第21話 聖女リズ視点、聖女はおっさんに叫ぶ

 何やってるんですか! バートス!


 毒の沼地にズブズブ入っちゃうし。

 ズンズン奥に行っちゃうし。


 自由すぎますよ……。


「お~~い、リズ~~キングなんちゃらはどこだ~~!」


 だからバートスの目の前にいますよ!


 と声を出そうとした矢先に、キングポイズントードの口が大きく開いて、猛毒のブレスが放たれた。

 強烈な猛毒を吹きかけられるバートス。



「―――バ、バートス!!」



「もっと奥をさがしてみる~~」



 ええぇえ……


 なにも無かったかのように、周辺をキョロキョロしながら奥に進んでいくバートス。


 いや……いま猛毒ブレスを思いっきり浴びましたよね?


 レッドドラゴンの時もそうでしたが、バートスの体はどうなっているんですか?


 もしかして世間ではあれが普通で私が世間知らずなだけ?


 いやいやいや、違うでしょ!


「うわぁ……あれ魔族でもヤバイよ……」

「ですよね……良かったです。私だけズレてるわけじゃなくて」


「魔界のゴミ焼却場って大量の魔物が送られてくるの。中には生きてる魔物も結構いて、ブレス吐いたり毒吐いたりってのも日常なのよ」


「なんですか、その地獄みたいな場所は……バートスはただのゴミ焼却係としか言ってませんでしたけど」


「バートスさまは本当にそう思ってるだろうね~あたしは最近入社したから昔の事は聞いた話しか知らない―――でもバートスさまは、ずっとそんな環境で燃やし続けていた現場で一番の古株だよ~」


 なるほど、つまりバートスは火以外の耐性も持ち合わせている可能性が高いということですか。


 やっぱりバートスは凄い。

 魔界の職場でも彼を必要としている人たちはいっぱいいるはず……


 本当に彼は私の従者でいいのだろうか。


 どうしても私の中にそんな考えが浮かんでしまう。


 カルラが来たときは凄く動揺してしまいました。

 バートスには悟られないように必死に平静を装いましたが。


 それこそ心臓がバクバクして……このまま彼は魔界に帰ってしまうのではと。



 でも―――今は目の前の事に集中ですね。



「とりあえず、バートスに教えないと」


 あなたの目の前にいるのが、キングポイズントードということを。



 が、伝えようとした矢先にまたしてもアクシデントが起こる。


「ヒャぁあああ!」


 カルラの悲鳴。


 カエルの魔物が、カルラめがけて跳躍して来くる。

 キングポイズントードよりは小ぶりの個体です。


「氷の精霊よ、その凍てつく槍で敵を突け!

 ―――氷結槍魔法アイスランス


 私の放った氷の槍が間一髪間に合い、カエルの魔物に命中した。

 あれ? 一撃で仕留めることができました。いつもより氷槍が大きかったような。もしかしたら私の魔力が上がっているのかもしれません。


 しかし、そんな自分の成長に喜ぶ暇もなく、沼地から次々に影が浮かび上がってきます。


「ゲゲロぉおお……」

「ゲロゲロぉ~~」

「ゲゲッ!」


「リズぅ、いっぱいでてきたぁ」

「ポイズントードですね。かなりの数です。来ますよ!」


 ポイズントード。毒カエルの魔物で、キングポイズントードの下位種。


 ポイズントードたちが沼地から次々に飛び跳ねる。

 下位種といっても、大きさは成人男性よりも大きい。決して容易く倒せる魔物ではない。


 でも―――


 私のレベルが上がっているなら……


 聖杖を天に掲げて力強く詠唱する。


「―――5連撃氷結槍魔法ファイブアイスランス!」


 5本の氷槍が同時に発動して、ポイズントード3体に命中した。

 2本外しました……けど……やった! 


 できました! 三連が限界だったのに!


 私はたて続けに氷魔法をポイズントードに放つ。


「くっ……数が多いです」


 そこへビュンッっと風を切るような音―――


 ポイズントードの長い舌です!


 鞭のようにしなる舌が私めがけて伸びてきます。

 連続詠唱しまくった反動で―――

 魔法の詠唱が間に合いません!


 が、その舌は私の手前でピタリと止まる。


「あたしの友達になにやってるのかな~~カエルちゃん?」


 ポイズントードの舌を掴んだのは筋骨隆々のたくましい腕。


 ―――って!


