第20話 暗殺者視点、おっさんの恐ろしさに気付いてしまう

 ◇暗殺者視点◇



 俺は暗殺者。

 ザーイ第二王子からの依頼で、聖女リズロッテ一行を追ってきた。


「あれが聖女一行か……」


 やつらはキングポイズントード討伐のため、この地に来ていた。

 一行と言っても、聖女におっさんと露出高めな女のたった3人。屈強な戦士もいなければ、凄そうな魔法使いも見当たらない。これが本当に聖女一行なのか?


 だが、俺はプロの暗殺者だ。


 そして、毒使いとしてその道では名が通っている。

 あらゆる毒に精通して、さらにあらゆる毒に耐性がある。


 だからこの程度の毒素はたいしたことは無い……ゴホッゴホッ



 ……今のは普通にむせただけだからな。



 とはいえ、さっさとターゲットを始末してこの場を離れた方が良いだろう。

 いかに俺に毒耐性があるとはいえ、流石にキングポイズントードの毒はヤバいからな。


 俺は猛毒の吹き矢を構える。


 狙いは―――


 聖女ではなくおっさんだ。


 第二王子からの依頼は、聖女の暗殺ではない。


「リズの奴をふたたび一人ぼっちにしてやれ! ギャハハハ!」


 というのが王子の依頼内容。

 爆発アフロに帽子という俺には理解できない出で立ちで、バカ笑いしてたが……まあ依頼人の内情には立ち入らないのが俺のルール。


 にしても……王族貴族では流行りのファッションなんだろうか。


 ぶっちゃけまったく似合ってないのだが。


 いやいや! 依頼人の内情には立ち入らないのが俺のポリシーだった。


 気を取り直して仕事に集中する。


 王子の依頼は聖女リズロッテをひとりぼっちにすること。

 ということでターゲットはおっさんだ。


 ククッ、一撃で仕留めてやる。



 ――――――シュッ!!



 俺の放った毒針はみごとおっさんの背後から首に命中した。


 終りだ。たわいもない。


 へっ……楽な仕事だったぜ。



「むっ……」

「どうしました? バートス?」

「いや、蚊に刺されたようだ」



 ―――なにぃいい! おっさん首筋ポリポリしてる!!



 あり得ない!


 なぜ俺の毒が効かない?



 何かの金属にでも偶然当たって弾かれたのか?


 それとも、俺が毒の調合を間違えた?


 いやいやいや、今朝は早起きしてシコシコいつも通り作ったんだ。


 出来立てホヤホヤの毒だぞ!



 ――――――って!



 おっさん毒の沼地に入ったぁあああああ!!



 うわぁ~~ズブズブじゃねか……肩まで浸かってる……マジかよ。


 おかしい、これはキングポイズントードが吐き出した毒の沼地のはずだ。

 俺のように高い毒耐性を持っていてもさすがにヤバイレベルだぞ。


 ましてや、あいつはだだのおっさん。


 のはすだが……平気な顔して、ズイズイ進んでいきやがる。


 ―――くっ! ターゲットがどんどん離れていく。



 焦りと共に、俺の脳裏に新たな疑問が浮かぶ。



 これ、俺も行けるんじゃないか?



 あんなおっさんが入っても大丈夫なんだ。

 意外にたいしたことはないのかもしれん。


 そ、そうだ。俺の毒耐性は、常人をはるかに上回るからな。


 行けるぞ……今ならおっさんは調子に乗って、聖女たちから離れつつある。

 やるチャンスじゃないか。


 毒の暗殺者として名を轟かせた俺の直感が「これは大丈夫」と俺の背を押してくれる。


 ごくり……


 いやいや、おっさんがいけて俺がいけないとかあり得ないだろっ!


 うぉ~~いったれ!


 ズボズボズボ~~


「おお、全然いけるじゃねぇか――――――ふはぁ? ぐぁあああああ!!」


 全身が痺れるぅううう!


 脳みそがチカチカするぅううう!!


 ヤバイ! このままでは死んでしまう!


