第22話 おっさん、キングポイズントードをボウッと燃やす

 しまった……沼地の奥まで来すぎた。


 どこだここ。


 カエルしかいないし。


 こいつずっと緑の息吐いてるだけだし。


 ―――ここにはいないのか? キングなんちゃら?


 そうこうしているうちに雨が降り出した。


 カエルが出しているのか?


 視界は極端に悪くなり、音もうるさい。

 いったんリズの元に戻ろうとするも、もはやどっちに行けばいいかすらわからん。



 だがそんな中、リズのとんでもなくデカい声が俺の耳に届いた。



 俺の目の前にいるカエルがキングだと言うのだ。


 どうみてもカエルだ。魔界のゴミ焼却場で山のように燃やしてきたから、見間違えってことはないだろう。



「―――が、とにかくこいつを討伐すればいいってんなら、任せとけ!」



 俺は眼前のカエルめがけて【焼却】を発動。



 ―――ボウッ!



 カエルを中心に炎が立ち上がる。


 ―――なんだ? 手応えがない?


 俺は、自身が発動した炎の感覚をある程度察知することができる。

 対象物が燃えているのかどうかは視覚に頼らずとも、ある程度はわかるのだ。


 カエルは燃えていない……


 炎が消えたあとには何もいない。

 焼け切って灰と消えたのとは違うな。


「ゲゲロッ~~~ゲゲゲゲ~~」


 カエルの鳴き声に振り返った俺は、次の瞬間宙を舞っていた。



「―――グッ!!」



 カエルの舌か……


 カエルは沼地に潜って炎から逃れ、後方からその長い舌で反撃して来た。なんとか体制を立て直して、沼地に落ちる俺。


 舌が直撃した下腹にズキリと痛みが走る。


 油断した……これは何度もくらうわけにはいかないぞ。


 周囲を見渡すも、カエルの姿はない。

 攻撃した瞬間、すぐに沼地に潜ったからだろう。


 ビュッという水切り音とともに沼の水面から、再び長い舌が俺めがけて飛んできた。


「うぬっ―――」


 俺は上体をのけ反らして、なんとか舌の攻撃を躱す。


 これは考えたなカエル。


 俺はカエルを焼却場でしか燃やしたことがない。

 地面がしっかりとした現場だ。


 だから、少しカエルの行動に驚いてしまった。


 そう言えば死んだ親父が言ってたっけ。

 カエルは何百と大量にまとめて燃やす方が楽だ。数匹だと逆にメンドクサイと。


 なるほど……1匹だと自由に動ける範囲が広がる。


 さらに沼地という地の利もある。


 魔界では一度大量発生するとゴミ焼却場がカエルでギュウギュウになる。カエルたちが飛び跳ねる余裕などないぐらいに。



 舌の攻撃を躱しつつ、ピンポイントにカエルの居場所へ炎を叩き込むのは難しそうだ。



「ゲゲゲゲ~~ゲゲ―――!!」



 勝ち誇ったかのように、カエルがゲロゲロ鳴きながら舌を叩きつけてくる。


「―――場所が特定できないなら……」


 俺自身もその体を沼の中に沈めていく。


 カエルは俺の近くにいるはずだ。少なくとも舌の届く範囲内には。



 少し腹に力を入れて……【焼却】発動!!



 ―――――――――ボボウッ!!



 そのまま【焼却】の発動を止めずに燃やし続ける。


 沼の水温がグングン上昇していく。

 ボコボコと水面に気泡が浮き上がり、モクモクと水蒸気が立ち上がりはじめた。


 沼の水位が下がりはじめる。


 俺は炎が拡散するように【焼却】を広範囲に発動した。

 魔界の現場でもっともよく使った燃やし方だ。



「ゲッ!?……ゲェエエエエエ!!」



 お、いたいた。

 水位が下がり、カエルの一部が露出する。



 高温の水蒸気と高熱を帯びた沼の熱湯が、カエルを真っ赤に染めていく。


「ゲッ! ゲェエエエエェェェ……」



「場所がわからんなら―――全部燃やすまでだ」



 沼地の水がすべて蒸発した頃には、カエルは蒸し焼きになってこと切れていた。



「ふぅ……終わった。カエル、意外に手強かった」



 カエルだからって舐めちゃダメだな。

 干からびた沼地を元来た場所へ歩き始めると、遠くから2つの影が駆けてくる。



「バートス~~大丈夫ですか!」

「バートスさま~~」


 リズとカルラだな。

 近づいていくる美少女2人の……


 たくましい足と腕、それに胸板??



 ――――――って誰だ! このムキムキな2人!?



「ちょっ、バートス燃えてます!」

「ああ~~ほんとだバートスさま燃えてる~」


 マジか……うお! また燃えてるじゃないか、俺!


「はやく消さないと! なんで燃えたまま歩いてるんですか!」

「うける~バートスさまっぽい~~」


 ヤバイ、これ止まんないやつだ。



 ―――でもそのまえに……この2人誰!?



「いますぐ消火します! ―――聖氷結回復魔法ホーリーアイスヒール!!」

「ええ! リズって回復魔法使えたの?」

「えと……違うんですけど。気分で勝手に言ってます……バートスも褒めてくれたし……聖とか回復とか言った方が威力が上がる気がして」

「ふ~~ん、そうなんだ~~」


 リズ? 誰が? 

 何の話をしてるんだ?


「―――と、とにかく消火しますよ! バートス!」


 そう言うと、筋肉の人があふれんばかりの筋肉で俺に抱き着いてきた。


 俺は謎の筋肉の人に、ハグされながら消火されたのだった。







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