「ええ? あなた誰ですか!」

「やだ~~あたしの顔忘れちゃったの? カルラだよ~~」


 ええぇ……。カルラ?


 カルラはムチムチしていてキュッと締まっている。しかも出るとこはこれでもかというほど出ている。そんな反則のようなボディに、かわいい小顔がのっているはず。


 でも目の前にいるのは筋肉ムキムキさん。


「あ、ちょい待ってね。

 せ~~の~~カルラ~~~パァ―――ンチ!!」


 筋肉ムキムキさんの強烈な拳が炸裂する。

 ポイズントードは遠くに吹っ飛ばされていった。



「ええっと? も、もしかしてカルラ? ですか?」


「あ! そっか~~あたしの固有能力言ってなかったね。ていうかバートスさまにも見せたことなかったんだった」


 ああ、そう言えば魔族は固有の力を持っているんでした。

 バートスは人間ですが、【焼却】という能力を持っていますし。


「あたしの固有能力は【活性化】だよ~~」


「【活性化】? それでカルラは今の姿になったのですか?」

「そうだよ~筋肉を活性化させてるの~~でも、まだほとんど使いこなせてないんだ。いま出来るのは自分の体ぐらいかな。っておしゃべりしている場合じゃないね」


 そういうとカルラは、ポイズントードの群れに突っ込んでいった。



「―――うらぁああ!! そら!そら!そら!!」



 カルラは自身の拳から繰り出される強烈なパンチで、ポイズントードを吹っ飛ばしていく。



「す、凄いですよ、カルラ!」

「おらぁ~~おら! おらぁああああ!」


 ちょっと口調も変わってますけど……。


 でも、負けてられませんね。

 私も再び魔法詠唱を開始する。



 そして数分後。


 筋肉カルラと私の氷魔法によって、ポイズントードの群れは一掃された。


「や、やりましたよ! カルラ!」

「うんうん、リズもやるじゃん!」


 これだけの魔物たちに自分の力で対応できた。


 私にも成長の余地があるんですね……バートスに会ってから驚きの連続です。



 しかしそんな私の喜びも束の間、状況は一変する。


 ポツポツと頭上からなにかが降ってきた。


「これは……雨ですか!?」

「リズぅ、なんか体が痺れてきたよ……」


 辺り一面に緑の雨が降り始めたのだ。

 沼地の奥に視線を向けると、キングポイズントードの体から毒液が大量に噴出されている。


 聞いたことがあります。

 キングポイントードが降らせる死の雨。


「毒の雨ですか! カルラこれを使ってください!」


 私は町で購入した解毒剤をカルラに渡して、自分も飲み干した。

 しかし、キングポイズントードの毒だ。長くはもたないでしょう。

 毒の雨は一向に止む気配はなくむしろいっそう勢いを増してくる。死の雨は、私とカルラをじわじわと蝕み始める。


 このままでは手持ちの解毒剤が無くなります……


 バートスがどこにいるかさえわかりません。


 豪雨のような毒の雨が、視界を遮り、さらには音すら遮断している。

 私の声量じゃダメだ。



 だったら……



「カルラ、あなたの【活性化】は他人に使うこともできますか?」

「う……うん? どうだろう? やったことないから……」

「やってみてください! 早く!」


「う、うん。わかったよリズ」


 カルラと握った手から力が流れてくる。

 それと同時に私の体内で、なにかがとんでもない勢いで広がって行く。


 肺が喉がどんどん力を帯びていくのを感じた。


 ―――すぅううううう


 私は思いっきり息を吸ってから、大きく口をあけた。


 さあ! いきますよ~~。



「――――――バートス!!

  あなたの目の前にいるのが、キングポイズントードです!!!」



 とてつもない大音量が沼地全体に響いた。

 バートスの返事はありません。

 ですが、構わず私は叫びます。



「聖女リズの名において命じます! キングポイントードを討伐してください!!」



 私の従者でしょ! しっかり返事しなさい!


「リズぅう……」


 私の手を握るカルラの力が弱くなっていく。

 急いで解毒剤を飲ませる。ただでさえ猛毒にさらされているのに固有能力まで使わせてしまったから。


 聖女なら結界を張れるのでしょうが、私には出来ない。


 でも―――私には彼がいる。



 そこへ沼地の奥からいつもの声が―――



「――――――よしきた! リズ! おっさんに任せろ!!」



 フフ、遅いですよ返事が。あとは任せましたよ。





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