 俺は一本の小瓶を取り出して、一気に飲み干した。

「ハイポイズンレジスト」この世に存在する毒対策の薬でも超高価なやつ! 俺の1月分の稼ぎに匹敵するやつ!


 ゴキュゴキュゴキュ~~~


 ぐぁああ、ダメだ! 1本じゃ足りん!


 俺は手持ちの「ハイポイズンレジスト」を立て続けに6本飲み干した。全部だ。


「はふぅ……はふぅ……ふうぅう」


 な、なんとか死なずにすんだ……

 身体の痺れは完全には取れないが。



 クソッ……あのおっさん……なんなんだよ……人間か?



 しかしこの毒は洒落にならん。「ハイポイズンレジスト」6本をもってしても、数分しかもたないだろう。

 速攻でおっさんに追いついて、殺ってやる!


 半年分の稼ぎをつぎ込んだんだ。もう後戻りはできない。


 俺は痺れる身体に鞭うって、必死に前進する。


「ハァ……ハァ……はふぅ……」


 気配を消すとか、そんな余裕はもはやない。

 が……沼地全体を覆っている緑の霧が俺の接近を隠してくれた。


 次第にオッサンの背が視界に入ってきた。



 天は俺を見放してはいない!

 そう俺ほどの暗殺者ともなると、運をも味方につけることが出来るのだ!



 よ~~し、おっさんの背後をとったぞ!


 俺は懐からナイフを取り出した。

 こいつで背後からブスリといってやるぜ。


 もう毒使いとかまったく関係ないが……おっさんを始末すれば仕事は完了なのだ。


 やってやる!


 絶対にやってやる!



 ……って…………え?



 おっさの前に大きな影が現れた。


 人の大きさをはるかにこえるその巨体。

 湿気をふくんだその禍々しくぬめりのある外皮に、ムチのように長い舌。


 ゲコゲコと独特の音が俺の耳に入ってくる。


 いやいやいや―――



 キングポイズントードじゃねぇかぁああああ!!



 なんてタイミングで現れやがる。


 んん~~? とキングポイズントードを見上げるおっさん。


 いやいや、もっと焦れよ! 危機感もてよ!


 そんなおっさんがキングポイズントードを見て呟いた。


「なんだ、カエルじゃないか……こいつはゴミ焼却場で山ほど燃やしたやつだな。こいつの毒はたいしたことない。それよりキングなんたらどこいるんだよ」


 カエルぅうう? なにを言っている!! 



 おっさんの目の前にいるのがキングポイズントードだよぉおお!



 キングポイズントードが大きな口をパックリ開けて、頭を前後に振り始めた。


 ヤバイ! あの予備動作は……キングポイズンブレスがくる!! 逃げ……

 ――――――ふぎゃぁあああああああ!!」


 あれ? ブレスがこない?


 ――――――!?


 おっさんが全部受けてるぅうう!?



 真正面からがっつりブレスまみれになってるぅううう!!



 幸か不幸かおっさんの後ろにいた俺は、キングポイズンブレスの直撃を避けることができた。



 しかし、直撃はしなかったが毒素が強すぎてあの世に行きそうになる。

 虎の子の「スーパーポイズンレジスト」を一気飲みして、なんとかしのいだ。


「スーパーポイズンレジスト」はこの世に存在する毒対策薬で最も高価なやつだ。俺の稼ぎ1年分もする。



「ハァ……ハァ……ハァ……はふぅうう……お、お守りとして持っていて良かった……」



 さぁ……この沼地から抜け出すぞ。

 目的は果たしたのだ。


 そう―――


 キングポイズンブレスを真正面から直撃して、生きているやつなどいないからな。



「お~~い、リズ! キングなんちゃらはいなさそうだ~~カエルしかいないぞ!」



 ―――――――――!??



 生きてんじゃん!!


 ピンピンしてるじゃないの!!



 ダメだ……このおっさんはヤバすぎる……



 俺は必死に沼地から抜け出し、無我夢中でその場を去った。

 そして二度と王国には戻らなかった。



 こうしておっさん暗殺計画は、人知れず失敗に終わったのだった。






 

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