバートス、カルラ」


『やだよ~~なんでどらごんなぐるのじゃ~~おかしいのじゃ~~杖はそんな使い方しないのじゃ~~』


「エレナ。自分で決めた道ですよ。駄々をこねないでください」


 嫌がる聖杖をギュッと握って歩き始めるリズ。



『やだよ~~ああ~~リズ引きずらないでよ~地面ガリガリしないでよ~~』



 かくしてロリ天使が俺たちの仲間となった。








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