第32話 おっさん、事件の捜査にのりだす
俺たちが叫び声の元に駆けつけると、シスターが食堂でうずくまっていた。
「シスターノエナ。なにがあったのですか?」
「リズ~~~またでたよぉおお!!」
シスターノエナが涙目でリズにしがみつく。
「ええぇ~~また~~!?」
あとから駆けつけたシスターマリルがガックリと肩を落とす。
「またでた? どういうことですか?」
シスターたちの話によると。
どうも、数カ月前からこの教会では異変が起こっているらしい。
「昼食が盗み食いされているの……でも誰かが忍び込んだ形跡はなくて」
「シスターノエナは犯人を見なかったのですか?」
「うん、リズ。ちょっとキッチンに行って戻ってきたらこのありさまで」
ノエナの言うとおり、テーブルの上にのった皿から野菜がこぼれて散乱している。
犯人が荒らしたのだろう。
「なるほど、窓も閉まっていますし。廊下に出れば誰かが目撃するはず……」
「ここ数日は無かったんだけどねぇ」
「……人の仕業ではないのかもしれませんね」
「ええぇ……リズ、それって……」
「ゴーストとかいたりして……」
シスターノエナがポツリと呟いた。
ゴーストか、俺は見たことがないが実体を持たない魔物だったかな。
「調べてみないとなんとも言えないですが、私達で出来ることをやってみますね」
ということで―――
俺たちはさっそく現場調査にのりだした。
「これが被害にあった料理たちだな」
「ええ、バートス。なにか手掛かりがないか探しましょう」
俺はマジマジと食卓に並んだお昼ご飯を見る。
「むう……大皿のメイン料理だけが消えている」
シスターノエナによると今日のお昼は「鶏のからあげ」だったらしい。
うわぁ、からあげかよ。食べたかったよう。
「たしかにメインが消えてますねバートス。ですがグリーンピースとピーマンには一切手をつけていません」
「てことは~~犯人はお肉好き? あたしはグリーンピース好きだけどな~」
カルラがグリーンピースをひとつ、つまみ食いする。
こら、行儀が悪いぞ。
「う~む、犯人は好き嫌いの多いやつなのかもしれん」
「シスターノエナがいないわずかな時間で、これだけの量を盗み食いできるものでしょうか?」
リズの言うとおりすべての大皿からからあげが消えている。10人前以上だぞ。
なんで全部食べちゃったんだよぉ……
「犯人は複数なのでしょうか」
「でもリズ~~犯人がいっぱいいるなら、それこそ誰かが気づくんじゃない?」
「とすれば犯人はよほどの食いしん坊でしょうか? そういえばカルラは鼻が効きますよね、なにか感じますか?」
「んん~~魔族の匂いはしないなぁ~~でもかすかに……これどこかで……うん、やっぱ分かんないやリズ」
「そうですか、なにか収納魔法や魔道具を使う可能性もありますが、それだと食堂に入る必要があるし……」
俺たちが頭を抱えていると―――
「わぁ~~ん!!」
今度はなんだ!?
「キッチンの方です!」
俺たちがキッチンに行くと、子供たちが泣いていた。
「「「ドーナツが無くなっているよぉ~~しくしく」」」
「どーなつ??」
「「「今日はおやつの日だから楽しみにしてたのにぃ~~しくしく」」」
「リズ!! どーなつってなんだ!?」
「ええぇ……ドーナツと言うのは、パンを揚げた甘い菓子です」
「すっごくおいしいんだよぉ~」
「輪っかなんだよぉ~」
「サクサクフワフワ甘いんだよぉ~~」
子供たちが口々にどーなつの凄さを語る。
マジか……めっちゃ美味そうじゃないか。
いかん、よだれ出そう。
「楽しみにしてたのに~~しくしく」
「くっ……子供たちの楽しみを奪うとは」
「そうですねバートス。犯人にはきつくお灸を据えなないといけませんね」
「「「おじちゃんの分もあったのに~~無くなっちゃった~~しくしく」」
―――なんだって!?
俺の分もあったのか!?
「うぉおお、俺もどーなつ食べたかったのにぃいいい!!」
「バートス! 捜査に集中してください!」
「……はい」
ちょっとどーなつにテンションが上がりすぎた。
でもどーなつ気になるんだよぉ。どんな味なんだろうか。
俺がシュンとなっていると、シスターノエナがとんでもないことを言う。
「あ、ドーナツなら多めに揚げたので、まだありますよ」
えぇええ!
―――マジで!?
「えええぇ~~本当? ノエルおねえちゃん!」
「やった~~ドーナツまだあるんだ!」
「いつもの棚だよねぇ~~! やった~!」
『なんじゃと! 見逃しておったのじゃ!』
うぉおおお! どーなつ、どーなつ、どーなつ!
シスターノエナは天使なのか!
―――あれ?
ちょっと待てよ。
なんか今、変な声が混ざっていたような。
でも声質は子供っぽかったけど。
「はい、たしかその棚に入っていま……」
そこでシスターノエナの声が止まった。
「わあぁあ、せいじょさま~~おじちゃん~~あれ!!」
天井から灰色のシミが広がり、ニョロっと出た手がどーなつを掴んでいるではないか。
「な! なんですか! ご、ゴースト?」
『し、しまったのじゃ……つい手がでてしもうた』
「ご、ゴーストがしゃべりましたよ! バートス!」
「ああ……わかっているリズ」
ゴースとだろうが、魔物だろうが関係ない。
おまえはやっちゃいけないことをやってしまった。
どーなつ泥棒――――――覚悟は出来ているんだろうな!
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