第33話 おっさん、ゴーストをボウッと燃やす
「出てきなさい! ゴースト! もう逃げられませんよ!」
リズの叫びで俺たちは一気に戦闘モードに切り替わる。
どーなつ泥棒、許すまじ。
「シスターノエナ、マリル。子供たちを連れて外へ出るんだ。ここは俺たちに任せろ」
シスターたちが頷き、キッチンには俺たち3人とゴーストのみとなる。
天井からするりと床に降りてきたゴースト。
薄い灰色のモヤモヤとした体。向こう側が微妙に透けている。
間違いないく人ではないな、こりゃ。
『むきぃ~~せっかく今までうまくいってたのに~モグモグ』
クソ、なにモグモグしてんだ。このゴースト。
「もう観念しなさい! ゴースト!」
『うるさいのじゃ! こうなったらやってやるのじゃ~~モグ』
灰色の影から2本の太い腕があらわれて、その大きな拳をブンブンと振り回し始めた。
動きがデタラメで避けるまでもないのだが、拳がそこら中にぶつかり被害が拡大する。
「……くっ! こんな狭い場所で何考えてるの!」
『うるさ~い! こんなところでわれを見つけるからいけないのじゃ~~』
どういう理屈だよ。子供みたいなやつだ。
ゴーストが拳を振り回すたびに、ガッシャんガッシャんと調理器具が散乱する。
「おいおい、キッチンをぶっ壊す気か?」
「……バートス! このままでは被害が拡大する一方です! 出力を抑えて魔法を使用します!」
「バートスさま~あたしもいくよ~~」
リズは氷魔法でゴーストの動きを止めるつもりなのだろう。
カルラは【活性化】で筋肉ムキムキになっていた。
「氷の精霊よ! その凍てつく針で敵を刺し尽くせ!
――――――
『アハハ~~無駄なのじゃ~~』
「……ウソ。実体がないからですか?」
リズの放った氷の針は、すべてゴーストの体を通過してしまった。
ダメージは一切ないっぽい。
「こんどはあたしの番だよ~~カルラ~~パァ―――ンチ!!」
筋肉カルラから繰り出される強力な拳。
が―――
「うわわっ―――!」
カルラの拳はゴーストを突き抜けて虚しく空をきった。
『アハハ~~どうしたのじゃコムスメ~デカ乳が揺れておるだけじゃ~~』
「むう……デカ乳いうな!」
「バートス……魔法攻撃も物理攻撃も効果がないようです」
なるほど、こいつはやっかいだな。
実体がないからなのか、攻撃が素通りしてしまう。
だが、その前に確認しなければならないことがある。
非常に重要な事を。
「―――おい、取り合えずさっき盗ったどーなつを返すんだ!」
『はぁ? なのじゃ。もう全部ここにあるのじゃ』
そう言うとゴーストはおなかであろう部分をサスサスとさする。
「マジかよ……全部って」
『アハハなのじゃ~~美味かったぞ~』
美味かったって……
「俺は食ってない……どーなつ」
『アハハなのじゃ~~からあげも美味かったぞ~』
「俺は食ってない……からあげ」
『当然なのじゃ~~我が全部食べてやったからの~~アハハなのじゃ~』
ケタケタと高笑いするゴースト。
俺の体からふつふつと熱い怒りが溢れ出て来る。
【焼却】……発動。
―――――ボウゥウ!!
俺の炎がゴーストを取り囲む。
『アハハなのじゃ~まだわからぬのか~~われに火魔法などきかぬ……え? これもしかして……』
俺の炎は魔法じゃない。
が、そんなことは今はどうでもいい……
『はれれ? わ、われ燃えている!? なんで? アチチなのじゃ~~』
「からあげ、どーなつの恨みぃいいい! ――――――思い知れぇええ!!」
俺の怒りの炎がゴーストを燃やしていく。
『ふえぇええ~~なんじゃこりゃ~~アチ、アチ、あちぃいい~~!』
ゴーストは真っ赤に燃えさかる炎の中、崩れて灰になっていく。
「す、凄い……ゴーストって燃やせるんですね……」
リズの言葉に少し周りが見えて来た俺。
彼女と視線を合わせた時に、2人ともあることに気付いた。
「「―――あっ!」」
ここ室内だった……
ヤバイ……やっちまった。
火事になってしまう!
「氷の精霊よ、その凍てつく吹雪で敵を砕け!
――――――
―――さすがリズ!
彼女がすぐさま氷魔法でキッチン全体を冷やしてくれたおかげで、大事には至らなかった。
ふぅ~俺の安堵の息を漏らしたが、それもすぐに取り消された。
灰にしたはずのゴーストが、モゾモゾと動いている。
おかしいぞ、手応えはあったはずだ。
『ふぃいい……アチチなのじゃ……』
「バートス! ゴーストがまだ生きています!」
ゴーストがむっくりと起き上がった。
黒焦げの灰がボロボロと崩れ落ちて……
んん?
なんか出て来た。
「ば、バートス……人が……」
リズの言うとおり、灰の中から人が出て来た。
ぱっと見たところ、小さな女の子のように見える。
見えるんだけど……
なにかキラキラと光るものが見えているんだが。
「ええ? バートス、あれって……」
「バートスさま~~これあたしが天界にいた時のにおいだよ~~ってことはあれって……」
リズとカルラの視線はその光に集中している。
ゴーストの中から女の子が出て来ただけでも驚きだが、さらに俺たちが驚く理由。
この子の頭上に、光輝く輪っかが浮いてんるんだが。
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